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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
14歳

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58:白豚仮面、誕生

 王都の学園でのパーティーが無事に終わり、私は滞在先でまったりくつろいでいた。

 年配の貴族たちには、なぜか祖父のファンが多く、彼の友人で王都に住んでいる侯爵家の夫婦は、祖父の依頼で快く私の滞在を受け入れてくれた。


 ちなみに、アンジェラ渋滞は、あの後しばらくしてから解消されたようだ。

 まったく、迷惑な悪役王女である。


 私は翌日開かれる城での催しに向けて、顔パックと筋トレに励んでいる。

 侯爵夫妻への御礼として、そして王宮でばらまく賄賂として、石鹸や化粧品類もたくさん持って来ていた。

 これで、良い婚約話が舞い込んでくればいいな。


(さて、早く寝るか。夜更かしをしていると、肌の再生ができなくなってしまう)


 前世の雑誌に載っていたが、夜の十時から翌日の二時までは、肌の再生を促すホルモンが出やすいのだとか。

 その後、入眠後の三、四時間ならいつでも良いなんて説も出たので、どちらが本当なのかはわからないが。死んでこちらの世界へ来てしまった以上、知る術はない。


 そうして、あっという間に夜が明けて、私はメイドのマリアに叩き起こされた。


「ブリトニー様、起きて下さい! お城へ向かう準備をしますよ!」

「うーん、今起きる」


 時間をかけてマリアにドレスを着せられ、メイクを施され、にわか美少女が形成されていく。

 私は、この日も過去の婚約時の姿絵が成長した姿に化けた。


「わあ、ブリトニー様、今日も美人になりましたね。いい婚約者、ゲットできるといいですね」

「ありがとう、マリア。頑張ってくるね」


 気合を入れた私は、馬車に乗り込んで城へと向かう。

 城では友人のノーラとも合流する予定なので、二人で行動することになるだろう。

 悪役令嬢アンジェラには関わらないように、隣国の王子ルーカスには見つからないように、そして婚約者候補をしっかり確保できるように、心して催しに参加しなければならない。


「それにしても、催しってなんだろう?」


 マーロウからは、手紙で「何があるかは、来てのお楽しみだ」と伝えられている。

 他の参加者たちの列に並び、催し物の会場らしき大広間へ向かったのだが……


(なんじゃこりゃー!)


 広い会場の中は、芸術的なデザインの動物風の仮面をつけた人々でごった返し、仮装大会のような有様になっている。仮面舞踏会だろうか?


(獅子に虎に猿、兎に猫に馬……一体、どうなっているの?)


 大広間に入ると、大広間の隅にいた侍従から「こちらをどうぞ」と同じような仮面を渡される。

 渡される仮面は特に決まっておらず、ランダムのようだ。

 

(さて、私の仮面はなんの動物かな?)


 もらった仮面の表面を見てみると……ある意味、やっぱりと言うべきか、白豚だった。


(ランダムで渡されて、この引きの良さ)


 少女漫画と関係のない催しですら、ブリトニーは白豚令嬢の運命から逃れられないらしい。


(か弱い令嬢にも仮面が行き渡るのに、豚を入れるなんて。わりと鬼畜な催しだな)


 仮面のデザイン自体は可愛らしいものだが、複雑な気持ちになることは間違いないだろう。

 花模様が書かれた白豚の仮面を被り、会場の中を歩き回る。

 ノーラも、ここに来ているはずだ。彼女とは、会場で落ち合う予定となっていた。


(まさか、仮面をかぶることになるとは思わなかったけれど。ノーラなら、背が高いからすぐに見つけられるよね)


 身長を目印にして蠢く人々の間を縫い、目ぼしい令嬢の方へと向かう。


(太っていないから、障害物として冷たい目で見られなくて済む……!)

 

 仮面は白豚だが、体型は以前よりスリムになった。

 前回のパーティーとの違いが際立ち、ちょっと嬉しい。

 少し歩くと、近い場所にシャンパンゴールドのドレスを着て、鳥の仮面をつけた背の高い女性が立っている。


(それっぽい雰囲気だけれど、ノーラかな?)


 声をかけようかと戸惑っていると、その女性は近くにいた人物に話しかけた。


「あの、ハークス伯爵家のブリトニー様ですか?」


 彼女が話しかけたのは、黒髪で象の仮面を被る……別の太った令嬢だ。


(ノーラ、ごめん。それ、人違い……)


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