248:追い剥ぎ軍団、再登場
翌日以降、医師により希望する人々への治療が開始された。
近隣住民と交渉して、治療するための建物を開放してもらったりと、私たちは今のところ計画通り動けている。
開放された建物は、大抵は広い集会所や村長の家などで、多くの人々が出入りしていた。
「治療は医師たちに任せるとして、私は自分にしかできない仕事をしなきゃね。まあ今回はグレイソン殿下たちがいるから心強いけど」
領主への対応はグレイソンが自ら当たってくれたので、私たちは彼を補佐する形になる。
今さらの話だが、再び川の流れ自体を元に戻したり、広げた川を埋めてしまったりする活動も視野に入れられているらしい。
戻したからといって、病気の発生源が完全に消え去ることはないかもしれないけれど。
東の国の判断なので、外国住まいの私たちにその辺りの決定権はない。
(ともかく、大きな問題なく東の国と協力できてよかった。この調子なら病気の拡大もゆっくりと収束していくよね)
私も各地域の治療施設の調整で忙しいが、希望が見えるので頑張れる。
領主たちに頼まれた、治療法や対策を広める仕事も同時にこなしていたが、残りは東の地の人々が頑張ってくれるので一段落しそうだ。
迷惑な事業を始めてしまった両領主は、その後の対策では川周辺に住む人々の命を優先してくれた。まともな感性を持った人たちで本当によかったと思う。
(領主もいろいろだからね)
毎回領地の平民のために動いてくれるわけではないし、場合によっては真逆の対応を取ってくる事態も考えられた。他国の干渉を嫌がるケースも多い。
東の国の国王の許可はもらっているし、この地に関してはひとまず大丈夫だけれど。
今はリカルドと別行動で、それぞれができることを一生懸命こなしている。
(リカルドがすごく優秀だし、負けないように私も頑張ろう!)
ただちょっと困った悩みもある。
拠点に持ち込まれる差し入れのお菓子の量が半端ないのだ。
現在、私とリカルドは同行した人々と一緒に、現場にほど近い宿の一室を借りているのだが、ひっきりなしにフロントにお菓子が届けられてくる。
聞けば、この国では寒地ではてんさい、暖地ではサトウキビの栽培が盛んで、お礼といえば甘いお菓子を贈る文化があるのだとか。
(贈るにしても限度があるよね。気持ちは嬉しいんだけど、なんて今の私に厳しい風習なの!?)
多少体重が減ったからといって、美味しいお菓子の誘惑に耐えられるようになったわけではない。食べたいものは食べたいし、私の胃袋はどこまでもそれらを受け付けてしまう。
現場の皆さんに配って回っても、どんどん送られてくるので消費が追いつかない。
そのうち夢に出てきそうだ。
病気になった患者たちは、治る者と手遅れな者で二極化した。
早期に症状が発見された場合は薬で対処できたという。
中央の国へは思ったより早く帰れるかもしれない。
(さて、今日やるべき仕事は大体片付いたし、もう一周お菓子を配って回ろう。わざわざ私がやる必要はないし、いつもはほかの人が配ってくれているけど……いい運動になるよね)
今回の私のダイエットには、結婚式のドレスがかかっているのだ。
処刑と比べればどうということはないが、やはりなるべく太っていない姿でドレスを着たいという個人的な希望はある。
夕方なので近隣住民の多くは家路についているものの、地元職員や中央の国の医師たちは交代制で現場にいる。
オレンジ色の夕日に照らされた路地を進み、最寄りの治療施設である集会場を目指す。
お供兼荷物持ちとして、近くで控えていたアスタール家の兵士の皆さんがついてきてくれた。
ハークス伯爵領兵より平均年齢が若い。
「ブリトニー様、今の時間ならリカルド様も集会所におられますよ」
「ちょうどよかった。それぞれの情報をすりあわせたかったし」
しかし、近くの民家から夕食の香りが漂う小道を進み、もうすぐ集会所へ着くというところで、私たちの前に見慣れない覆面の集団が現れた。
(ん……? 覆面はともかく、この風体はどこかで見たような。そして、以前にも似たようなことがあったような。いかにもな追い剥ぎスタイルだけど)
私は少し前の記憶を思い起こす。
その結果、以前王都でならず者にヒップアタックを決めた、謎の襲撃事件が頭に浮かんだ。
(うげ……なんで中央の国ばかりではなく、東の国にまで出現しているわけ?)












