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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
13歳

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49:祖父たちによるブートキャンプ

 窓の外、灰色の曇り空を見上げながら、私は祖父の部屋にある長椅子に腰掛けていた。

 季節はまだ夏だが、曇りや雨の日は比較的涼しく、白豚令嬢にも優しい。

 伯父や伯母が起こしたあの誘拐事件を通して、ハークス伯爵家には良い変化が起こっていた。


(なんとなく、家族関係が以前よりも良くなった気がするんだよね)


 頼りない当主だった祖父の活躍により、私やリュゼ、比較的新しい使用人たちも彼を見直すようになっている。

 ギスギスしがちだった、貧乏伯爵家の空気も和らいでいた。

 心配の種が一つ二つ減ったからか、従兄のリュゼの表情も、少しだけ穏やかになっているようだ。


「それはそうと、ブリトニー。アスタール伯爵から、帰って来たリカルドの様子がおかしいという手紙が来たのだが……」


 テーブルを挟んで向かい合う祖父が、世間話を始める。

 彼とアスタール伯爵は親しい仲で、よく手紙のやり取りをしていた。

 リカルドの婚約破棄に対する怒りも薄れてきた今では、彼の話題も普通に出てくる。


「あの、リカルドが、おかしいとは……?」


 聞けば、アスタール伯爵から「息子が何かに取り憑かれたみたいに、剣の修行ばっかりしていて怖いんだけど」との連絡が来たとのこと。

 リカルドは完璧主義なところがあるみたいで、誘拐事件で敵に瞬殺されたことを未だに悔いているようだ。

 でも、努力家なところには好感が持てる。

 あの事件を経て、私も、身を守ることの大切さは痛感していた。


「お祖父様、そのことに関して、私からもお願いがあります」

「なんだい? ブリトニーからのお願いなら、なんでも聞いてあげよう」


 相変わらず、祖父は私に甘い。

 それをいいことに、私は彼にある提案をした。


「実は、私もリカルドのように剣術を習いたいのです。とは言っても、彼とは違い、最低限の護身のためですが」

「じゃが、ブリトニーは女の子だしのう」

「今回のことで、少し思ったのです。護身術を習っていれば、敵から逃げ切れたのではないかと。お祖父様はリュゼお兄様に伯爵の位を譲り渡せば、そのあとは比較的時間に余裕ができますよね。もし可能でしたら、その時間で私に護身術の基礎を教えていただけないでしょうか」


 いくら歳をとっていても、この地を守った英雄である祖父は、今の私よりかなり強いだろう。

 彼が話を受けてくれるか心配していたが、自分を頼る孫のお願いに、ハークス伯爵は、あっけなく陥落した。



 そういうわけで、その後、私は祖父から護身術を学び始めた。

 もともと、ほとんどの仕事はリュゼが仕切っていたのだが、残りの仕事も少しずつ従兄に渡しているようで、祖父は手の空いている時間が増えているのだ。

 今も、彼は、庭で私に護身術の基本を教えてくれている。

 ……その内容には、少々疑問を覚えるけれど。


(これって、普通の護身術だよね?)


 孫と一緒に過ごす時間が嬉しいのか、はりきった祖父は、いろいろな技を次々に伝授してくれる。

 なぜか、祖父を慕う年配の部下たちも一緒になって、ノリノリで明らかに護身の域を超えている技まで教えてくれた。


(ねえ、これ……本当に護身術なの? 過剰防衛、むしろ攻撃じゃない?)


 不安を覚えるも、武術は素人である私は、歴戦の戦士である彼らに何も言えない。


(もしかしたら、本当にこれが護身術の基本なのかもしれないし)


 皆、祖父と同年代だが、まだ現役を退かない兵士だけあって筋肉ムキムキである。

 この世界の平均寿命は、六十歳から七十歳。

 全員が祖父世代とはいえ、この世界では子供ができる年齢が早いので、彼らの多くは五十から六十歳くらい。現代日本の感覚とは違うので、年寄りだと侮ってはならない。


(護身術を習うだけなのに、めちゃくちゃしんどいし……! なんで皆、そんなに俊敏なの?)


 彼らとのハードなトレーニングが功を奏したのか、十三歳の終わりには、私の体重は五十キロを切った。心なしか、筋肉がかなり付いたように思える。

 私は心の中で、この訓練を年配兵士たちによるブートキャンプと呼んでいた。

 詩や音楽は相変わらずの出来だが、ブートキャンプによる筋トレや護身術、剣術指南は私に向いていたようだ。

 なぜか、めきめきと実力がつき、私は武闘派寄りの令嬢になりつつある。


(ダイエットは成功しているし、まあいいかな……)


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― 新着の感想 ―
[一言] 武闘派令嬢へジョブチェンジですか (笑) どうせなら、同年代最強令嬢を目指しましょう ♪
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