231:ドレスを絶賛される白豚令嬢
真珠の商品化は滞りなく進み、早くも販売ができそうだ。
港町の気候は穏やかで、海辺特有の明るい太陽の光が街全体に降り注いでいる。
現場でのやり取りを終えた私は、港町の様子を確認しつつ馬車に向かった。
「リカルド、良かったね。上手くいきそうで」
「ああ、ブリトニーはアスタール伯爵領でも、新しい成果を上げてくれたな」
「私だけの力じゃないよ。リカルドがいっぱい助けてくれたから……あれ?」
ふと前方を見ると、何やら人が集まっているのが目に入った。
「どうしたんだろう? 行ってみよう」
「あ、ブリトニー!?」
小走りで私は人々の方に向かう。
けれど、なぜかその直後、港町の人々に囲まれてしまった。
(なんだ、なんだ?)
よく見ると、全員が女性だった。真珠の事業で世話になっている代表の妻や娘も混じっている。
全員平民のようだけれど、全体的に裕福な装いだ。
戸惑っていると、代表の妻が思い切った様子で口を開いた。
「ブリトニー様!」
「え、は、はい!?」
「私たち、あなたにとても感謝しているんですっ! 一言でも、お礼を言いたくて!」
「へ……?」
真珠関連かなと思ったけれど、他のメンバーを見る限り、どうやらそれとは違うようだ。
お礼を言われるようなことは、何もしていないのだけれど?
(なんだ、私は何をやらかしてしまったんだ?)
焦っていると、代表の娘が緊張した面持ちで声を張り上げた。
「ドレスに服……! それから、お化粧品やアクセサリーも、ブリトニー様のおかげで助かりました!」
「そ、それらは、ハークス伯爵領から売り出されていたものでしょうか」
「そうですっ! 私たちは貴族ではありませんが、経営者の妻や娘としてパーティーに出席することがあります。ですが、簡素とはいえドレスを着るのは手間で、いつもメイドや従業員数人がかりで手伝ってもらい、着替えに四苦八苦していたのです。あなたが『一人でも着替えができるドレス』を開発してくださったおかげで、仕事でのパーティーも苦ではなくなりました」
一人が話し出すと、あとの女性たちも口々に声を上げ始める。
「私もです! うちはメイドを雇うほどでもない店だから、本当にドレスを着るのが憂鬱で……しかし、ブリトニー様の作ったドレスに救われました! お化粧品やアクセサリーも肌荒れしにくくて……」
「私もですっ! ドレスの着替えやすさもさることながら、コルセットがなくてもウエスト周りを誤魔化せるデザインが素晴らしい!」
「ぐふうっ!!」
それは、元を辿れば、私の三段腹を誤魔化すために取り入れたデザインだった。
(自分用に作ったデザインだけど、マリアが絶賛してくれたから、そのままリュゼお兄様に渡しちゃったんだっけ……)
でも、ここでそんなことは言えない。皆の夢をぶち壊すわけには……
私はキリッとした表情を浮かべ、何事もなかったかのように彼女たちにお礼を言った。
「そうですか! ありがとうございます!」
港町の女性たちから朗らかに見送られ、私はリカルドと一緒に馬車へ戻った。
心なしか、リカルドが私を誇らしげな眼差しで見つめている。
「すごいな、ブリトニーは。ハークス伯爵領で蒔いた種が、ここでも育っていたとは」
「……そんなすごいものじゃないから。あのドレスを作ったのは、楽に着替えがしたいのと、お腹を隠したかったのがきっかけだし」
「謙遜しなくていい。ドレスを生み出したきっかけが、どんな理由であれ、港町の女性たちは喜んでいたのだから」
「ありがとう、リカルド」
「あそこまで評判が良いとなると、他の土地でも流行っているに違いない。リュゼも今頃、喜んでいるだろうな。領地の収入がまた増えて……」
私の脳内に、札束を数える従兄の姿が浮かび上がった。












