259:転生先が少女漫画の白豚令嬢だったけど……
数年後、私はアスタール伯爵夫人として、充実した毎日を送っていた。
「グフフ、グフフ、今回のイベントも大成功、真珠の売れ行きも好調。アンジェラ様も大満足。アスタール領観光地化計画も着実に進んでいるね」
結婚しても、私の笑い方は相変わらずである。
もうこれは一生治らないと諦めるべきだろうか。
あれから、私はリバウンドしない日々を送ることができていた。
多少の増減はあるが以前ほどではなく、体重は安定している。リカルドがメンタルを支えてくれる影響が大きいのだと思う。
例のブートキャンプも苦ではなく、始めは四苦八苦していたアスタール領の兵士の皆さんも、だんだんついてこられるようになってきていた。
「こら、ブリトニー。ブートキャンプはしばらく禁止だと言っただろう」
邪魔にならない程度にブートキャンプを行う兵士の傍らで運動していると、あきれ顔のリカルドが歩いてきて私を回収した。
今の私は太くないため、リカルドに軽々と持ち上げられてしまう。
「そうは言っても、リカルド。激しい動きはしてないよ? これは軽い体操で……」
「ブリトニーは『激しい』の基準が高すぎるから駄目だ。先日妊娠が判明したばかりなのに」
リカルドは私を抱えたまま部屋に運ぶ。
兵士たちに生暖かい視線を向けられながら、私はリカルドによってドナドナされた。
あれから様々なことがあったけれど、リカルドとの生活は順風満帆だ。
アンジェラやノーラも賑やかで楽しい生活を送っているらしい。
ちなみに、アンジェラとメリルには既に子供がいる。リリーは西の国でお付き合いを始めた男性がいるそうだ。あと、エレフィスも結婚した。
この世界の女性は結婚して子供ができて……という流れがまだ普通だ。伯爵夫人なら尚更そうである。
部屋に到着して下ろされた私は、立ったまま自分のお腹をじっと観察した。
外見的な変化は見られない。
(男でも女でもどっちでもいいから、元気に生まれて欲しいな。跡取り問題が解決できそうな点においては、ほっとしているけど)
というのも、徐々に女性の領主を認める流れが出てきたからである。
(女伯爵として活躍しているノーラの功績もあるのかな)
悪役三人組の中で一番、貴族夫人として優雅に過ごしたがっていたのに。
件のノーラが今やすっかり、敏腕伯爵となってしまった。
人生とは不思議なものだ。
お腹の子が大人に成長する頃には、女性領主が婿を取る形も普通になっていてくれたら助かる。私のメンタルのためにも。
自分がその立場に立って初めて実感するが、「何がなんでも健康な男を生め~!」と言われるのはかなり精神的にキツイ。
男児にしろ女児にしろ一人産むだけで命がけな上、性別を選ぶのは不可能。
子供ができること、健康であること、男であること、母胎が無事なことなどなど……ぶっちゃけ全部が運要素で決まる。容赦もへったくれもない。
「はあ……妊婦でも大丈夫な運動を考えようかな。また太ったら体に悪いし」
「ブリトニーは働き過ぎだ。この機会に少し休んだらどうだ?」
「リカルドほどじゃないよ。あなたこそ休めばいいのに」
どっちもどっちである。
少し慣れてはきたが、まだまだ伯爵夫妻として未熟な私たちは、毎日が体当たりの日々なのだ。
リカルドが改めて私に向き直る。
「ブリトニー、いろいろあったけど、俺はお前と会えてよかった」
「私もだよ、リカルド」
正面に立ったリカルドが私の背中に腕を伸ばしたので、大人しく彼の胸に身を預けた。
どちらかがどちらかを完璧に養い、守り、囲い、幸せを保証できるような関係ではない。けれど、それぞれ自分ができることで、努力しながら支え合って生きていける。
私たちには今の関係がちょうどいい。
こうして白豚令嬢は、幸せな生活を手に入れた。
本編は完結です。
ここまで応援してくださり、お付き合いくださいまして、本当にありがとうございました!!












