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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
14歳

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63:護身術と暴露

 私の声に、酔っ払い二人とアンジェラが反応した。


「なんだ、お前は。パーティー会場なら反対方向だぞ」

「俺たちのことは放っておいてくれ。自称王女にお灸を据えてやるところだからな」


 勘違いを続ける酔っ払いたちは、アンジェラをどうにかするまで引かない気らしい。


「その方は本当に王女殿下です。止めておいた方がいいですよ?」

「お前まで何を言っているんだ。怪しい白豚の仮面を付けた奴なんて、信用できるか」


 ……どうしよう、全く話を聞いてもらえない。


「それより、ちょうど良いじゃないか。この女も連れて行こうぜ!」

「ああ、そうだな。これで二人だし、俺たちに一人ずつ行き渡るよな。冴えない女に、豚の仮面の女だが」


 酔っ払いの一人が、下卑た笑みを浮かべながら私に手を伸ばしてくる。

 もう一人の方はアンジェラを羽交い締めにしていた……後が怖いぞ。

 私は相手に向かって、祖父に習った護身術の構えをとる。


(あの訓練の日々を、私は忘れない……!)


 敵の動きを察知した私は、素早く身をかわした。

 こちらを捕えようとした相手の懐内に入り込み、肘で思い切り鳩尾を突く。

 その勢いを利用して相手をひっくり返し、動きを封じた。


(ええと、確か……ついでに金的だっけ?)


 ハイヒールを履いたまま、祖父の教えを忠実に実行する私を見て、もう一人の男が震え上がった。


「そこのあなたも、王女殿下から手を離してください」


 倒した男が動けないことを確認した私は、アンジェラを助けるため、相手に向き直る。


「な、なんだ、この白豚女は……! 何者なんだ……!」


 脅威を感じたのか、慄きつつアンジェラから手を離した男は腕を振り上げ、覆いかぶさるような格好で攻撃してきた。「か弱い女の子は、先手必勝じゃ……!」という祖父の言葉を思い出すと同時に、私の体は自然に動く。

 大きく足を振りかぶり、俯いた男の脳天にかかと落としを決めた。


(あ、ヒールが折れた……) 


 バキリという音がして、男と折れたヒールが床に転がる。


(やばい。よそ行き用の靴だったのに、リュゼお兄様に怒られそう)


 酔っ払いも怖いが、守銭奴の従兄の方が私にとっては恐ろしい。

 倒れた男たちの腕を二人まとめてドレスのリボンで拘束した私は、先のことを考えないようにした。

 近くにいたアンジェラに声をかける。


「王女殿下、お怪我はありませんか?」

「……問題ありませんわ。よくこの賊を捕えたわね、後で褒美を差し上げましてよ」

「賊というか、酔っ払った貴族ですけどね」

「私を襲った時点で、立派な賊。厳罰が下されなければ、怒りが収まりませんわ」


 暗い笑みを浮かべるアンジェラに、私は思わず息を飲んだ。


「厳罰、ですか?」

「ええ、拷問にかけるか、毒薬の実験台にするか……悩ましい問題ですわね」


 アンジェラは腕を組んだまま、男たちを見下ろしている。

 ニヤニヤしながら、残虐な罰を決めるなんて、普通の十五歳の少女がすることではない。


(救いようのないくらい、悪に染まっているのかも)


 どう突っ込むべきか迷っていると、廊下の角からノーラがやってきた。


「お待たせ、助けを呼んで来たわよー! ……って、なんで酔っ払いが二人とも倒れているの?」


 戸惑いがちに駆け寄るノーラの後ろから、非常に見覚えのある男性二人が見えた。


「大丈夫か、ブリトニー! 何もされていないか!?」


 ノーラを追い越して走って来るのは、リスの仮面を外したリカルドだ。

 彼は私の傍まで来ると、両腕を取り、労わるように緑色の瞳を向けた。

 リカルドやノーラの後ろから、カエルの仮面を頭の上にずらしたマーロウも歩いて来る。

 てっきり、近くを巡回している兵士を呼んでくれるものだと思っていたが……


(ノーラ! どうして、この二人を呼んで来たの?)


 私に怪我がないのを確認すると、リカルドは拘束された二人の男に視線を落とす。

 思い切り本名を呼ばれてしまった私は、アンジェラを見ることができないまま、その場で固まっていた。


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