252:白豚令嬢の帰還
東の国の現場はと言うと、リカルドとグレイソン殿下のおかげで、主要な用事はほぼ終わっていた。
私もやれる仕事はやったので、もうそろそろ帰れる。
アクセルの件は、リカルドがきっちりグレイソンに伝えてくれた。
私は西の国の王子から謝罪を受け、アクセルにはグレイソンが中央の国へ戻り次第、処分が下されることが決まる。
グレイソンが、「私のヴァンベルガー領に対しての配慮が欠けていた部分もある。ブリトニー嬢には申し訳ないことをした」と申し訳なさそうに話していた。
こちらもただで転んだわけではない。
苦情はリカルドがしっかり申し立ててくれたので、騒ぐ必要もないだろう。
東の国の人々に回復の兆しが見えたため、医師たちを残し、私たちは先に帰還する予定になっていた。
「リカルド、中央の国へ戻ったら、お母様のところへ寄ってもいい?」
「もちろんだ」
母に情があるわけではないけれど、公爵が病気だとを知っていて見殺しにするのは後味が悪い。助けられるなら、助けてあげたい。
「公爵に渡す薬を用意しよう」
リカルドにも私の意図は伝わっているようだ。
東の国の人々に感謝されつつ、私とリカルドは数日後に中央の国へ発った。
拡張された川は元の位置で防がれ、これ以上の工事は行われないことになった。
水田も徐々に畑へ戻していく予定らしい。帰ったら、防水長靴の開発でもしようと思う。
※
何度目かの公爵邸を訪れると、母は相変わらずの偉そうな態度で私たちを出迎えた。
「事前に手紙を送りましたが、改めて……アクセル様との結婚のお話は完全になくなりました」
母は、内心を読ませない無表情で答える。
「ええ、そのようね」
「そして、手紙に書きましたが、公爵様にこちらを……」
私は用意していた薬を母に渡す。すると、初めて母の瞳が揺らいだ。
おそらくだが、母は公爵を心の底から大切に想っている。
「まあ、これが」
「あなたの求めていた薬です。進行度合いにもよりますが、東の国の人々の症状はこの薬で緩和されました」
本来なら、東の国の人々に合う薬が見つかるまで、もっとかかる可能性も高かった。
だが、運良く早い段階で症状を治す薬が発見されたのだ。
母は急ぎ傍にいたメイドに指示を出す。
「これをあの人に飲ませてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
メイドは薬を持って部屋の外に出て行った。
「ブリトニー……」
母が何か言いたげにこちらを目を向ける。
「あなた、見るたびに細くなっていない?」
「……」
余計なお世話である。
最初に会ったとき、散々こちらを貶めていた件は忘れない。
実の母だが、私には彼女と親子だという認識は薄かった。話せば話すほど……合わない。
だがここで、なぜかリカルドが口を挟んだ。
「公爵夫人、まだブリトニーに言い足りないことがあるのではないですか?」
私はびっくりして彼を見つめる。リカルドは何を話しているのだろう。
(言い足りないって、さらに私への文句を公爵夫人に言わせるつもり?)
リカルドは私を傷つけるような人ではない。だから彼の意図がわからず、私は困惑する。
「俺たちはアスタール領へ戻る予定です。このままだと後悔なさいませんか?」
「えっ……」
意図が読めない私とは異なり、母はリカルドの言葉を正確に理解した様子だ。












