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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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217/259

217:婚約者の精神年齢(リカルド視点)

 俺が王都の関所に着くと、ブリトニーはちょうど門から外に出るところだった。

 手間取るかもしれないと思ったが、かなり早く用事が済んだらしい。

 すれ違わなくてホッとする。

 馬から下りると、ブリトニーが駆け寄ってきた。


「リカルド、来てくれたの? リュゼお兄様は、戻ってきた?」

「ああ、領地のことは大丈夫だ」


 とはいえ、何事もなく出かけられたわけではない。

 来る前に、リュゼと一悶着あった。

 ……主に俺自身のせいなのだが。



 ※


 ブリトニーの王都行きについて、ハークス伯爵領へ帰還したリュゼに話すと、ものすごい圧を纏った彼に詰め寄られた。


「へぇ? それで、君はノコノコとブリトニーを送り出したというわけ。あのババァが仕組んだ婚約話。大きな問題がなければいいけど、海外が絡んでいるのなら警戒する必要がある。僕なら、閉じ込めてでも行かせないね」

「ブリトニーは十八歳だし、何もできない子供じゃない。本人の意見を頭から無視するのは……」


 彼女は、責任を持って行動できる意志のある人間だし、庇護してあげなければ何もできない相手ではない。


「そうだけど。君はざっくりとしか、知らないんだっけ? ブリトニーが持つ前世の記憶の話」

 

 俺の考えが伝わったのか、リュゼが髪をかき上げながら視線を向けてくる。

 確かに、簡単に話を聞いただけだった。

 それでも、ブリトニーはブリトニーだし、過去がどうであろうと変わらないと思っていたけれど。

 リュゼが懸念しているのは、そういった話ではない。


「変な相手の手に渡ると危険なんだよ、ブリトニーは。本人は無自覚だけれど、彼女の記憶の中には国を揺るがせてしまうものがある。リカルドも見ただろう? 火炎瓶とかいう武器を。あれをもっと強力にすれば、恐ろしいものができあがると思わない? 他に、あぶない薬の知識だって持っているし……どうにも危なっかしいんだよね」

「知識があるだけでは、武器を作れないだろう。薬にしてもそうだ。ブリトニーの世界は、おそらくここより文明が発達している」


 ブリトニーの火炎瓶は、俺も見せてもらったことがある。あれはヤバい。


「今はまだ、この国の技術が追いついていないから、実現不可能なものも多い。でも、ブリトニーの発想をそのまま、作り出せるようになってしまったら駄目だと思うんだ。他国の内情は、僕でも全部把握できていないからね」

「確かに。お前の言いたい話は、わかった。今から急いで王都へ向かう」


 母親と会って、ブリトニーが落ち込んでいるかもしれない。


「そうしてくれる? 僕も杞憂だと思うけど……念のため。ババァのワガママで済めばいいけど、相手がブリトニーの事情を把握した上で婚約者に望んでいるなら、タチが悪いからね」


 リュゼは俺の前で本当に、自分を取り繕わなくなった。

 よほど、ブリトニーの母親が嫌いなのだろう。ババァ呼ばわりなんて。

 俺は詳しく知らないが、聞いている限り、かなり我が儘な女性だと思える。


「ああ、それと、リカルド」

「なんだ?」

「ブリトニーの精神年齢は、たぶん、僕より上だよ」

「……は!? 嘘だろ?」


「今は、こっちの環境になじんでいるから、年相応になっていると思う」

「そういえば、お前の好みって、年上……」


 余計なことを言ったせいで、リュゼに屋敷から放り出されてしまった。



 ※


 子供の頃から、俺は要領のいい人間だったと思う。

 父の仕事を見て、彼に憧れ、まっすぐ努力してきた。王都の学園でも首席だったし。

 努力すれば、その全てが報われた。


 裕福な家庭で何不自由なく育った俺は、ミラルドの件で初めて挫折を味わう。

 豹変する周囲、領地の没収、父は伯爵位を叔父に渡さなければならなくなった。

 今まで上手くいっていた人生のツケが、一気に回ってきた。


 俺は、まだまだ未熟だ。

 ブリトニーとの婚約を破棄してしまったり、ミラルドの野望を見抜けなかったり、再度叶った婚約だってリュゼにオマケしてもらったようなものだ。

 早く、ブリトニーを迎えに行かなければならない。



 ※


 関所で話を聞けば、ブリトニーの乗った馬車が、何者かに襲われたようだった。

 ただの物盗りか、彼女の母親が雇った者か、他の人間の仕業か……それはわからない。

 けれど、ブリトニーが危険な目に遭ったことに変わりはない。

 リュゼの言葉が頭をよぎった。


「すまない、ブリトニー。俺の落ち度だ」

「なんで謝るの? リカルドが、私を襲ったわけでもないのに」

「俺は、ブリトニーを一人で、危険な王都に送り出してしまった」

「何を言っているの。行くって言って聞かなかったのは私の方なのに」


 ブリトニーは、王都で母親に婚約破棄の件を伝えたのだと話してくれた。

 とりあえず、目的は達成したようだ。


 相手は納得していない様子だが、リュゼがいる限り、無理に婚約を押し通すのは不可能だろう。

 あとは、ブリトニーが領地にいれば、向こうは手出しができないはずなのだ。

 幸い、王太子たちは、俺とブリトニーの婚約を認めてくれている。

 

(だとすれば、狙われたのは、ブリトニーを領地に帰したくない何者かの仕業だろうか? わからないな)

 

 撃退できたものの、危ない状況。

 リュゼの言うとおり、止めるべきだった。


「俺は、また間違った……リュゼみたいに完璧にはいかない。ブリトニー、本当にすまない。お前を王都へ行かせるべきじゃなかったんだ」

「私から見れば、リカルドも十分完璧な部類だけどな。それから、リカルドの間違いじゃないからね? 私はむしろ王都へ来てよかったと思っているよ。いろんなことが知れたもの」

「だが……」


 深刻な顔をしていたのだろうか。ブリトニーが、俺をのぞき込んでくる。

 

「あのさ、一人で気負わないでね? お互いに完璧じゃないなら、二人で一緒に頑張ればいいと思う」

「男として、そういうわけには」

「リカルドがいてくれるから、私はお母様とも戦えたんだよ。過去にリカルドがくれた言葉が、私の自信になっているの」


 そんなに、たいしたことを話した覚えはないのだが、ブリトニーは真剣な顔つきだった。


「私はリカルドに完璧なんて望んでいない。今のままがいいんだよ。何があっても、一緒に越えていける相手だと思ってる。婚約者って、そういうものじゃないの?」


 その言葉を聞き、俺はブリトニーを抱きしめたくなった。

 どうして、彼女の言葉は、こんなにも俺を救ってくれるのだろう。


「あ、あの、リカルド……」


 いつの間にか無意識に体が動き、思っていたことを実行していた。

 腕の中に、真っ赤になってふるふると震えるブリトニーがいる。

 可愛くて、愛おしくてたまらない。

 精神年齢が何歳だろうと、彼女は俺のただ一人、換えのきかない大切な相手だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 頭が良いからって何でも勝手に決めて頭ごなしに命令してくるリュゼより 相手が女であっても本人と話し合い相手の意思を尊重して協力することができるし、反省して向上し続けているリカルドの方が男とし…
[一言] 今回の話で確信したけどやっぱりブリトニーさんの 相手はリカルド君で良かったと思います。 お互いに完璧じゃないからそれを補い合うカップルに なれるんですよね。 リュゼ君は年齢の割りに完璧超人気…
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