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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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256/259

256:公爵夫人と油断のならない夫(アンジェラ視点)


 アスタール領改め、ガザ領はなんといっても気候がいい。

 海が見渡せる、小高い丘の上の屋敷で、わたくしーーアンジェラは機嫌よくハーブティーを飲んでいた。

 フルーティーで酸味のあるローズヒップティーは、エミーリャが南の国から取り寄せてくれたものである。

 以前ブリトニーに聞いた話では、とある国で『若返りの秘薬』として用いられていた歴史があるとかないとか。免疫力も上がる体にいいお茶らしい。

 そんな彼女は、もうすぐ結婚式を挙げる予定だ。式には私も招待されていた。


「ああ、楽しみですわ。ブリトニーの結婚式が待ち遠しいですわ。んふふっ」


 期待に胸が高鳴りすぎて、はしたないがニマニマしてしまう。

 あれから、ブリトニーはめでたく痩せた。

 彼女からの手紙ではリカルドがかなり協力してくれたとのこと。端から見てもお似合いの二人だ。

 おそらく、彼女が以前のようにリバウンドを繰り返す事態は減るだろう。

 なんとなく、そう思えた。


 ふと、ここへ来てからの記憶を思い返す。

 今ではすっかり公爵夫人としての生活に慣れたが、引っ越した当初はそうは行かなかった。王宮とは異なる事例も多く、いつも何かに戸惑っていたのだ。

 それを助けてくれたのは夫のエミーリャである。

 王子なのに何故か世慣れている彼は、テキパキと屋敷を最低限整えて、私が住みよい空間を作り上げてしまった。


(何気に、私の好みまで把握されているのが悔しいわ)


 屋敷の至るところに、さりげなく可愛いものが置かれている。

 優しい色合いの絵画だったり、ピンク色の花だったり、猫足の椅子だったり、小動物の置物だったり……エミーリャの自分への観察眼が若干怖い。

 ちょうど海のある領地なので、エミーリャの祖国との貿易も行われている。

 おそらく、そういう拠点になっていくのだろう。


 箱入りの私にできることは何もない。

 だからこそ、悔しかった。

 そんな折にブリトニーが提案してくれた催し物の話に飛びつくくらいには。

 改めて、彼女はすごいと思う。


「はあ、ブリトニーに比べると、私なんてまだまだですわ」


 ため息をつく私に後ろから声がかかった。


「何、アンジェラ? また悩み事?」


 ぎょっとして振り返ると、夫のエミーリャが微笑みを浮かべながら壁にもたれている。

 いつの間にか、仕事から帰ってきたらしい。


「なんでもないですわっ! 淑女の背後に立つなんて紳士の風上にも置けませんわねっ」

「いいんじゃないの? 夫だし? あと、ブリトニー嬢と自分を比較する必要なんてないよ。あれは例外中の例外。比べるよりいかに彼女の能力を引き出して、自分の役に立ってもらうかを考えるべきだね」

「なっ……」

「俺もさ、過去には兄のことでいろいろ悩んだ時期もあったけど、あれは張り合ってどうにかなるものじゃない、アンジェラはブリトニー嬢と仲もいいのだし、今のままで十分だよ」

「……ブラコンの意見は当てになりませんわ」


 時折、エミーリャはブリトニーについて、私の知らない何かを把握しているような顔をするときがある。

 とはいえ、彼にとっては所詮は他人事であり、そこまで興味もないようだが……ブリトニーと彼の兄はよく似ているという話を以前聞いた。真相はわからないが。


「なんにせよ、そんな些事は気にせず、アンジェラは気分よく過ごしていればいいよ」

「適当な発言をしないでくださいます?」

「本音だってば、君が快適に過ごせる環境を整える以上に優先することなんてない」

「なっ……」


 すぐにこうやって不意を突いてくる。

 エミーリャは本当に油断のならない夫だった。


「相変わらず口がお上手ね」

「素直じゃないアンジェラも好きだよ」

「~~~~っ!」


 やはり私は、いつまで経ってもこの夫に口で勝てそうにない。



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