243:多すぎる宿題が出た
「ブリトニー嬢、もしかして……暗号が解けたのか!?」
「あ、あの、その」
「アクセルのように、強引なことはしないと約束する。間違っていても構わない。どうか、内容を教えてもらえないだろうか」
「ええと……プライベートを綴った日記のように見受けられました」
私はやんわりと、いろいろ端折って日記の内容を伝える。
「な、なるほど、了解した。それでは、こちらはどうだ?」
そう言いつつ、グレイソンは分厚いノートを三冊取り出した。
(こ、こんなにたくさん、懐に~? ぜったい重いよね?)
見るからに武人ぽいグレイソンのことだから、普段からこうして鍛えているのかもしれない。
私は受け取ったノートに目を走らせる。
「こちらは、目標ノートのようですね。野望めいた内容が綴られています。残りは、体の仕組みや病状についての記録と、薬についての記録です」
「助かる。このようなノートがレニの部屋には大量に残っていて、現在はアクセルに頼まれて私が保管している。それで、相談なのだが……」
「なんでしょう」
嫌な予感を覚えつつ、私はグレイソンを見た。
「これらを私にもわかる言葉で書き写してはもらえないだろうか。もちろん、ただでとは言わない」
「この量を、ですか?」
今あるノート、めちゃくちゃ分厚いんですけど?
「いや、西の国にあるノートも送りたい。書き写すのは、医療に関する本だけでいい」
ノロケ日記を写せと言われなくてホッとした……ではなくて!
「ちょっと量が多いのですが!?」
「急げとは言わないし、アスタール領でもノートを活用してくれていい。二国間の商品取り引きの便宜も図ろう。それに、これらを引き受けてくれたなら、私のほうでアクセルを強制帰国させよう。二度と中央の国へ立ち入らせないと約束する」
王子の権限で、強制帰国まで可能だとは。
「……もっと早く、アクセル様を帰して欲しかったです」
もにょもにょ言いつつ、結局は引き受けるしかない状況に陥る私だった。
ついでに、もう一つの懸念事項を質問しておく。
「あの、殿下は東の国の病気について、何かご存じありませんか?」
「伝染病のことか? うちの国でも患者が出たようだ。東の国の土木事業を見学していた者だが」
「中央の国と同じみたいですね」
「とりあえず隔離措置をとっているが……」
「原因は水なので、人から人への感染はないみたいですよ。現にムーア公爵が同じ状況ですが、家族は誰一人感染していないですから」
「そうか。ということは、変な水でも飲んだのだろうか?」
「飲み水と言うより、肌を出した状態で川に入ったら駄目みたいです。それ以上詳しくはわかりません」
「なるほど、不可解だな。水に問題があるのか、危険な生物が生息しているのか。我々は調査隊を派遣するつもりだが、素足で川に入らないよう忠告しておこう。情報に感謝する」
「いえいえ、できれば翻訳するノートの量を減らし……」
「よろしく頼んだ。もちろん、礼はさらに弾ませてもらう」
グレイソン殿下は押しの強い笑みを浮かべ、力強く頭を下げた。
(ええ~……そんなことされたら、ぜったいに断れないじゃん!)
渋くてまっすぐで天然なグレイソン王子は、意外にしたたかだった。












