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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
13歳

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35:新たな季節と新たな借金

 王都の城から帰って数ヶ月が経過し、春が来た。


 私は十三歳になったものの、体重は相変わらずの六十キロ止まり。

 とはいえ、髪と肌はツヤツヤのツルツルで悪臭もない。

 フローラルでピチピチのぽっちゃり少女だ。


 麗らかな春の訪れや十三歳の誕生日は嬉しいが、ハークス伯爵領内では、そうも言っていられない事態が起こっている。


 私やリュゼが城へ行っている間に、また借金が増えてしまったのだ。

 今まで目を光らせていた従兄の不在時に、浪費家である彼の両親が動き出したらしい。

 リュゼの両親は温厚な祖父に金の無心をし、人は良いが金銭感覚がずれている祖父は、あっさりとそれを承諾してしまった。


 もうすぐ借金がゼロになるという矢先の事件で、私は毎日不機嫌な従兄を見ては慄いている。

 迷惑なことに、彼は私の前でだけ本性を露わにするのだ。


(まあ、リュゼお兄様が不機嫌になるのも仕方がないよね。私も複雑な気持ちだし)


 頑張って集めたお金が、またマイナスになってしまったのはショックだ。

 私も従兄に協力して、借金完済を目指したいと思う。

 幸い、石鹸の売れ行きが好調で、定期的な収入も増えているようだ。

 以前よりは苦労せずに、お金を集められるだろう。


「ブリトニー、乗馬の家庭教師が来たよ」


 研究室でマーロウ王太子のハーブをいじっていた私を、従兄が呼びに来た。


「ありがとうございます、リュゼお兄様。行ってまいります」


 最近になって、私はかねてから興味のあった乗馬を始めた。

 まだ初心者なので、家庭教師同伴でゆっくりと庭を歩き回るくらいだが。

 春の庭はたくさん花が咲いていて楽しい。

 今までのブリトニーは庭になんて興味がなかったが、私は気に入っている。



 乗馬を終えて屋敷に戻ると、なんだかいつもとは異なる雰囲気がした。

 使用人に聞けば、リュゼの両親が来ているらしい。

 私は、嫌な予感がした。


 少しだけ開いていた扉から客室の様子を窺うと、案の定、リュゼの両親とリュゼが睨み合っている。

 祖父はというと、一人でオロオロしているだけだった。

 リュゼに叱られたのか、少しだけしょんぼりしている。


「ですから、あなたたちとは絶縁したいと言っているのです」

「リュゼ、何を勝手なことを! そんなこと、許されないぞ!」


 ドアの向こうでリュゼの父が怒鳴った。

 彼は、恰幅の良い中年男性で、リュゼとはぜんぜん似ていない。

 対するリュゼは、冷静に言葉を繋ぐ。


「あなた方二人の散財行為のおかげで、伯爵家の家計は火の車なんですよ。今まで、僕は何度も忠告してきましたよね?」

「お父様! 今からでも遅くはありませんわ、私の夫を次期伯爵に指名してくださいませ! リュゼはまだ若く、物事をわかっていないのです! だから、こんな非常識な選択ができるのですわ!」


 今度は、リュゼの母親が金切り声をあげた。夫婦揃って、迷惑な大声だ。


(お祖父様、大丈夫かな……二人に押し切られないといいけれど)


 ハラハラして見守っていると、不意に祖父がこちらを向き、扉の陰から覗いている私に気がついた。


「おお、ブリトニー!」


 地獄で仏にあったかのような切羽詰まった表情を浮かべ、私の名を呼ぶ祖父。

 この空気をなんとかしたかった気持ちはわかる。


(でもさ、この状況で私がいたら、余計に事態がややこしくならない?)


 そうして、私は微妙な空気の部屋の中に入らざるをえなくなってしまった。

 ……とても気まずいし、すごく嫌だ。

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