228:体型が目印になっている疑惑
色々話し合って一月後、私はアスタール伯爵領の港町へ来ていた。
リカルドと一緒に、真珠の打ち合わせに参加するためだ。
季節は夏真っ盛りで暑い……
以前より少し痩せたけれど、まだまだ私の体型はぽっちゃり気味だ。
「フウッ、フウッ!」
「大丈夫か、ブリトニー。俺が抱き上げていこうか?」
「平気だよ……歩くっ!」
港町の人々は、リカルドの来訪を歓迎している。
そんな中、彼が私なんかを抱き上げて移動したら……駄目だ。
皆の夢をぶち壊してしまう。
リカルドは気にしないと言ってくれたけれど、私は気になる。
好きなもののために生きる、エレフィスのようには割り切れない。
(……私って、やっぱり中途半端)
こんなだから、何度もリバウンドしてしまう。
モヤモヤしてきて、小腹も空いているのは悪い兆候。
平常心を保って、暴食を避けるべし。無理ならリカルドに相談だ。
賑やかな港町から少し離れた、落ち着いた雰囲気の街が今回の目的地。
真珠を扱う人たちの集まる場所。
この日は、その代表と話をする予定だった。
けれど、建物の入り口で揉めている男女を発見する。
責任者風の中年男性と年若い女性だった。女性が男性に向けて、必死に何かを訴えている。
「お願いです、どうか……我々と取り引きを!」
「だから、こっちはそれどころじゃないんだ。これから、大事な方をお迎えしなければならない。今日は帰ってくれ」
二人のやり取りが聞こえ、私とリカルドは足を止める。
そのタイミングで、男性がこちらに気づいた。
「こ、これは! リカルド・アスタール様!! ようこそ、おいでくださいました! ブリトニー様も、お美しく……」
見え透いたお世辞は要らぬ。
なんで、女性相手だと、誰も彼もが容姿を話題に出すのだろう。
とりあえず「美しい」って褒めておきゃいいという考えは捨てようよ。そうではない人間にとって地獄だから。
責任者のゴマすりはスルーして、今の状況を尋ねる。
「何か、トラブルでもありましたか?」
聞けば、女性が真珠を格安で分けて欲しいと話をしに来たのだそう。
形の悪く、小さな品を大量に仕入れたいと。
「まったく、そんなものを何に使うのだか」
私は、女性の話にピンときた。
「もしかして、薬として用いるのですか?」
女性は瞬きしながら私を見た。
「そう、です。主から、依頼されて……」
彼女の服装は、異国のもの。しかも、西の国風。
グレイソン王子や、アクセルがらみではないだろうか。
あの国には漢方の概念がある。
真珠は解熱、鎮痛、鎮静、滋養強壮などの効果を持つと言われていた……前世で。
気になったので、私は彼女に尋ねてみた。
「西の国では、真珠を扱っていないのですか?」
女性は、はじかれたように私を見る。
私の体型を、上から下までじっくり観察するように……
「ブリトニー様って……もしや、ブリトニー・ハークス伯爵令嬢でいらっしゃいますか?」
体型で判断するんだ?
「ええ、はい」
「なんたる偶然! お願いします、どうか、真珠を分けていただけませんか? 私がお仕えしているのは、アクセル様なのです!」
王子ではなくて、そちらの方だったか。
「ええと、国に持ち帰られるのですか?」
「そうです。我が国では真珠の養殖技術が確立しておりません。薬としては、なかなか手に入らないのです」
「で、取り引きというのは一時的なものですか?」
「いいえ、できれば定期的に。……何度も足を運びお願いしているのですが、承諾していただけず」
女性は途方に暮れていたらしい。
とはいえ、一方的に取り引きを持ちかけられても、こちらの責任者も困るだろう。
その男性は、私の前にずいと体を割り込ませて言った。
「我々は、こちらの方々との取り引きを優先している。あなたとは取り引きできない!」
さっさと建物の中に入ろうとする男性。
私は少し考えて、女性に話しかけた。
「もしかすると、真珠を融通できるかもしれません。私たちが必要なのは、品質が売り物になるレベルのものなので。商品にならない品は、使用しませんから」
「そ、それでは……」
「とりあえず、話してはみます。進展があれば、連絡しますね」
「では、王都のアクセル様の屋敷に……」
「わかりました。手紙をお送りします」
とりあえず、女性は納得して帰ってくれた。












