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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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239/259

239:母の事情とゴキブリ珍事件

「失礼ですがヴァンベルガー侯爵、うちのブリトニーに対して不埒な行為に及ぶのはおやめください」


 そうだ、そうだ! と、私は心の中でリカルドを応援する。

 彼が「うちの」だなんて言うものだから、ドキドキしてしまった。

 

「書類を撤回させれば、どうとでもなるよね? 俺はブリトニーが既婚者でも気にしないよー?」


 リカルドがアクセルの言葉に絶句している。

 

(アクセル様、そこは気にしなきゃ駄目でしょ!)


 レニの件が絡むと、アクセルは暴走してしまう。先ほどの会話からもそれが見て取れた。

 どうして、そんなに必死になるのだろう。彼からは切羽詰まったものを感じる。


「とにかく、あなたの要求は到底受け入れられません。ブリトニーの母親であるムーア公爵夫人にも、絶対に撤回してもらいますから」

「ふぅん? できるといいね?」


 挑戦的な眼差しを向けたアクセルだが、ひとまず引いてくれるようだ。

 私とリカルドを残したまま、庭を去って行った。

 

「ブリトニー、俺もムーア公爵夫人に会おう。お前とのこと、きちんとけりを付けるべきだ」

「ありがとう。ごめんね、前回私が撤回できれば良かったのに」

「俺の考えだが、こういう話をするのは、他人同士の方がいいと思う。身内だと余計な感情もついてくるからな」


 リカルドがひたすら頼もしい。

 

「とりあえず、今は部屋に戻ろうか」

「うん」


 手を繋ぎながら、王都のアスタール家の屋敷へ向かう。

 リカルドが偶然庭にいたのは、城でちょっとした騒ぎがあったからだった。

 

 なんでも、内部で、大量のゴキブリが異常発生するという珍事件が起きたらしい。

 メリルの侍女の部屋が発生源だとか。


(もしや、リリー……)

 

 私はそれ以上、事件に思いを馳せるのを止めた。

 リカルド、あなた、外に逃げてきたのね。

 

 事件の際、近くの客室に滞在していたノーラは、あまりの恐怖から街に宿を取り、ルーカスと共に移動したそうだ。

 目撃者によると、やけにルーカスの機嫌が良かったとか。

 

 ルーカスは現在、ルークと名を改めて国王の用事をこなしている。

 問題は多いけれど、なんとなく、ノーラとルーカスはいいコンビだし、くっつきそうだ。

 

 ※

 

 そうして数日後、私はムーア公爵家に連絡を付け、リカルドと一緒に母の元へと向かった。

 今回はアクセルに邪魔されずに済んでホッとする。

 母はこの日も黒の豪奢なドレスに、濃い化粧という派手な装いだった。

 ムーア公爵自身は今日も姿を現さない。噂では、少し前から体調を崩しているとのことだった。


「婚約話の撤回……またその話なの? ブリトニー、何度来ても無駄よ」


 私とリカルドが何を説明しても、母は聞く耳を持たなかった。

 

「あのですね、私たちは既に結婚したも同然なのです。大々的な式がまだなだけで、書類上はきちんと夫婦なんです! それを壊すような行いは止めてください」

「生意気言うんじゃないわよ! 醜い見た目のくせに、あんたなんて、さっさと愛想を尽かされるに決まっているわ!」

「あなたには関係ない話ですし、リカルドはそんなことをしません。もう他人なんだから、放っておいてください」

 

 突き放すように告げると、一瞬だけ母の瞳が揺れた。


(えっ……? なんで、そんな目をするの?)


 意外な反応を前に、少しうろたえてしまうが、態度には出さない。

 母もすぐに高慢な公爵夫人に戻り、不機嫌そうに言った。


「ともかく、困るのよ。ヴァンベルガー侯爵との約束もあるし、ここでなかったことにはできないの。家族の命がかかっているのだから」

 

 母は柳眉を逆立てて、険しい顔になる。


「それって、ムーア公爵の件ですか? お加減が悪いとの噂ですが」

「ええ、そうよ。ヴァンベルガー侯爵は、夫の病を治すと約束してくださったわ。西の国の一部では医療の発展がめざましいとか。夫は以前、東の国へ土木事業の視察に行ってからずっと、体調が良くないのよ。向こうで流行った病気に感染してね」

 

 西の国の医療は、ほとんどがレニの功績だ。「一部」というのは、彼が限定的に活動していたからかもしれない。侯爵家のお抱え医師のようだし……

 

 レニがいないせいで、アクセルは私と婚約したがっている。

 それは、他にレニと同等の働きができる人材が存在しないからではないだろうか。

 だというのに、アクセルは、本当にムーア公爵の病気を治す術を知っているのか……甚だ疑問に思う。

 私を当てにされても、何もできないんですけど?


「お母様……いいえ、ムーア公爵夫人、いくらご主人の病気を治すためとはいえ、勝手に余所の伯爵夫人を他国に売らないでください。それに、おそらく、ヴァンベルガー侯爵は病気を治せませ……ん……ん? 東の国の病?」


 瞬間――頭の中に、ヴィーカの言葉が蘇った。

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