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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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76:保留の事情と恋愛感情(リカルド視点)

 俺――リカルド・アスタールは、友人のブリトニーにどう接すれば良いのか悩んでいた。

 昨年の夏に婚約を保留にされたため、気まずかったのである。

 だから、彼女に親しげに話しかけられ、さらには香水をプレゼントされて嬉しい半面、戸惑ってしまった。


(ブリトニーは、婚約保留に全く噛んでいなさそうだな)


 僅かだが、婚約保留はブリトニーの意向もあったのではないかと勘ぐっていた。

 そんな疑り深い自分を反省する。


(それにしても、ブリトニーは俺に気があるのか? 異性に対しての垣根が低いのか?)


 普通の令嬢とは少し違う彼女の振る舞いに、ただ困惑するばかりである。

 だが、どこかで、婚約保留後も変わらない彼女に会えて、喜びを感じていた。

 俺だって、ブリトニーとは今まで通り仲良く過ごしたいと思っている。


(彼女との婚約も、まだ諦めたくないしな)


 父の話では、他の領地の令嬢たちから俺宛に婚約の話が多数来ているという。

 だが、俺はその全てを断っていた。

 リュゼはブリトニーとの婚約を「保留」と言っただけで、「拒否」をされたわけではない。


(自分の行動次第で、未来は変えられるはずだ)


 俺は、昨年の夏の出来事を思い出した。



 夏真っ只中に我が家を訪れたリュゼは、俺を見つけると、真っ先にブリトニーとの婚約の話を持ち出して来た。


「リカルド、ブリトニーから話は聞いたよ。君の両親からも、正式に従妹への婚約申し込みがあった。三度目の婚約申し込みだね」


 彼を部屋に通し、詳細を聞く。


「リュゼ、婚約破棄に関しては本当に申し訳なかった。全ては、俺の未熟さが招いたことだ……あの頃の俺は、ブリトニーのことを性格最悪のデブだと思い込んでいたんだ」

「外れてはいないけどね。その性格のことがあって、当初は僕も彼女を君に押し付けようとしていたわけだし」


 リュゼが小声で何かをつぶやいたが、緊張していた俺の耳には入らなかった。


「これから、誠意を見せていくつもりだ。だから、どうか、彼女との婚約を許可してくれないだろうか」


 そういうと、友人は困ったように肩をすくめて俺を見た。


「以前なら、喜んでブリトニーを君の元に送り出したけど。残念ながら、今の君にブリトニーを渡すわけにはいかなくなった」

「どういうことだ?」


「ブリトニーの価値は、年々大きくなっていく。今の彼女は、ハークス伯爵家になくてはならない存在なんだ」

「だが、ブリトニーから、リュゼは自分を早く婚約させたがっていると聞いた。十五歳までに婚約者を探すよう、約束までしていたと」

「ブリトニーは、そこまで君に話していたんだね」

「十五歳までに婚約できなければ、彼女はハークス伯爵家を追い出されるのだろう?」


 俺がそう告げると、リュゼは小さくため息を吐く。


「約束はしたけれど、ハークス伯爵領にあれだけ貢献してくれた彼女を、今更王都へ追い出す気はなかったんだ。僕もそこまで鬼畜じゃないよ。ブリトニーが、本当に婚約者を見つけてくるのは予想外だったけれど」

「そう、なのか」


「リカルドとブリトニーの仲の良さは知っていたし、僕も君との婚約を勧めていた時期がある。でも、二回も婚約破棄をされているから、現実的ではないと思っていた」

「本当にすまない」

「おや、今回謝るのは僕の方だよ。こちらの一存で、婚約の話を保留にするわけだから」

「『断り』ではなく『保留』なのだな? なら、どうすれば俺はブリトニーと婚約できる?」


 可能性があるのなら、諦めるべきではない。


「具体的に言えば、君が領主になるとか……かな」

「は?」

「今の君の立ち位置は微妙すぎる。領地改革で大活躍しているブリトニーを、一役人や一騎士の妻にするというのは、あまりにも勿体ない話だと思わない?」


 リュゼの言い分に、俺は言い返すことができなかった。

 俺はアスタール伯爵家の次男であって、将来確実にこの領地を継げる保証などない。


(確かに、ブリトニーの才能を「騎士や役人の妻」として埋もれさせるのは惜しいかもな)


 どのような立場になっても、ブリトニーは頑張ってくれると思う。

 だが、現在様々な商品を作り出している彼女は生き生きとしていた。

 これからもブリトニーは、たくさんの良いものを生み出し続けるだろう。


「……わかった。俺の将来がはっきりすれば良いんだな?」

「リカルドは、ブリトニーを諦める気はないのかい? アスタール伯爵から、君に他の令嬢との婚約話が来ていると聞いたけれど」

「受ける気はない。俺が今、婚約したいと思うのは、ブリトニーだけだ」


 リュゼは、意外そうに瞬きをした。

 軽い気持ちで婚約話を持ち出したと思われていたのなら心外だ。


「ところで、リュゼ……質問があるのだが」

「ん? なんだい?」

「お前は、ブリトニーに気があるわけではないよな?」


 そう言った瞬間のリュゼの顔は、ちょっとした見ものだった。

 普段は隙のない彼が、ポカンと惚けた表情になったのだ。


「僕が、ブリトニーを?」

「……すまない、変なことを聞いた」


 微妙な空気に耐えられなくなった俺は、そそくさと話題を変えたのだった。



 リュゼが帰った後、自分でもブリトニーとの婚約について考えてみた。

 だが、やはり自分の考えは変わらない。


(俺はブリトニーを異性として好きなんだな。少し前から、そんな気はしていたが)


 今日のリュゼとの会話で、それを確信してしまった。

 だから、彼に対し、あのような馬鹿な質問をしてしまったのだろう。「ブリトニーに気があるのか」などと……

 はっきり自分の気持ちを自覚してしまった今、その想いを抑え込むのは、かなり難しいことのように思われた。


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[一言] やはりリュゼは地獄に堕ちろ!
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