235:食べ物が絡むと油断する件
サラは少し何かを考える様子だったが、小さく息を吐いて私を見た。
「ブリトニー様については一旦置いておきましょう。とりあえず、昨日の事情を説明いたします」
それは聞きたかったので、私は黙って頷く。
「セシリア様は、アクセル様に思いを寄せておられます。それで、アクセル様が婚約したがっているブリトニー様に興味を持ち、中央の国へやって来ました。そして、アクセル様の留守を狙ってあなたに会いに行ったのです」
「そういうことだったんだ。アクセル様は、その話を知っているんですか……?」
「はい、セシリア様の気持ちはご存じかと。ただ、アクセル様は彼女を妹のようにしか思っていないですね。だから、余計にブリトニー様に敵対心を抱いたのでしょう」
そんな、迷惑な……
だとすると、あれはただの八つ当たりだったのだ。
お騒がせ令嬢のセシリアは、現在アクセルに命じられ、滞在先の部屋で謹慎中らしい。
「また、アクセル様が、謝罪のために会いに来られます」
「いや、だから、大事にしなくていいですって」
「会いに来られます!」
控えめに見えたサラは、意外と……かなり押しが強い。
彼女が帰路につくまで、散々「わざわざアクセル様まで会いに来なくていい」と伝えたけれど、ちゃんと実行してくれるだろうか。少し不安だった。
その夜、私はいつものように体重計に乗って自分の体型を確かめた。
「うん、増えた体重の半分は痩せたかな。まだまだ頑張ろう」
特に苦しい運動はしていないけれど、日々のちょっとした体操や甘い物の置き換え、そして何よりリカルドのおかげで、一人で悶々と悩まないことが大きな助けになっている。
この日のリカルドは外出していて、まだ屋敷に戻ってきていない。
彼が帰ってきたら、今日のことを伝えようと思った。
「はぁ、西の国って、話を聞かない人ばっかりだよね」
侍女になるため王都に向かったリリーや、王子の婚約者のメリルは大丈夫だろうか。
そろそろ顔を見に行ってもいいかもしれない。
悩んでいると、リカルドが帰ってきたので、今日のことを彼に話した。
「……というわけなの。来なくていいと何度も伝えたのだけれど。ごめん、私がうかつだった」
「いや、食べ物が絡んでいたのなら仕方がない。ブリトニーは、なんだかんだで美食家だからな」
「え、私って、そんな立ち位置?」
「おいしそうに食べるのはいいことだ。西の侯爵に関しては俺が対応する」
アスタール領へ来てからのリカルドが頼もしすぎる。
「ところで、先ほどの話で出ていた医療のことなんだが。俺にも詳しく教えてくれないか? 内政に活かせるかもしれない」
「いいよ。でも、私は医者じゃなくて素人だから、あんまり話したことを鵜呑みにしないでね」
「わかった」
私は大雑把に、西の国の医療についてリカルドに話した。
「で、私に理解できるのは漢方薬やハーブ、薬膳の種類と効能だけ。医療知識自体はないし、薬の処方はできないの」
「なるほど。なら、アスタール家の医者にブリトニーの知識を伝える方が早いな。ハーブの知識なら、うちの医者は詳しい。で、彼から他の医者に伝達してもらおう」
「アスタール家の医者に、教官役をやってもらうってこと?」
「そうだ。医療の教育機関を設け、アスタール領内で知識を得たいと望む医者に、ブリトニーの言う西の国の薬について伝えよう。一応、薬の効能も試さないといけないな」
リカルドが、色々手配してくれそうだ。ありがたい。
「なんかごめんね、リカルドに動いてもらっちゃって」
「それでいいんだよ。リュゼがやっていたことを、今度は俺が引き受けるんだから。適材適所というやつだ」
「ありがとう」
私はきゅっとリカルドの手を握りしめた。
新作投稿しました。
「芋くさ令嬢ですが悪役令息を助けたら気に入られました」
https://book1.adouzi.eu.org/n2047go/
よろしくお願いします。












