57:二年後に聞いた真実
しかし、リカルドは、その言葉を否定して身を乗り出し、私の手を取った。自然と向き合う形になる。
「それは違う。確かに、当時のお前の容姿に落胆したというのは事実だが、俺が婚約を破棄したのは、つまらない誤解のせいだった……実は、初対面のときより以前に、こっそりお前に会いに行ったことがある」
「え、そうなの?」
「ああ、そこでのお前は、使用人をひたすらいびっていた」
私は、彼の言葉を聞いて納得した。
婚約破棄以前ということは、きっと私の過去の記憶が目覚めていない時期だ。
あの頃の私は、本当に紛うことなき性悪デブスで、それを見ていたのなら、誰でも婚約破棄をしたくなるに違いない。
「もちろん、今では、それは違うと知っている」
「……え?」
「リュゼに聞いたんだ。お前が、使用人からいじめられていたと」
「いや、そんなことはないよ。私が使用人につらく当たっていたのは事実だし」
確かに、使用人から良い扱いをされてこなかったけれど、それはお互い様というものだろう。
ブリトニーの方も、相当ひどいことをやっている。
「ブリトニーと過ごした今なら、わかる。お前は、あんな真似を平気でする奴じゃない」
「リカルド……」
「まあ、今更そんなことを言っても、俺の犯した罪は消えないが、後悔はしているんだ。あの時、婚約破棄をしなければ、どうなっていただろうと」
「そうだねえ、リカルドが婚約者だったら、喋りやすいし良かったかもね」
「……!!」
うつ向けていた顔をガバッと上げた彼が、私の目を見つめる。
「えっと、リカルド?」
「あ、いや、なんでもない」
なんでもないなどと言っているが、明らかに彼の様子はおかしい。
頭を抱えて、自身に「俺の大馬鹿者」などという、自虐的な言葉を吐いているし。
「どうしたの、具合でも悪いの?」
「本当に、なんでもないんだ。冷静になろうとしているだけで」
「……全く、冷静に見えないんだけど。そんなに気にしなくていいよ、もう済んだことだし、私はなんとも思っていないから」
「……!!」
また顔を上げた彼の表情は、なぜか悲壮感を漂わせていた。
責めていないって言っているのに。
「ブリトニー、ちょっと来てくれ」
そう言ったリカルドに連れ出されて向かったのは、静かな裏庭だった。
ここはパーティーのメイン会場から少し離れているので、生徒達もいない。
「リカルド、どうしたの?」
「お前に、言いたいことがある」
彼は真面目な顔をして、私の両肩に手を置いた。
「仮定の話だが、もし……その、俺が再びブリトニーに婚約を申し込んだとしたら、受けてもらえるだろうか? 虫の良い話なのはわかっているし、気を悪くしてしまったら申し訳ない」
思ってもいなかった話が出て、私は目を丸くしたまま口を開いた。
「それは、助かるかも。婚活しなくていいし、リュゼお兄様に王都に送られずに済むし……あ!」
大事なことを思い出した私は、一度話を切ってリカルドの深緑色の目を見つめた。
「そういえば、リカルドは領地を継ぐの? それとも王都で、騎士や役人の仕事をして暮らすの?」
「まだ、決まっていないが」
「私、王都で暮らすのは嫌なんだよね。だから、婚活の相手はできれば、田舎の人の方がいいかも」
「……!? ……そ、そうなのか」
難しい顔になったリカルドは、何かを考えている様子だったけれど、それ以上婚約について語ることはなかった。
次男だけど優秀な彼なら、きっと引く手数多。よその貴族も、優良物件であるリカルドを狙っていると思う。












