59:恐怖の白豚令嬢捜索隊
太った令嬢は、「自分はハークス伯爵家の令嬢ではなく、人違いだ」と言う旨をノーラに伝えていた。
しかし、仮装パーティーとは、ちょっと不便な催しである。
物語の中にあるような仮面舞踏会のように、互いの正体を明かさないという趣旨のものなのだろうか。
(マーロウ王太子殿下はどこ……?)
多分、会場内にいるのだろうけれど……全員仮面を被っているので、誰が誰だかわからない。
私は不便と感じているが、参加者たちは楽しんでいるようだった。
入り口で仮面を渡された際に、「本日は無礼講だ」ということも伝えられているので、好きに会話を楽しめる雰囲気を気に入ったのかもしれない。
とりあえず、ノーラらしき女性に話しかけてみる。
「あの、もしかして……ノーラ?」
「えっ……? そ、そうですけど」
黒い鳥の仮面を被ったノーラは、恐る恐るといった風に私の様子を伺う。
「……あなたは、どちら様ですか?」
「…………」
うん、そうだった。ノーラは、未だに私の体型イコール太いと思い込んでいるのだ。
白豚の仮面をつけている私が、誰だかわからないのだろう。
「私はブリトニーだよ、ちょっとだけ痩せたんだ」
「ええっ? もはや別人みたいなのだけれど、その声は確かにブリトニーね」
ようやく彼女も納得してくれたようで、二人で会場内を見て回る。
この日のノーラのドレスは、とても彼女に似合っていた。
「それにしても、ノーラ。誰が誰だかわからないから、声をかけようがないね」
「そうね、髪の色や仕草で判断するしかないわ。私は、それで失敗したわけだけれど……」
少し離れた場所にオレンジがかった金髪の、リスの仮面を被った男性がいる。
「あそこにいるのって、リカルドかな……?」
「……ぽいわよね。その隣にいるのは、王太子殿下かしら?」
つぶらな瞳の可愛いリスの仮面を被ったリカルドなんて、ちょっと面白い。
そんな彼の隣には、なぜかカエルの仮面を被った王太子がいた。
(なぜ、そのチョイスなの?)
主催者である彼は、きっと好きな仮面を選べたはず。
(また、独特な感性が働いているのかな)
私たちは挨拶をしに彼らの方へ行こうとしたが、同時に近くでちょっとした騒ぎが起こった。
「ちょっと、あなた。扇の先端が私の腕に当たりましたわよ。それにしてもまあ、ずいぶんと流行遅れのデザインですこと」
どうやら、招待客同士で揉めているようだが、高飛車に相手を見下している猿の仮面の令嬢の声は……大変聞き覚えがある。
少し濃い金髪の髪も、周囲にうごめく黒子たちもだ。
(出たー! アンジェラー! 仮面の意味なし!)
またしても、私は悪役令嬢のアンジェラに遭遇してしまった。
周囲の貴族たちも、高慢な言動と周囲の黒子の存在で、相手がこの国の王女だとわかったのだろう。
ハラハラした様子で、無礼講とはいえ、誰も口を出せないでいる。
「まあいいわ、私は人を探しているから、長々とあなたの相手をしている暇はないのよね」
その割に、ものすごい暴言を吐いていたが、アンジェラは気にせず嘆息した。
「それにしても、ブリトニーはどこなのかしら? この催しに参加すると聞いたのだけれど」
それを聞いた私は、戦慄する。
(なんで、私? まさか、二年越しの恨みをぶつける気なの!?)
二年前、私はアンジェラの格好に散々ダメ出しをしてしまった覚えがあった。
でも……
(いくらなんでも、根に持ちすぎだよ……!)












