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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
13歳

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36:伯父と伯母VS従兄

 部屋の中に入ると、リュゼの両親の攻撃対象が私に変わった。

 父の姉である伯母はすでに嫁に出た身、そして伯父はその婿。

 以前からこの二人は、長男だった父の娘である私を邪魔だと思っているのだ。

 さっさと私を追い出し、祖父を引退させて、この屋敷を自分たちのものにしてしまおうと目論んでいる。


「いい案を思いついたわ! ブリトニーがこの家を出て行けばいいのよ! この際、老人の後妻でもいいから適当な家に嫁にやって……」


 予想通り、リュゼの母――伯母が私に矛先を向けた。伯父もそれに便乗する。


「そ、そうだ。金食い虫のブリトニーがいなくなれば、伯爵家の出費も減るだろう。むしろ、こちらが金をもらえるかもしれん!」


 本当に贅沢をすることしか考えていない二人に、私はげんなりした。

 身勝手な言い分を並べる彼らは、自分たちが使うお金がどこから来るのか理解できているのだろうか。


(……まあ、過去の私も、他人のことをとやかく言えないけれど)


 呆れて物も言えない私の代わりに、従兄が反論してくれている。


「ブリトニーは、あなたたちのような金食い虫ではありませんよ。むしろ、今はハークス伯爵領に貢献してくれています」

「そんなはずはっ! だって、ブリトニーはあれだけ無駄遣いをしていたじゃないの! アスタール伯爵家との婚約の話も駄目にして……」

「それは、いつの話ですか? 現在の伯爵家の収入増加は、ブリトニーの活躍によるところが大きい。婚約の件は残念でしたが、王太子殿下の覚えもめでたい彼女を、理由もなく追い出すなんてできません」

「リュゼ! あなたの意見は関係ないのよ、ここは当主であるお父様に意見をお聞きしたいわ!」


 伯父と伯母に詰め寄られた祖父は、彼らをじっと見つめて口を開く。


「誰がなんと言おうと、可愛いブリトニーは、どこにもやらん。それから、お前たちとの絶縁云々に関しては、リュゼに一任してある」

「リュゼは、まだ十八歳になったばかりですよ! そんな判断を下せるような歳ではありません!」

「いや、リュゼは万が一に備え、王家に根回しをしているらしい。彼と王太子殿下の仲の良さは、知っておると思うが……以前、殿下が秘密裏にうちの家を訪問されたのじゃ。その折に……」

「そんな、リュゼ! 嘘でしょう? 私たち、家族よね?」


 長い髪を掻きむしった伯母が、また金切り声をあげた。

 普段はリュゼのことなど放置しているくせに、こういうときだけ血のつながりを主張するようだ。


 こうしてみると、リュゼは幼い頃から苦労してきたのだと思う。

 性格が多少アレなのも、仕方がないのかもしれない。

 両親が揃って行動に問題ありで、祖父は頼りなく、従姉妹は馬鹿な白豚。

 彼は、若くして周囲と戦わざるを得なかったのだろう。たった一人で。


 前世の記憶が戻り、従兄の行動を冷静に見てみると、嫌でも分かることがある。

 リュゼは、ハークス伯爵領を立て直すのに必死で、ずっと孤独に行動し続けていたのだと。

 しなければならないことを、一人だけで淡々とこなしてきたのだ。


「どうして、そんなに人でなしに育ってしまったの!」


 伯母は、尚もリュゼを責め続けている。

 我慢できなくなった私は、彼らの話に割り込んだ。


「人でなしなのは、あなた方でしょう。実の息子にこんなことを言われて恥ずかしくないの?」

「ブリトニー、あなたは黙っていなさい! リュゼもよ。ここは、何もわかっていない子供の出る幕じゃないの」

「伯母様こそ黙ってください。何もわかっていないのは、あなたです……うちが借金をするたびに、リュゼお兄様が関係者に頭を下げて回っているのをご存知ないでしょう? ハークス伯爵家が何度も借金の申し込みができるのは、彼が各方面の信頼を得ているからです」


 記憶が戻ってからの私は、リュゼの行動をちゃんと見ていた。

 祖父の代わりに他の貴族とやりとりし、様々な商人と渡り合ってきたのは全て従兄だ。


「な、何を言っているの?」

「領地経営にしてもそうです。馬だけで稼ぐことができなくなったハークス伯爵領を立て直したのは、ほぼリュゼお兄様なのですよ」

「でも、まだリュゼは十八歳で若くて……」

「あんたたちは、その十八歳の息子に迷惑をかけてばかりで恥ずかしくないの? 二人が贅沢できているのは、お兄様が頑張って税収を増やしてくれているからなのよ? まあ、以前の私も迷惑をかける側だったから、これ以上は控えるけどね」


 個人的にリュゼが好きか嫌いかと聞かれたら、少し苦手と答えるだろう。

 けれど、彼の領地改革に関する努力は本物だ。

 性格に難ありの従兄は、改良した馬やワインの生産で、傾いたこの領地を立て直そうとした。


 それに、私がいくら趣味で石鹸や化粧水を開発したところで、商品を広めて収入につなげるリュゼがいなければ領地は潤わない。

 社交界に縁の薄い十二歳の白豚令嬢が石鹸を大々的に売り出したところで、誰も信用しないし、そんな商品を欲しいとも思わないだろう。

 今のハークス伯爵領は、彼なしでは回らないのだ。


 さすがの祖父も伯父と伯母に愛想が尽きたみたいで、険しい表情で長椅子から立ち上がった。

 

「お前たちには、失望した。もうこの屋敷には来ないでくれ。孫たちへの接触も控えてほしい」


 絶縁の件は保留になったが、今回のことは伯父と伯母にとって、良い教訓になったのではないだろうか。

 彼らは屋敷へ来ることを禁じられ、今後は金の無心も全て断ることが決まった。


 二人が帰った後、祖父は事務仕事をするために書斎へ向かう。

 色々優柔不断な祖父だが、書類を読んだり書いたりするくらいはできるのだ。

 部屋の中には、リュゼと私だけが残されている。


(微妙な空気だな……私も研究室に戻ろう)


 扉に手をかけようとする私を、長椅子に腰掛けたままのリュゼが呼び止める。


「ねえ、ブリトニー。君が僕を援護してくれるなんて思わなかったよ」

「そうですか、私も援護する気はなかったのですけれどね。つい腹が立って、口が滑ってしまいましたよ」

「そうなんだ。ところで……」


 長椅子から優雅に立ち上がったリュゼは、青い目でまじまじと私を見つめる。


「……君は、一体何者なのかな?」

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[一言] リュゼの事を見直しました。 ・・・ そして鋭い!
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