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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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240/259

240:母の思いと公爵の容体

(東の国の病気って、もしかして、ムーア公爵がかかっているものと同じなんじゃ?)


 ピンときた私を見て何かを感じ取ったのか、リカルドが気遣わしげな視線を向ける。


「ブリトニー、あとは俺が話をつける」

「あ、ちょっと待ってリカルド。公爵夫人、一つだけお聞きしたいことがあります。公爵が東の国へ行った際、裸足で川に入りましたか?」

「あなた、なぜそれを? あの人は土木事業……河川の工事に立ち会ったのですわ。たしか、水の流れを変える事業だったかしら。暑かったから、皆で川に入ったそうよ。帰宅当初は元気だったから、いろいろ話してくれたわ。今は熱が下がらなくて」

 

 思いつきの一言だったけれど、母には効果があったみたいだ。

 でも、彼女の反応で、ますますヴィーカの情報にあった病気の線が怪しくなる。


「噂で聞いたんです、東の国で水場に裸足で入ると危ないって。水が問題らしいですが、詳しい内容まではわかりません」

「そうなのね。私が聞いた噂だと、東の国の一部で流行中の伝染病という話だったけれど。中央の国でも、何人かに広まっているらしいわ」

「いいえ、人から人には感染しない……はずです。その方たちは、東の国へ行ったことがあるのでは?」


 ヴィーカの話と合致するならば、あくまで水が問題なのだ。

 しかし、伝染病に関する騒ぎが起こり、中央の国や西の国へも影響が出たと彼女は語っている。ということは、ムーア公爵の病気も一連の事件に関わりがあるのだ。


(判明するのは、ずっとあとになってからなんだよね? それ、やばくない?)


 すでに、中央の国まで伝染病の噂が広まっている。西の国が同じ状態になるのも時間の問題だろう。

 間違った対処で騒ぎが余計に拡大しなければいいのだけれど。


「ブリトニー……」


 呼ばれてそちらを向くと、いつになく不安げな表情の母がぎゅっと両手を握り込んでいた。


「あなた、病気に詳しいの? ねえ、あの人の病気を治す方法を知らない?」


 私には似ていない大きな瞳には、僅かばかりの期待がこもっている。

 父が駆け落ちしたあと、一人実家へ戻ったという母。

 そして、家の方針なのか、すぐにムーア公爵の元へ後妻として嫁いだという。

 ムーア公爵はもうお爺さんと言っていい年齢で、年の離れた二人だった。

 けれど、母は公爵を大切に思っているのかもしれない。彼女の態度や言葉から、二人の仲が険悪ではなかったことがうかがえる。

 

 もともと、ケビンの母親と父の仲を裂いて、強引に婚約や結婚に持ち込んだ母だ。

 しかし、その後の夫婦関係は良好ではなかったようで、父は駆け落ちしてしまった。

 今となっては、あの最低な父と別れて正解だと感じるけれど、当時の母が傷ついたであろうことは想像に難くない。たとえ、反則技で父との結婚にこぎ着けたとしてもだ。

 いや、だからこそなおさら思うところがあったに違いない。

 あんな父のどこがいいのかと疑問に感じるが、若い頃の彼はとてもイケメンだったそうなのだ。

 

(今は駄目男風のうさんくさいおじさんだけどね)


 母の方を向いて、質問に答える。


「残念ながら、私は医者ではないのでわかりかねます。水が原因ということしか……」

「そうなのね。夫が参加した視察には、何人かの貴族が同行していたようだから、彼らの容体も心配だわ」


 それは高位貴族としての母の顔だった。

 

(父に比べればずいぶんマトモなのに、どうしてアクセル様の提案を退けられないの?)

 

 公爵の命がかかっているから、藁にも縋る思いなのだろうか。


(なんか、ややこしいことになってきた……)


 私の婚約騒動が、思いも寄らぬ事態に繋がってしまうなんて。

 せっかくのリカルドとの平和なアスタール領生活が台無しである。


「現地に夫の部下を派遣したの。でも、まだ原因を突き止められないわ。ブリトニー」


 母はまた、縋るような視線を向けてくる。


「あの人を亡くしたくないの。どうか、アクセル様と婚約してちょうだい」

「……お断りです。彼と婚約したからといって、ただちに公爵閣下の病気が治るとは思えません」


 彼女の気持ちはわかったけれど、それと私の婚約は別の問題。

 アクセルとの婚約は心情的にも現実的にも無理なのである。母だってわかるだろうに。

 彼女を諭すように、リカルドが静かに告げる。


「こちらでも、調べられる範囲で調べてみましょう。ただ、それ以上のことはできかねます。ブリトニーはすでに私の妻であり、これは王家も承諾した話です。あまり勝手をなさると、夫人の立場が悪くなりますよ」

「……っ」


 彼に指摘されて唇を噛んだ母だけれど、無理を言っているのは承知の様子。

 それでも、公爵の病気を治したい気持ちが勝るみたいだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しみに読ませていただいています。 主人公の母親の目的が、女性としての願いとしてか、高位貴族としての責務が関与しているのか、色々と想像できて面白いです。 [気になる点] 水を介した経皮感染…
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