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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
14歳

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66:自然と自然風は別物である

 私を指差したままのアンジェラは、高らかに声を張り上げる。


「あなただって、それだけ変わったのです。できないとは、言わせませんわ!」


 彼女がそう言い終わるのと同時に、黒子のメイドが逃がすまいと私を取り囲む。

 本当に悪役が似合う王女様だ。


(アンジェラをなんとかするまで、ここから一生解放されないかもしれない)


 王都滞在三日目にして、私は最大の危機に見舞われた。

 けれど、彼女は痩せた私を批難した訳ではなく、同じように綺麗に見える方法を知りたいと言った。


 美しくなりたい、周囲から評価されたいと思う心は、大抵の人間なら当たり前に持っているものだ。

 それを変に隠して努力している者を笑う人間より、アンジェラのようにストレートに希望を告げる人間の方が、私には好ましく思える。

 我儘だし、残酷だし、他人に迷惑をかけまくる悪役。

 でも、アンジェラの言葉や行動はいつもまっすぐだ。


(色々やらかしているけれど、腐りきった王女様というわけではないのかも。今の時点ではだけれど)


 とにかく、私はアンジェラを美しくするまでこの部屋から出られない。

 今は、無事に帰ることを考えるべきだ。


 というわけで、販促用に持ってきた化粧品をいくつか取り出して机の上に並べる。

 黒子のメイドには、鏡を用意してもらうよう頼んだ。

 昨日、アンジェラが指摘されていたのは顔の一点。

 彼女が変えたいのは、その部分だと思う。


「王女殿下、鏡をご覧になってください。今日のお化粧は、あなたが指示されたものですか?」

「ええ、そうですわ。これは、美しいと評判の貴族令嬢たちの間で流行っている、自然な化粧というもの。こうして、薄く仕上げることで本来の素材の良さを引き立てるのです」

「…………」


 私は、鏡に映るアンジェラをまじまじと見た。

 確かに、以前の彼女の化粧よりは格段に良くなってはいる。

 しかし、これではアンジェラの要望を叶えることはできないだろう。


「ご指摘させていただいてよろしいですか?」

「ええ、そのためにあなたを呼んだのですから。言いたいことがあるのなら、はっきり言ってちょうだい」

「恐れながら……顔の印象の薄い人間が、自然な化粧をしたところで、すっぴんと大差ありません」

「な、なんですって!」


「ひどいことを言ってしまい申し訳ありませんが、私やアンジェラ様のような顔立ちの人間には、自然な化粧は不向きなのです。こういうのは、もともと目鼻立ちがはっきりした女性を引き立てるもの。いくら薄く化粧をしても、地味顔が引き立つことはありません」

「……発言は失礼極まりないけれど、言っていることは正論ね。それで、どうすれば私は今よりも美しくなれますの?」


 アンジェラは、私の言葉を受け入れた。

 自分の美に関することだけなら、話が通じる王女なのかもしれない。


「私たちのようなぼんやりした顔の者は、自然な化粧風に見える別の化粧をしなければならないのです。子供の頃ならいざ知らず、年頃の令嬢として公の場に出るのなら薄化粧は不向き!」

「だったら、以前の化粧に戻せば良いのかしら?」

「いいえ、それも違います。ただ濃くすれば良いものではありません……というわけで、ハークス伯爵家の化粧品の出番です」


 さりげなく、自領の商品を宣伝してみる。


「面白そうね。では、それらを使って、私を美しくしてみせなさい!」


 アンジェラが宣言すると、黒子のメイドが彼女の周囲に集まり、化粧を落とし始める。

 一から顔を作れということだろう。

 私は、黒子のメイドに化粧を落とされたアンジェラに向き直った。


「では、失礼します」


 伯爵家で作った化粧水、乳液やクリーム、下地を塗っていき、ファンデーションなどを重ねる。

 目は目立つように、けれど下品ではないように仕上げ、鼻筋を通るように自然な陰影をつけ、唇を少し艶めかせる。

 詐欺メイクを施されたアンジェラは、まじまじと鏡を見た。


「こ、これは……程良い自然さが出ていますわね」

「化粧なので限界はありますが、多少はお顔立ちがはっきりしたかと」


 活性炭とオイルを混ぜたアイライナーに、同じく活性炭とハチミツやオイルを混ぜて作ったマスカラ。トウモロコシの粉に色粉を混ぜた茶色系のアイシャドウ。

 頰に乗せるチークの入れ方も、アンジェラに似合うように変えている。

 これだけでも、ずいぶん印象が変わった。


「でも、ブリトニーの目の方が、更にインパクトが強く思えますわ」

「ああ、私の目は……まつ毛に特別なものを使っていて」

「それは、なんですの?」

「加工した動物の毛をまつ毛にくっつけているのです。初めての試みで、使用するにも技術が必要なので、自分を実験台にして、しばらく様子を見ています」


 私のまつ毛の実験に付き合ってくれたのは、メイドのマリアだ。

 手先が器用で石鹸や化粧品の生産に興味を持っている彼女は、実験にも手を貸してくれる。


「そうですの。実験の結果が出たら、その商品を私のところにも回しなさい。あなたのメイドを派遣させるわけにもいきませんから、技術者はこちらで育てます」

「は、はい」

「あと、本日使用したハークス伯爵領の商品を買い上げますわ。他にも、数点見繕っていただけるかしら」

「かしこまりました」


 アンジェラはハークス伯爵家の化粧品全種類を大人買いし、更に大量の予約注文を入れた。


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