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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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219/259

219:婚約者が眠れぬ夜

 バタバタしているうちに時間は過ぎ、夜になってしまった。

 寝る準備を終えた私は、よいしょとベッドによじ登る。

 ハークス伯爵領と違って、この宿には風呂が普及していないが、お泊まりセットなど色々持ってきたため、なんとかなった。

 宿の人が勧めてくれただけあって、ベッドが大きい。

 私が幅を取ることもなくて一安心だ。


「あれ、リカルド。床に座り込んで、何しているの?」

「精神統一。邪念を頭から追いやっている」

「へぇ、さすが武人だね」

「……そういう意味じゃない」


 複雑な表情のリカルドは視線をさまよわせ、立ち上がろうか逡巡している。


「そんなところにいたら冷えるよ?」


 いつまでも床に座らせておくわけにはいかないので、私は布団をめくって、隣に来るようポンポンとシーツをたたいてみた。


「……っ!?」


 その途端、リカルドがぎょっとしたように身じろぎし出す。顔が真っ赤だ。


「大丈夫だって、リカルドが紳士だってわかっているから。遠慮しないで?」

「………………」

 

 長い沈黙が落ちた。

 何かまずいことを言ってしまっただろうか。褒めただけなのだけれど。

 リカルドは無言になり、ずんずんとベッドの方へ歩いてくる。吹っ切れたようだ。


(でも、ちょっと不穏な空気?)

 

 近づいてきた彼は、勢いよく私の隣に寝転がった。


「これでいいか?」

「う、うん……」

 

 今になって、私は気づいた。


(眠る体勢のくつろいだリカルド、色っぽくないですか?)


 緑色の瞳に見つめられ、私はソワソワしながら視線を逸らす。


(恥ずかしい!)

 

 心臓がドキドキうるさく、どうにかなってしまいそうだ。

 少年の気配も完全に消えた今の彼は、大人の男性。急にそのことを意識してしまう。


(ひゃぁ~! 早まったかも、やっぱり私が長椅子で寝るべきだった!)


 焦り出す私と反対に、リカルドは落ち着いてきたようだ。

 相手が焦ると自分が冷静になる。これ、真理。

 

「どうした? ブリトニー?」


 余裕さえ窺わせる表情で、リカルドが距離を詰めてくる。

 大きな手が、ベッドに置いた私の手の甲に重なった。

 さりげなく抑えられているので、逃げ出せない。


「ブリトニーが呼んだんだぞ?」

「ソウデスネ」


 なぜだ。なぜ、私が押される状況になっているのだ!? 解せぬ……!

 

「一応、意識はされているみたいで、ホッとした。ブリトニーは、俺を異性として見ていないのではないかと心配になったから」

「ぐっ、ぐふふ……」


 すぐ傍まで迫るリカルドにゆっくりと体重をかけられ、私は仰向けにベッドに倒れる。

 リカルドも私の上に覆い被さるように重なり、唇同士が触れ合った。

 緩慢な動きで体を離したリカルドは、そのまま私の横に移動して寝転がる。


「ブリトニー。頼むから、あんまり煽るな。俺だって、これ以上ないくらいに、お前を意識してしまっているんだからな」

「ぐほっ!」


 互いに真っ赤な顔を見られないように明かりを落とす。

 手だけを重ねた状態で、私たちは眠りについたのだが。

 私のいびきのせいで、リカルドは眠れぬ夜を過ごす羽目になった……と、翌日知ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夕べはお楽しみでしたね(笑)
[一言] ドキドキのせいで眠れなくなったかと思ったらいびきのせいだったwww
[良い点] 二人ともかわいい…♡両想いで婚約者同士、こういうストーリーラインに落ち着いたら最高じゃないですか。 ブリトニーはバッドエンドを回避した以上の成果を上げたと思います。数々の努力が、一気に報…
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