27:お尻がデカくてごめんなさい
私たちはアスタール伯爵領で一泊し、翌朝馬車で王都に向けて出発する。
全ての使用人やら護衛やらを含むと、割と大所帯になってしまった。でも、アスタール伯爵家の面々が同行してくれるのは心強い。
女性陣と男性陣に分かれて二台の馬車に乗ることになり、私は少しホッとする。
アスタール伯爵領の馬車は六人乗りなので、私たち五人が全員一緒に乗れるのだが、ブリトニーのお尻がデカいせいで、絶対に二人掛けの方に回されてしまうことが目に見えていたからだ。
白豚を脱しきれない自分が悪いのはわかっているのだが、あからさまにそういう扱いをされるのは辛い。白豚令嬢は、狭い場所で必ず他人さまに迷惑をかける存在なのである……
王都まではここから馬車で四日かかり、その間はろくに運動できない。
(間食は絶対にしない!)
楽しそうに持ち寄ったお菓子を頬張るノーラとリリーを尻目に、私は心を無にして窓の外を眺めた。
アスタール伯爵領は平地で土も肥えており農業が盛んだ。
道の両側には、延々と畑が続いている。
私たちは、途中で休憩したり、宿に泊まったりしながら、予定通り王都に着いた。
王都の道は全て石畳で舗装されており、家が多く人の数もハークス伯爵領とはぜんぜん違う。
水路もあり、街自体が碁盤の目のように整備されていた。
パーティーが開かれるのは翌日なので、まだ時間がある。私たちは、それまで城の客室に滞在することになっていた。
「やあ、よく来てくれた」
昼過ぎに城に着くと、王太子のマーロウがわざわざ挨拶にやって来た。
リュゼと親しげに話していた王太子だが、私と目が合うと嬉しそうに手を振ってくる。
「ブリトニーも疲れただろう。パーティー開始までゆっくりしてくれ。客室には王都の菓子も用意してあるぞ」
彼は、まだ勘違いを続けているようだ。
完全に、私を菓子好きの令嬢だと思っている模様。
(お菓子は、ノーラとリリーにあげよう……甘いものが好きみたいだし)
パーティー当日にドレスが入らないなんてことになったら大変だ。
ただでさえ、馬車での長旅で足がパンパンにむくんでいるというのに。
マーロウを見たノーラとリリーは、また頬を赤く染めていた。
確かに、彼も整った顔をしているものね。
王太子とリュゼとリカルドが並んでいると、とても絵になる。
「王太子殿下、こちらは我が伯爵領で取れた花から作った化粧水です」
リュゼ経由で彼がうちの化粧水を欲しがっていると聞いた私は、しっかりとプレゼントを用意していた。
彼の肌質とかはよくわからなかったので、とりあえず無難にローズの化粧水を渡しておく。
「ああ、ありがとう、ブリトニー! これが欲しかったんだ!」
「他にも色々な種類がありますので、もしお気に召していただけたのなら、またお送りいたしますね」
「ぜひ頼む! ついでに石鹸とシャンプーとヘアオイルも頼む! それから……」
追加注文する王太子に向かってリュゼが微笑む。
「たくさんご注文いただき、ありがとうございます殿下。王太子殿下が使用されるとなれば、うちの商品にも箔がつくでしょう」
「うむ。必要なら、王室御用達の表示をつけてもいいぞ……しかし、優秀な従姉妹のいるリュゼが羨ましいな」
マーロウの目が、一瞬城の奥に向けられる。
つられてそちらを見ると、黒子のような衣装に身を包んだ怪しげな女性の集団が、ぞろぞろと建物の奥に向かっているのが見えた。
(……あれは、一体)
私が疑問に思っているのに気がついたのか、王太子が苦笑しながら口を開いた。
「妹付きのメイドたちだ。よくわからないが、いつもあのような格好をしているのだよ」
「……そうですか」
彼の妹ということは、あの漫画の悪役令嬢アンジェラだ。
主人公のメリルは、現時点でまだ平民として下町にいるはずである。
きっと自分よりも目立たせないために、メイドたちを黒子にしているのだろうな。
(逆に悪目立ちしているけれど……)
やっぱり、アンジェラとは関わりたくない。
私はぎこちない動作で黒子たちから目を逸らせた。












