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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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79:従兄のスパルタトレーニンング

 今朝から、リュゼの様子がおかしい。

 あの後、私のベッドで一晩過ごして元気になった彼は、どこか挙動不審な様子を見せている。


(こっちをガン見しているんだけど! 無理やりベッドに寝かせたのを根に持っているの!? 怖っ!!)


 元気になって良かったが、昨日のことで変に恨まれるのは嫌である。


(リュゼお兄様、粘着質な性格をしていそうだし)


 一度目をつけられたら最後、執念深く付け狙われそうだ。


「……あの、お兄様? 本当に大丈夫ですか?」

「僕なら平気だよ」

「そうですか。とりあえず、体調が良くなって一安心しました」

「一晩看病してくれてありがとう」


 そう言うと彼は私に近づき、額に羽のように軽いキスを落とす。


「……!? うぉっ、お兄様!?」

「ん? どうしたの、ブリトニー?」


 いや、「どうしたの」じゃないでしょ、今、キスしましたよね?

 そう突っ込みたいが、彼にとっては、ただのお礼の挨拶かもしれない。


(ムキになって指摘したら、こっちが自意識過剰女みたいになってしまう?)


 キスがお礼になるなんて、イケメンは得である。


「……なんでもありません」

「そっか、ところでブリトニー。君、またダイエットを始めたんだって?」

「ええ、まあ。十キロ太ってしまいましたし、王女殿下にも痩せろと言われていますし」


「なら、僕も手伝うよ。昨日のお礼もしたいし」

「で、ですが」

「僕だって反省しているんだ。ブリトニーが、ストレス発散としてお菓子を食べているのは知っていたし。その原因は僕かもしれないから、気まずいのもあって、今まで何も注意せずに来た。以前ほどひどい肥満ではないから許容範囲だと思って……でも、そのせいで君が苦労しているなら、僕にも責任がある」

「お兄様……」


 従兄がダイエットの味方になってくれるのは、心強かった。

 その日のうちから、仕事の合間を縫って私のダイエットが始まる。

 まつ毛の件は、きちんとアンジェラに伝えたので大丈夫だ。


「ところで、お兄様のお仕事は?」

「大きな仕事は昨日終えたんだ。数日後に王都の水路関係者のところへ行くけれど、それまでは少しだけ時間に余裕がある。それに、部屋にいるとまた王都に住むご令嬢の襲撃に遭いそうだし」

「……わかりました。よろしくおねがいします」


 二人で城の裏庭へ移動し、ランニングを開始する。

 周囲は人払いがされているらしく、どれだけ運動しても大丈夫とのことだ。


「ブリトニー、ハークス伯爵領で行なっていたトレーニングは続けるべきだよ。護身術も普段から訓練しておかないと」

「ごもっともです」


 トレーニング中は、従兄との距離が近い。

 腹筋の際に足を押さえてもらったり、護身術の相手をしてくれたり……助かるけれど、内容はかなりハードなスパルタ式だ。


 約半日に及ぶトレーニングが終わり、私は無事に全てのメニューをこなすことができた。


「頑張ったね、ブリトニー」


 そう口にしたリュゼが腕を伸ばし、私の髪を撫でる。

 彼との距離が近くなり、先ほどの額のキスを思い出した私はぎこちなく彼を見上げた。


(あのリュゼお兄様が、あからさまに優しいなんて。今夜は大雨が降りそう)


 疲れた体で裏庭から建物に入ると、入り口付近に黒子メイドを従えたアンジェラが立っていた。


「ブリトニー、ダイエットを頑張っているようですわね。その調子で、しっかり痩せるのですよ?」

「は、はい……」


 返事をした私は、アンジェラの顔を凝視する。

 彼女の目に、とてつもなく違和感を感じたせいだった。


(まつ毛盛りすぎー!)


 私の話したまつ毛エクステを試したかったのだろう。

 技術面はマリアが黒子メイドたちに指導したらしいので、さっそく覚えたそれを実践したに違いない。


 しかし、王女の目には大量の黒いまつ毛が海苔のように張り付いており、重力で垂れ下がっている。

 盛れば盛るほど良いと思ったのだろうが、不自然極まりない目になっていた。


(眼力を強調したいのはわかるけど、もとの目が小粒だから完全にまつ毛で隠れている……)


 私は、小声でアンジェラに正直な感想を述べた。


「王女殿下、ちょっとまつ毛の量が多いかもしれません。長く太く多ければ良いというものではないですよ」

「……そ、そんな!」


 小声で伝えたので、リュゼには聞こえていないはずだ。


「後ほど、良い本数を見繕いましょうか?」

「そうですわね、お願いしますわ」


 アンジェラは、ちらりと私の背後に佇むリュゼを見て頬を染めた。


(王女殿下まで……)


 もはや、私は従兄の魅了の呪いに驚かなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 額にキスされて嬉しいのは 好意を抱いている相手にされた場合のみ! 自意識過剰男は見苦しいです。 吐き気がします。
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