63:護身術と暴露
私の声に、酔っ払い二人とアンジェラが反応した。
「なんだ、お前は。パーティー会場なら反対方向だぞ」
「俺たちのことは放っておいてくれ。自称王女にお灸を据えてやるところだからな」
勘違いを続ける酔っ払いたちは、アンジェラをどうにかするまで引かない気らしい。
「その方は本当に王女殿下です。止めておいた方がいいですよ?」
「お前まで何を言っているんだ。怪しい白豚の仮面を付けた奴なんて、信用できるか」
……どうしよう、全く話を聞いてもらえない。
「それより、ちょうど良いじゃないか。この女も連れて行こうぜ!」
「ああ、そうだな。これで二人だし、俺たちに一人ずつ行き渡るよな。冴えない女に、豚の仮面の女だが」
酔っ払いの一人が、下卑た笑みを浮かべながら私に手を伸ばしてくる。
もう一人の方はアンジェラを羽交い締めにしていた……後が怖いぞ。
私は相手に向かって、祖父に習った護身術の構えをとる。
(あの訓練の日々を、私は忘れない……!)
敵の動きを察知した私は、素早く身をかわした。
こちらを捕えようとした相手の懐内に入り込み、肘で思い切り鳩尾を突く。
その勢いを利用して相手をひっくり返し、動きを封じた。
(ええと、確か……ついでに金的だっけ?)
ハイヒールを履いたまま、祖父の教えを忠実に実行する私を見て、もう一人の男が震え上がった。
「そこのあなたも、王女殿下から手を離してください」
倒した男が動けないことを確認した私は、アンジェラを助けるため、相手に向き直る。
「な、なんだ、この白豚女は……! 何者なんだ……!」
脅威を感じたのか、慄きつつアンジェラから手を離した男は腕を振り上げ、覆いかぶさるような格好で攻撃してきた。「か弱い女の子は、先手必勝じゃ……!」という祖父の言葉を思い出すと同時に、私の体は自然に動く。
大きく足を振りかぶり、俯いた男の脳天にかかと落としを決めた。
(あ、ヒールが折れた……)
バキリという音がして、男と折れたヒールが床に転がる。
(やばい。よそ行き用の靴だったのに、リュゼお兄様に怒られそう)
酔っ払いも怖いが、守銭奴の従兄の方が私にとっては恐ろしい。
倒れた男たちの腕を二人まとめてドレスのリボンで拘束した私は、先のことを考えないようにした。
近くにいたアンジェラに声をかける。
「王女殿下、お怪我はありませんか?」
「……問題ありませんわ。よくこの賊を捕えたわね、後で褒美を差し上げましてよ」
「賊というか、酔っ払った貴族ですけどね」
「私を襲った時点で、立派な賊。厳罰が下されなければ、怒りが収まりませんわ」
暗い笑みを浮かべるアンジェラに、私は思わず息を飲んだ。
「厳罰、ですか?」
「ええ、拷問にかけるか、毒薬の実験台にするか……悩ましい問題ですわね」
アンジェラは腕を組んだまま、男たちを見下ろしている。
ニヤニヤしながら、残虐な罰を決めるなんて、普通の十五歳の少女がすることではない。
(救いようのないくらい、悪に染まっているのかも)
どう突っ込むべきか迷っていると、廊下の角からノーラがやってきた。
「お待たせ、助けを呼んで来たわよー! ……って、なんで酔っ払いが二人とも倒れているの?」
戸惑いがちに駆け寄るノーラの後ろから、非常に見覚えのある男性二人が見えた。
「大丈夫か、ブリトニー! 何もされていないか!?」
ノーラを追い越して走って来るのは、リスの仮面を外したリカルドだ。
彼は私の傍まで来ると、両腕を取り、労わるように緑色の瞳を向けた。
リカルドやノーラの後ろから、カエルの仮面を頭の上にずらしたマーロウも歩いて来る。
てっきり、近くを巡回している兵士を呼んでくれるものだと思っていたが……
(ノーラ! どうして、この二人を呼んで来たの?)
私に怪我がないのを確認すると、リカルドは拘束された二人の男に視線を落とす。
思い切り本名を呼ばれてしまった私は、アンジェラを見ることができないまま、その場で固まっていた。












