60:カエル仮面とリス仮面
「どうする、ブリトニー? あなたのことを、探しているみたいだけれど」
小声でノーラが聞いてくるが、とりあえず回避することにした。
どうせ、あとで呼び出されると思うし。
「先にマーロウ殿下に挨拶しに行こう。王女殿下に捕まると、すぐには解放してもらえないかもしれないから」
そんな話をしていると、カエルの仮面を被った人物が、挨拶を始めた。
やはり、彼がマーロウのようだ。
人々の合間を縫って、ノーラと共にすっと彼に近づいていく。
そうして、挨拶を終えた王太子の傍にいくと、彼よりも先にリカルドが私に気がついた。
ノーラと喋りながら歩いていたので、声でわかったのだろう。
「ブリトニーと、ノーラ嬢か?」
「うん……リカルド、だよね。リスの仮面が可愛いね」
「言うな。仮面は適当に配られるから、俺の趣味じゃない」
リカルドと話をしていると、マーロウも反応してきた。
「ブリトニー? 君はブリトニーなのか! 久しぶりだな、会いたかった!」
「ええ、お久しぶりです、王太子殿下。相変わらず、お元気そうで何よりです」
「ああ、君が来てくれてよかった! どうだい、この仮面は。全部、私がデザインしたのだが」
「本当ですか、殿下は芸術センスがありますね」
職人顔負けの仮面デザインまで手がけているなんて、器用すぎると思う。
彼からは、私の体型に関するツッコミがないようだ。良かった。
「今日は、仮面パーティーといっても、昼に行われる気楽な集まりだからね。特に難しいものでないことは説明済みだし、無礼講だよ」
「殿下は、なぜカエルのお面を?」
「ん、可愛いだろう? このつぶらな瞳など、会心の出来栄えだと思うのだが」
「……え、ええ、そうですね」
「ブリトニーの仮面もチャーミングだと思うぞ。リカルドの仮面は、彼自身に似ているしな」
確かに、リカルドは真っ直ぐで可愛らしいものね……などと思っていたら、本人が反論してきた。
「お、俺のどこがリスだというのですか……!?」
「そういうところだよ、リカルド。それは君の長所でもあるのだから、誇ればいい」
マーロウの言葉に、反論できないリカルド。
王太子は独特の感性を持っているが、それとは別に自然と人を惹きつける魅力を備えている人だ。
「それはそうと、ブリトニー。リュゼから、君が婚約者を探しているのだと聞いたぞ。微力ながら、私も力を貸したいと思う。なんなら、わたしの妻になるか?」
口の軽いリュゼに憤慨していたら、マーロウから爆弾が投下された。
幸い周囲の参加者たちは、彼のいつもの冗談だと思っているようで、特に反応は示していない。
「田舎令嬢の私には、荷が重すぎますよ、ぐふふ」
こちらも、冗談のノリで返答する。
(あれ、おかしいな。痩せたのに笑い方が変わっていない……)
原作補正の力が働いているのか、「うふふ」と可憐に笑えない。
「ははは、優秀なブリトニーなら問題ないと思ったのだが。まあ、その話は一旦置いておこう。私は、会場を回るという仕事があるから、あとはリカルドに任せようと思う」
カエルの仮面を被った王太子は、淡い金の後ろ髪をなびかせながら、軽やかにその場を去っていった。
「まったく、マイペースな方だ」
リカルドの感想には同意する。
マーロウの性格は、かなり独特だ。
「リカルドは、王太子殿下と仲良くなったの?」
「ああ。以前、リュゼを介して紹介されて、王都では仲良くしていただいている」
取り巻き街道まっしぐらといった感じらしい。
リカルドは、原作通りに王都で活躍することになるのだろう。












