23:王都行きフラグが多すぎる
「私はまだ未熟者です。そんな場所に行っても気後れしてしまい、粗相をしてしまいそうで」
「うちの妹の話し相手の件も、断ったみたいだしな。『ブリトニーは馬鹿すぎて、王女様の側に仕えると失礼なことを仕出かしそうです』との連絡を受けたのだが」
私は、傍に佇む従兄のリュゼを見上げた……
(まさか、本当にそのまま伝えたの? そう伝えてくれとは言ったけれど)
リュゼは黙って微笑んでいた……やっぱり読めぬ。
近頃の彼は、私に対していい顔を作らない。
「学園で一緒だった時にも、リュゼから君の話を聞いていたので納得したが……こうして会ってみると、大丈夫そうにも見える」
王太子の作り物のように美しい顔が近づいた。
どきどきするというよりも、自分のデカい顔との対比にいたたまれない気持ちになる。
(痩せたら、顔も小さくなるよね? デカいままだったらどうしよう)
美貌の王太子に乙女心を傷つけられた私は、屋敷に戻ったら小顔体操をしようと決意した。
それにしても、王太子とリュゼというキラキラしたメンバーに囲まれて落ち着かない。
「殿下、今日は我が家で夕食を召し上がっていただけるとか……」
「ああ、ハークス伯爵家の料理は有名らしいからな」
うちの料理が有名だなんて初めて聞いた。よその料理を食べる機会が少ないので、私からはなんとも言えない。
(というか、マーロウ王太子と一緒に食事をするの? マジで?)
後で知ったのだが、王太子が来ると言う件は、祖父経由で私に連絡が来るはずだったらしい。
いつものウッカリで言い忘れていたとのこと。お祖父様、勘弁して!
その日の晩御飯は、当たり前だが全員共通のメニューだった。王太子の他に、彼の御付きの人たちもいる。
光り輝くシャンデリアの下にあるテーブルに並べられたのは、久々のヘルシー料理以外の食事だ。
「おや、ブリトニーは意外と少食なのだね。もっと食べるのかと思っていたよ」
長いまつ毛に覆われた大きな目を瞬かせ、マーロウ王太子は何気に失礼なことを言ってきた。悪気はないと思う。
「そうですか? 私の食事は、いつもこれくらいの量ですよ」
私は、しれっと彼の問いに答える。ダイエットを始めてからの食事量だが、嘘は言っていない。
またしても従兄は、ノーコメントを貫いた。
王太子はしきりにうちの料理を褒め、リュゼと祖父の機嫌は良さそうだ。
「ところで、ブリトニーを王都に招きたいのだが」
忘れた頃に、マーロウ王太子がまた話を蒸し返してきた。
(なんで、そんなに私を王都へ行かせたがるの?)
祖父は、ノリノリで彼の話に耳を傾けている。私は、すがるような目でリュゼを見つめた。
「ブリトニー……」
「お、お兄様……」
小さくため息をついたリュゼは、マーロウ王太子に向き直った。
「申し訳有りませんが……今、ブリトニーを王都に出すわけにはいきません。彼女の作り出した石鹸などの件もありますし」
「うむ、そうか。だが、短期なら問題なかろう?」
「短期、とは?」
「リュゼも知っているだろうが、私は今度王都で小規模なパーティーを開くことになっている。参加者は若い貴族だけで、まだ社交デビューをしていなくても出入りできるものだ。そこに、ブリトニーも参加してほしい」
「……ブリトニーも、ですか」
「リュゼの参加は決まっているだろう。ただ従妹を連れて来てくれるだけでいい」
私を連れてくるだけでいいと言われ、リュゼの心が揺れている。
もともと、彼は私を他のパーティーに参加させたいと言っていた。それが、王都のパーティーになってしまっただけだ。
「隣のアスタール伯爵の次男も来るそうだ。ブリトニーに友人がいれば、一緒に参加してくれて構わない。ハークス伯爵領の新商品を紹介するのにも、良い場だと思うのだが……」
「では、お言葉に甘えて」
私の方を見ずに、従兄は勝手に参加を決めてしまった。
(ちょっと、お兄様! なんで勝手に参加を決めちゃったんですか!)
王太子は上機嫌で「リュゼは守銭奴だからなあ」などと笑っている。
(……お兄様って守銭奴なの?)
確かにお金は大事だけれど、優雅なお兄様には結びつかない。きっと、私の知らないところで苦労したんだな……
仕方がないので、私はパーティーに参加してあげることにした。お茶会で仲良くなった、リリーとノーラも誘ってみよう。
※
クビになった使用人たちだが、彼らの中に私が勉強を教えていた子供たちの親はいなかった。
ライアンとマリアは無事だ。
屋敷の環境が良くなったので、マリアはメイドとして働き始めている。元々頭が良いので、飲み込みも早いそうだ。
マリアの母親は洗濯係だが、マリアは屋敷の給仕係に配属された。空き時間は、相変わらず石鹸の研究室に来ることが多い。
ライアンの方は、他の使用人の子供たちに勉強の基礎を教えているみたいだ。メイドの入れ替えとともに子供たちも入れ替わり、その中には勉強に興味を示す子もいるらしい。
まだ十歳のライアンは、他の子供たちから「先生」と呼ばれている。












