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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
14歳

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64:今だからできる、お姫様抱っこ

 男たちは、マーロウに呼ばれた兵士に回収されていく。

 いつの間にか、彼から兵士に連絡が行ったようだ。


 王太子を通してなら、残虐すぎる刑罰が実行されることもないだろう。

 ホッと一息つきたいが、まだ問題が残っている。

 アンジェラに私の正体がバレてしまった件だ。


「あなた今、ブリトニーと言いました? もしかして、ハークス伯爵家のブリトニー……なわけないですわね。あの令嬢なら、見ればすぐにわかるでしょうし」


 アンジェラの言葉の端々に、肥満児ブリトニーを見下している様子が感じられる。

 私と同じことを思ったのか、リカルドが王女の前に歩み出て口を開いた。

 どことなく、不満そうな表情だ。


「彼女は、そのブリトニーですが……何か?」


 リカルドがそう言うと同時に、後ろからマーロウがヒョイと私の仮面を取る。


「ブリトニー、そんなにこの仮面が気に入ったのか? 気持ちは嬉しいが、そのまま城の外に出ると悪目立ちしてしまうぞ」

「ええ、そ、そうですね……ぐふっ、ぐふふ」


 まさか、アンジェラが怖くて正体を隠すためだったとは言えない。

 当の王女は、素顔を晒した私をまじまじと見つめている。


「嘘でしょう? あなた、あのブリトニーなの?」

「ぐ、ぐふふ。お久しぶりです」

「本当の、本当に!?」

「は、はい」


 リカルドやノーラ、マーロウ王太子の反応から、私が嘘をついていないのだとわかったのだろう。

 アンジェラが、突如私の腕をとった。


「あなたに、お話ししたいことがありますの! 何度も呼び出そうとしたのだけれど、お兄様や北の伯爵に邪魔されて」

「ん……?」


 呼び出そうとしていたとは、どういうことだろう?

 しかも、王太子やリュゼが私の知らないところで、それを妨害していたらしい。


「とにかく、私と一緒に来なさい!」


 強引に腕を引っ張るアンジェラの方へ、私の体は傾ぐ。


「わわっ?」


 転ばないように足を踏ん張ろうとして、ヒールが折れていることに気がついた。


(まずい。このままでは、バランスが取れなくなって転ぶ!)


 危うく転倒しそうになった私を支えたのは、一番近くに立っていたリカルドだった。


「大丈夫か、ブリトニー」

「ええ、ありがとう、リカルド」


 私を支えながら、リカルドはアンジェラの方を向く。


「申し訳ありません、王女殿下。ブリトニーは、少々疲れている様子です。この通り、靴の踵も折れておりますし……後日、きちんとした形で、改めてお会いいただくことはできないでしょうか?」

「そ、そうですわね。男二人を倒した後ですから、休息も必要でしょう。わかりましたわ、後で使いを出します」

「お心遣い、感謝いたします」


 男二人を倒した……のくだりで、リカルドがぎょっとした表情で私を見る。

 けれど、なんだかんだで、また彼に庇われてしまった。


「王太子殿下、俺はこれから、ブリトニーを滞在先まで送って行きます」

「それがいいな、私は、回収された男たちの事情聴取に付き合うとしよう」


 そう告げると、マーロウはアンジェラに厳しい目を向けた。

 本来なら、末端貴族の事情聴取に王太子が付き合う必要などない。

 自分が主催した催し内での出来事だからという責任もあるが、一番の理由はアンジェラの監視だろう。

 彼は、アンジェラの行き過ぎた私的制裁を警戒している。

 兄妹だというのに、二人の関係はギスギスしていた。


「ブリトニー、後数日は王都に滞在するのだろう? 良ければ、アンジェラに会うだけでなく、私のところにも来てほしいものだ……というわけで、私からも使いを出して良いだろうか?」


 王太子からの誘いも、王女からの誘いも、無下に断ることは難しい。


「はい。勿論です」


 そう返事をする私を、リカルドが難しい顔をして見つめている。


「では、俺たちはこれで失礼します」


 王太子と王女に一礼したリカルド。

 彼は折れたハイヒールを脱いだ方が良いか迷っている私を眺め、そのままでいいと言った。


「でも、歩きにくいし」

「問題ない。少しの間だから我慢しろ」

「えっ……?」


 聞き返した瞬間、私の体がふわりと持ち上がる。

 リカルドが、私を抱き上げているのだ……!


 自分の身に起こった事態を認識した瞬間、顔に血液が集結して熱を持ち始める。

 そんな私たちの後ろでは、両手で顔を覆ったノーラが「キャア、お姫様抱っこだわ」と恥ずかしがっていた。

 しかし、指の隙間から、パッチリと彼女の目が覗いている……


(ノーラ、丸見えだよ)


 呆れつつ友人を見ていると、私を抱き上げたリカルドが歩き出した。

 慣れない体勢で揺られた私は、体を支えるため、慌てて手近にあるものに両腕を伸ばす。

 そうして、しがみついた後、我に返って後悔した。


 私はリカルドの首に両腕を回し、彼に抱きついているような格好になっていたのだ。

 リカルドも私の奇行に動転しているようで、顔から首までが真っ赤に染まっている。


「ご、ごめん、リカルド! わ、私……」

「いや、構わない。怖かったら、しがみついておけばいい。その方が安全だろう」


 ぎこちない動きで目を泳がせたリカルドは、再び城の外に向けて歩き出す。

 そんな彼の後ろから、顔を覆ったままのノーラが「お似合いだわ」とはしゃぎながら付いて来たのだった。


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