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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
14歳

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68:冷めた王子とぼっち王女

 王太子は、人形のように整った顔で微笑みながら私に話しかけた。


「無事で良かった。アンジェラが、また何かやらかしたようだが」

「いいえ、王女殿下のドレスなどを見立てていただけですので大丈夫ですよ。ハークス伯爵領の化粧品も大量にご購入いただきました」


「……珍しいこともあるものだな。アンジェラが、他の貴族令嬢を無事に返すなど」

「二年前にお会いした時も、平気でしたけど」

「余程気に入られているのだろう。ブリトニーにとって、良いことかはわからないが」


「ちなみに、無事じゃない貴族令嬢はどうなったのですか?」

「髪を根元から刈り取られた令嬢や、ドレスを切り刻まれた令嬢は、まだマシな方だな。ひどい場合だと、取り巻きに命じて陰で暴力を振われたり……」


 私は、かつて読んでいた少女漫画の内容を思い出した。

 アンジェラは、妹のメリルにも同様の嫌がらせを行なっていたのだ。

 主人公のメリルは、兄やヒーローたちの手によって、いつもギリギリのところで助けられるのだが。


「ええと、アンジェラ様に、ご友人は?」

「いない。貴族の取り巻きが数名いたが、彼女たちは先日アンジェラの機嫌を損ね、城を追い出されてしまった。とはいえ、妹に擦り寄ってくる者は後を絶たないが」


 この国の王女様は現在、ぼっち状態らしい。


「あの、殿下はアンジェラ様のことをどう思っておいでですか?」

「困った妹だと思う。同じ親から生まれたはずなのに、アンジェラのことを理解できる気がしない。問題ばかり起こす厄介な存在だ」

「そうですか」

「私が妹を厄介だという理由は他にもある。アレは傀儡にうってつけの人材だ。王太子である私を害してアンジェラの伴侶に収まりたいと願う輩は多い」


 そういえば、少女漫画でも、そんな人物が出てきていた。

 悪い貴族の男が、アンジェラやメリルに言い寄ってくるのだ。

 コロッと騙されて男の言いなりになったアンジェラは王太子を陥れ、メリルは彼の甘い誘いを跳ね除け兄を助けた。

 あとでその男は捕らえられ、アンジェラは大恥をかくことになる。


(兄妹の絆が深まる、メリルが最初に活躍する話なんだよね)


 それからも、アンジェラは事あるごとに兄や妹の妨害をする。

 王になりたいという目的があるというよりは、とにかく兄妹の邪魔をしたいという様子だった。

 彼女は、自分よりも美しい他人が大嫌いなのだ。


(私の場合、元々の姿を知っているから、嫌がらせを受けなかっただけかもしれない)


 それに、殺さず利用すれば、自分の利益になると考えたのだろう。


(話を聞いている限り、アンジェラは性格最悪の王女様だ。けれど、自分で会ってみたら、そこまでひどいとは思えなかった)


 これは、少女漫画の中でもブリトニーがアンジェラの取り巻きだから……そう思ってしまうだけなのだろうか。

 貴族令嬢への嫌がらせにしたって、幼少期のブリトニーも程度こそ違うが、周囲に同様の行動を取っていた。


 自分への自信のなさの裏返しで、とにかく他人を攻撃していたのだ。

 他人の髪を刈ったり、暴力を振るったりするなど、攻撃のレベルは違いすぎるが。


(私がアンジェラに共感するのと同じで、向こうもそれを感じ取っている? ……というのは、考えすぎかな)


 周囲から常にジャッジされるのが普通で、外見で自分の全てを判断されてしまうこの世界は、アンジェラにとって辛い場所であったのだろう。


 おそらく、マーロウ王太子やリュゼのような人間は、その気持ちを味わったことがない。

 外見など、そこまで気にかけなくても何も困らなかったはずだ。

 だから、昔の私やアンジェラの行動が全く理解できない。


(ここには、彼女の思いを理解し、正しい方向へ導いてくれる人物がいないんだ)


 誰もがアンジェラを遠巻きに冷めた目で見ているだけで、彼女の行動を止めない。

 アンジェラと正面から向き合おうともしない。


(私の場合は、途中で前世の記憶が目覚めて更生できたけれど……アンジェラは、最後までこのままなんだよね)


 最終話近くで、意地悪なアンジェラはついに断罪される。

 その相手は、メリルと彼女に恋する王子たちだ。

 ちなみに、そのうちの片方は、ブリトニーの処刑で活躍したルーカスである。

 アンジェラは処刑されることこそなかったが、メリルの息のかかった監視付きで修道院に一生幽閉。

 死ぬことを免れたとはいえ、質素な環境での監禁生活がアンジェラにとって苦痛なのは言うまでもない。


(とはいえ、私は彼女の気持ちを全て知っているわけでもないし、積極的に関わりたいわけでもない。自分のために一番にすべきことは、処刑されないために距離を置くこと)


 私は、せり上がってくる余計な気持ちを飲み込んだ。

 今、ここで自分にできることは何もない。

 そう思い、彼女の部屋の前から遠ざかろうとしたその時……

 アンジェラの部屋の中から叫び声がした。


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