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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
14歳

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65:王女のお呼び出し再び

 私は城の外に停めてある自分用の馬車に向かい、滞在先が異なるノーラは別の馬車に乗り込んだ。


「それじゃあ、邪魔者はここで退散するわね」


 彼女は、最後までニマニマした視線を私たちに送ってくる。

 リカルドと私の関係を邪推しているようだ。


 ノーラを乗せた馬車が走り出した後、私たちもまた馬車に乗り込む。

 私を心配したリカルドは、滞在先までついて来てくれた。


「ところで、ブリトニー。一人で男二人を撃退したというのは本当なのか?」

「……そうだけど」


 男二人が倒れている現場を見られ、アンジェラに証言されれば誤魔化し切ることはできない。

 彼の質問に私は素直に頷いた。


「王女殿下が被害に遭いそうだから出て行って……私まで連れ去られそうになったから、お祖父様に習った護身術を試したの」

「ハークス元伯爵直伝か。すごそうだが、お前は十四歳の令嬢なんだ。あまり危険な真似はするな」

「……うん」


 純粋に心配され、むずがゆい気持ちになる。

 馬車は安全運転で私の滞在先へ向かった。


「ブリトニー、しばらく王都に滞在するなら、また会えるだろうか」

「もちろんだよ。ノーラと観光したり、王家の二人に呼ばれたりしそうだけど」


 後半はちょっと気が重い。

 滞在先まで送り届けてくれたリカルドは、私を支えながら馬車を降りると、マリアに引き渡した。


「じゃあな、ブリトニー」

「うん、今日は本当にありがとう。またね、リカルド」


 そう告げると、リカルドは緑の目を細めて微笑んだ。

 なぜか、胸の鼓動が高鳴る。


(今日の私……おかしいかも)


 リカルドを見送った後、私は自室へと戻り、今後の予定を確認した。


 王都にいる数日間は、ノーラと一緒に観光などをするつもりだった。

 流行を調べたり、ツテを使って近隣のご令嬢にハークス伯爵家の商品を紹介するためだ。


 今回の伯爵家の新作商品は、手作りファンデーションだ。

 以前は、材料が見つからずに製作を断念したが、ノーラの領地から原料となる石が見つかった。


 金紅石と呼ばれる石からは、ファンデーションの原料となる成分が採れる。

 これに、同じくノーラの領地で採れた粘土質の泥などを加え、色を整えて、シンプルな製品を作るのだ。鉛のような中毒性はない。

 そうして、二つの領土の共同開発で、無事にファンデーションが完成したというわけである。


 下地には、植物性のオイルから作られたワックスやクリームを塗り、その上からファンデーションを塗ると肌が綺麗に見えた。


(これは、売れると思うんだよね)


 もちろん、他の化粧水や化粧品も売るつもりである。

 少々自虐的だが、「あのブリトニーを、ここまでマシな見た目に変えた化粧品」として、評判になって欲しい。


 そんなことを考えていると、夜中にもかかわらずアンジェラからの使者が来た。

 曰く、明日の午後に王女殿下がお待ちですとのこと。

 いくらなんでも早すぎだ。


(そういえば)


 私は、今日の彼女の格好を思い返す。

 あまり覚えていないが、アンジェラを見た時、そこまで服装に違和感を覚えなかった。

 つまり、おかしなドレスではなかったのだろう。

 酔っ払いにも指摘されていた通り、彼女の化粧は過剰なほど薄かったけれど。


(私が前に言ったことを、気にしているのかな?)


 なんだか、少し複雑な気持ちになった。



 翌日、時間通りに私はアンジェラに会いに行った。

 もはや、逃れることは不可能。ここは、腹をくくるしかない。

 王城は昨日の喧騒が嘘のように静まり返っており、時折役人にすれ違うくらいである。

 私を王女のいる客室へ案内している人物は、もちろん全身真っ黒な姿のメイドだった。


「王女殿下、ブリトニー様をご案内しました」


 広い部屋の奥にある長椅子に、淡いラベンダー色のドレスを着たアンジェラが姿勢良く座っている。

 髪は、少し緩めに結い上げたアップスタイルだ。


 やっていることはめちゃくちゃだが、彼女には長年培ってきた気品がある。

 メイドに案内された私は、彼女の向かい側に座るよう促された。

 菫色の瞳にじっと見つめられると、嫌が応にも緊張してしまうが、以前よりも彼女の放つ雰囲気が柔らかい。

 それはきっと、衣装や髪型によるところが大きいだろう。


(というか、私が前に助言した格好そのものだし)


 アンジェラの唇は、淡いピンク色に彩られている。


「ねえ、ブリトニー。私、あなたに言いたいことがありますの」

「は、はい……! 何でしょうか?」


 痩せたはずなのに、急に発生した汗が止まらない。

 二年前の苦情だと、何事もなく帰れる気がしないのだけれど……


「前回のあなたの意見を参考に、ドレスや化粧を見直してみたの。けれど、私の評価は昨日あなたも聞いた通り。以前より多少はマシになったものの、私が満足するには遠く及ばない」


 昨日の評価というのは、酔っ払いが彼女に投げつけた言葉を指しているのだろう。

 確か「パッとしない」、「冴えない」などと、王女に対して失礼なことを言っていた。


「ですから、あなたに命じます。私を美しくなさい。一人だけ、抜け駆けをするなんて、許しませんわよ!」


 アンジェラは、居丈高に立ち上がると、私の顔をビシッと指差す。


(ええ〜っ)


 過去のお咎めではなかったものの……

 面倒くさいことになりそうな予感がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 『災い転じて福と成す』 化粧品の最高の広告塔が向こうから やって来てくれたとでも思いましょう? 凄まじい面倒事の予感がバチバチですが ・・・ (涙)
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