50:白豚令嬢、ダイエットに成功する
季節は巡り、私は十四歳になった。
祖父らによるブートキャンプを続けた結果、私の体重は四十キロ台後半に突入している。
最初は辛かったが、厳しい訓練にも徐々に体が慣れてきた。
おそるべし、護身術指南。
そして、祖父に似たのか、私の護身術の才能が開花してしまった。
年配の兵士たちは、若い頃の祖父を見ているようだとはしゃいでいる。
そして、体重が四十キロ台後半になった今、私の外見はおそらく白豚に見えない……はず。
ドレスの中にある、お腹やお尻の周りも、だいぶ引き締まっている。
私は身長が低めなので、十二歳当初の目標は四十キロだった。
しかし、今は十四歳で身長も少しだけ伸びたから、このくらいの体重でいいのではないかと思っている。
せっかく目に見えて痩せてきたのに、今ダイエットを止めるのは悔しいという気持ちもあった。
けれど、これ以上は体重が減らないし、減ったとしても体がしんどくなるだろう。
前世で必要以上にダイエットをした結果、体に力が入らず辛い思いをしたという話を聞いたことがある。
それから、祖父はこの春、正式にリュゼに伯爵の位を譲り渡した。
伯父と伯母が幽閉された今、私がないがしろにされる心配もなくなり、リュゼも比較的平和に伯爵になったと言える。
私の住むハークス伯爵領は、国の中でも北のほうにあるので、リュゼは「北の伯爵様」などと呼ばれ、公の場では社交界の令嬢に熱い視線を送られているようだ。
(なんとなく、「北の伯爵様」という響きを聞いたことがあるけど……どこで耳にしたんだろう?)
原作の少女漫画で記述があったのだと思うが、リュゼ自身は登場していないので気にしなくてもいいのかもしれない。
ノーラやリリーも、未だに彼に熱を上げている。
たまに届く手紙には、必ずと言っていいほど、リュゼの近況を知らせて欲しいと書いてあった。
従兄なら、いつも元気に金勘定をしているよ。
リカルドやリリー、ノーラの他に、近頃の私は王太子のマーロウと手紙のやり取りをしている。
今も、目の前には彼から届いたばかりの手紙があった。
趣味の話をできる人間が少ないらしく、なぜか同志認定をされた私の元に、手紙が送られてくるのだ。芸術的な詩と共に……
毎回返信用の詩を考えるのに苦労する。
(この間なんて、書きかけの詩がリュゼに見つかって大爆笑されたからなあ)
外面の良い従兄は、外では爆笑中でも上品に肩を震わせるだけだ。
しかし、私しかいないときは普通に笑い声を上げる。
リュゼの行動に複雑な気持ちになりつつ、私はマーロウ王太子の手紙を開けた。
中には、いつもの詩や趣味の話題の他に、「城で面白い催しがあるので、ぜひ王都に来てほしい」という内容が書かれている。
リカルドからも、「学園主催のパーティーがあるから校内見学に来ないか?」というような手紙が来ていた。
この王都行きフラグの多さは、一体なんなのだ。
原作の呪いなのかと疑いたくなる呼び出しの多さである。
とはいえ、もうそろそろ本格的に婚約者候補を探し出さないとまずいのは事実。
リュゼの決めた十五歳の誕生日という期限まで、あと一年もないのだから……
(なんて残酷な現実なの……!)
もう、王都に行って誰でもいいから見繕って来るしかない!
十三歳の歳は領内でいろいろな問題が発生したから、あまりパーティーに出られなかった。
今年を逃せば、アンジェラの取り巻きになるリスクが激増してしまう。
私は、絶対に処刑されたくない……!
(嫌だけど、王都へ行くお誘いは受けた方が良さそうだな)
ハークス伯爵領付近の田舎では出会いに限りがあるし、出会ったことのある年頃の男子は、皆ブリトニーを敬遠していた。婚約できる気がしない。
厳しい状況なのは王都でも同じだけれど、数を打てば当たる気がする……運が良ければ。
というわけで、私は友人のノーラを誘って王都へ行くことにした。
リカルドの従姉妹であるリリーも誘ったのだが、今回はリュゼが同行しないので気が乗らないとのこと。正直者め。
伯爵になりたてのリュゼは忙しく、今は領地を離れることができないでいる。
私の主な仕事はリュゼの補佐と商品開発だが、リュゼ自身が「王都の流行をその目で見て来て欲しい」と言ってくれたので堂々と出かけられた。
これで手ぶらで帰ったら、彼から何を言われるかわかったものではない。
きちんと仕事をしてこようと思う。
今回は、ノーラとは別々で王都に行くことになっていた。
リカルドの学園を見るため、私が一足先に王都へ向かうからである。
ノーラは、学園にはあまり興味がないようだった。
王都へ出向くに当たって、お付きのメイドの一人に、子供時代に勉強を教えていたマリアを連れて行くことにする。
彼女は着実にステップアップし、今では私付きのメイドの一人に昇格したのだ。
もう一人の子供、ライアンは、猫の手も借りたい状態のリュゼに引き抜かれてしまった。
今は新伯爵の部下見習いとして、屋敷で修行中の身だ。
ちなみに、ライアン自身は、新しい知識が吸収できると言って喜んでいるらしい。
ライアンは、子供たちへの教師役を後輩に譲り渡したそうで、今でもハークス伯爵家で働く使用人の子供たちは、算術や文字の読み書きができていた。
こうして、代々知識は受け継がれて行くのだろう。












