43:白豚令嬢と謎の集団
流通部門の横領の件で、伯父と伯母はすぐに捕らえられ、彼らの自宅に軟禁となった。
この領地に刑務所はないが、山の麓に囚人を閉じ込めるための大きな塔があるので、近いうちに、彼らはそこへ移されるだろう。
事件のほとぼりが冷めるまで、各地のパーティーへの参加も見送ることになった。
参加したところで収穫はゼロだから、別に構わないけどね。
年の近い男子はいるものの、皆正直者なので白豚令嬢には無関心だ。わかりやすい態度で一線を引かれている。
先に痩せないことには、どうにもならなさそうであった。
お隣のアスタール伯爵領では、元婚約者で現商売仲間のリカルドが帰ってきたようだ。
今は学園の夏季休暇で、一ヶ月ほど実家のアスタール伯爵領で過ごすらしい。
リュゼに会うため、休暇中にハークス伯爵領にも来るそうだ。
(何故だかよくわからないけれど、この二人は仲良しだよね)
リカルドはリュゼに懐いているし、リュゼは実の弟のように彼に接している。正直、ブリトニーよりリカルドを可愛がっていた……
見た目も中身も彼のほうが可愛いというのは、私も同感だけれど。
そんなことを考えつつ、私は今日も暑い中を朝から乗馬の練習に向かうのであった。
練習場所は伯爵家の庭と、屋敷周辺の草原だ。一応、護衛付き。
「ひい、ひぃ……」
「ブリトニー様、もう少しですぞ!」
中年男性の乗馬教師が励ましてくれるが、やっぱり外での運動は暑い。
今は、馬に乗って草原を駆ける練習だ。
しばらくすると、数頭の馬がこちらに向かって走ってきた。
そのうち一頭に乗っているのは、オレンジがかった金髪の少年である。
「リカルド!」
元婚約者のリカルドとその護衛達がハークス伯爵領にやってきたようだ。
「久しぶりだな、ブリトニー」
そう言って馬から降りたリカルドは、少し会わないうちに背が伸びて大人っぽくなっていた。
前は外見も子供にしか見えなかったが、成長した見た目は……少しいい感じだ。
パーティーでは、かなり令嬢に人気が出るだろう。
「お前、また痩せたか?」
「最後に会ってから一、二キロほど痩せたかな」
「石鹸の件では、色々と助かった。兄に権利を渡さないでいてくれて、ありがとうな」
「ええ、あなたに黙って勝手に取引相手を変更するわけにはいかないから。こちらこそ、学園の授業の情報をありがとう。勉強になったよ……それに、あなたのお父様、アスタール伯爵にも、色々とお世話になっているんだ」
馬から降りてリカルドと向き合うが、彼の視線は私の馬に向いている。
「……ブリトニーは馬に乗れたのか?」
「前に、乗馬の練習をしたいという話をしたでしょ? 今は練習中で、基本的な動作ができるようになったところ」
「そうか、お前も頑張っているんだな」
「まあね。それはそうと、リュゼお兄様に用事だよね? 屋敷まで送って行くよ」
授業中だが、客人を放置というわけにもいかない。
ここから屋敷までは、少し距離があるのだ。
教師に許可を取った私は馬に跨り、屋敷を目指そうとしたのだが……
同時に屋敷とは反対の方向から、大量の蹄の音が聞こえてきた。
「……なに、この音?」
リカルドも訝しげに音のする方向を向いている。
護衛たちの間に緊張が走った。
「リカルド様、ブリトニー様、屋敷へお逃げください! 武装している集団が迫ってきています!」
「ええっ!?」
一人の護衛が叫び、私たちは慌てて馬で屋敷へ向かって駆け出す。
しかし、問題があった。乗馬歴の浅い私は、まだ操縦の腕に難があるのだ。
ある程度のスピードは出せるものの、やはりリカルドや乗馬の教師に後れを取ってしまう。
「おい、ブリトニー。もっと飛ばせ!」
「限界まで飛ばしているんだけど!」
馬にも頑張ってもらい、スピードを上げているが、やはり二人ほど速くは走れない。
(そういえばこの馬、ここへ来る前にめちゃくちゃ餌を食べたり水を飲んだりしていたな。草原を駆ける練習もしていたし……そのせいで、速度が出ないのかもしれない)
護衛を撒いたのか、数頭の馬がこちらに駆けて来るのが見えた。
焦ってもっと速く走ろうとするのだが、やはりこれ以上は速度が上がらないようだ。
「リカルド、先に行って! お祖父様とリュゼに連絡を!」
「断る、女一人を見捨てて行くなんて、そんな真似ができるか!」
リカルドは、私の提案を却下した。意外と男気のある性格のようだ。
彼は、自分の代わりに教師に命令して伯爵家へ向かわせる。
……やっぱり元婚約者は人のいい人物だった。
こんな場所で、それを発揮しなくても良いのに……。












