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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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212/259

212:西の国の怪しい医療

 あの後も、何故かアクセルは私を婚約者にしたがっているようで、何度断ってものれんに腕押し状態だ。

 一体、彼は子豚に何を求めているというのか!

 ハークス伯爵領には、西の国との交易で使えそうな港もない。


(伯爵家も、特にお金持ちというわけでもないし)


 最近、ようやく貧乏から脱出したところだ。


(北の国との国境にある領地は、北の国以外から見れば魅力に欠けるし)


 とにかく、「見た目で撃退する作戦」が失敗に終わったということだけが、確かな事実だった。


(こうなったら、お母様に直談判するしかない)


 婚約の窓口は、勝手に西の侯爵と婚約を結ぼうとしている母。

 そして彼女の所属する公爵家である。


 交流会の間、私はメリルと一緒に過ごす時間が多く、必然的にグレイソンや彼と仲の良いアクセルがひっついてきた。


「ねえねえ、子豚ちゃん、ちょっと俺に冷たくない?」

「そんなことはありません、他人としての距離を保っているだけで」

「つれないなあ」


 メリルが心配そうな視線を向けてくる。


「あの~、アクセル様……ブリトニーは、リカルドと婚約しているの。そりゃあ、彼女が侍女として来てくれれば心強いけれど、二人を引き離すようなことはしたくないわ」


 なんと、予想していなかったメリルからの援護が来た。

 グレイソンも、メリルの言葉に頷いている。いいぞ、もう一押しだ。

 だが、当のアクセルだけは飄々としており、二人からの言葉をスルーしていた。


 その後、交流会はつつがなく終了……してしまう。

 グレイソンやアクセルと別れた私は、流れでメリルの部屋に呼ばれる。

 アンジェラの部屋へはよく出入りしていたが、メリルの部屋に入るのは初めてだ。

 第二王女の部屋は、アンジェラのとは違った意味で可愛らしい部屋だった。

 真っ白な木製の床と家具に、ベージュとミントグリーンの小物。ところどころに小動物の人形が置かれている。


(意外と趣味がいいかも……)


 感心していると、メリルは笑顔で私を長椅子に促した。

 

「この部屋に家族以外のお客様を呼ぶのは初めてよ」


 メリルはウキウキしつつ、手ずから紅茶を淹れてくれる。茶を淹れるのは密かな特技なのだとか。

 王女になってからは、勝手に茶の用意をすると怒られるので、兄弟間などでしかやり取りができないらしい。

 自分の淹れた紅茶を満足げに見つめた彼女は、先ほどまでの交流会について話し始めた。

 話題は、もっぱら、自分の婚約者であるグレイソン王子のことだ。


「でね……グレイソン様は、一度も私の外見を褒めなかったの」

「え、そうなんですか? 男性にしては珍しい方ですね」


 なぜ、メリルは、そこで嬉しそうにするのか。


「見た目を賞賛されるのは、もう嫌なのよ」


 彼女ほどの美少女ならば、きっと会う人全員から美しさを褒めちぎられるだろう。

 メリルの場合は外見が桁違いにいい。

 なので、美しさばかりを取り沙汰されることに、内心うんざりしているのかもしれない。


 侍のようなグレイソンは、中央の国の貴族とはひと味違うようだ。

 単に不器用なだけかもしれないが、メリルの彼への心象はアップしている。


「私ね、今まで外見ばかりを褒められてきたわ。内面に触れてくれる人なんて一人もいなかった。そのたびに、『私の中身は空っぽなの?』って、ショックを受けていたの」

「グレイソン王子は、メリル殿下の内面を評価されていたのですか?」

「いいえ、まだなんとも。でも、外見に頓着しないだけマシよ。それよりも、今問題なのは、あなたのほうね。リカルドがいるのに、西の国の侯爵と婚約だなんて。しかも、噂だけに留まらない感じだわ」


 私は、これまでの経緯を簡単にメリルに説明した。


「なるほど、そうなのね。婚約のダブルブッキング」

「西の国の侯爵には、さっさと諦めて欲しいです。母のいる公爵家やハークス伯爵家と繋がっても、あんまり彼のメリットにならなさそうなんですけどね」

「確かに、ブリトニーのお母様の家は公爵家ではあるけれど。私と王子が婚約するし、わざわざあなたを迎えなくてもいいわよね。王家と公爵家が対立しているわけでもないし。でも……」

「なんですか?」

「もしかすると、アクセルが求めているのは家同士の繋がりではなく、あなた個人の力じゃないのかしら……とも思うのよね」


 彼女の言っていることに、あまり納得がいかない。


「ブリトニーの功績は素晴らしいもの。私が知っているだけでも、大貴族の反乱に気づいたり、何度も私を助けてくれたり、北の国の侵攻を食い止め薬の流入を防いだり、ノーラやお姉様を救出したり」

「いや、それ……私はほとんど動いていないです。反乱を鎮圧したのはマーロウ様たちで、北の侵攻を止めたのもリカルドたちですし。私は後方でわちゃわちゃしていただけで」

「でもね、あなたがいなければ、私は無事では済まなかったし、あれほどの早さで誰も北の国の薬に気づけなかったわ。そして、それだけじゃない」


 内装と同じく、お洒落なティーカップで紅茶をおかわりするメリル。彼女の話は、まだ続く。


「私、この二年でたくさんのことを調べたの。そうしたら、あなたの様々な功績に気がついたわ。特に医療や衛生、美容や服飾の分野ね。この国の大半の人は、それらがハークス伯爵領の功績、つまりは北の伯爵の手柄だと思っているけれど、私とかお姉様とか……ブリトニーに近い人なら知っているわ。全部、あなたが生み出したものだって」


 私の前世の知識が知れ渡れば危険ということで、今までリュゼは、いい感じにカモフラージュしてくれている。

 メリルやアンジェラは、マーロウ経由でそれらが私の生み出した製品だと知っていた。


「功績だなんて、大げさですよ」


 元は自分のために、前世のものを再現しただけだ。

 それが勝手に一人歩きし、国中に広まってしまった。


「思うに、西の国は、そういったものが欲しいんじゃないかしら。聞くところによると、向こうの国では、医療も美容も遅れているらしいから。おまじないで、病気を治すそうよ」

「それは、また……かなり原始的ですね」

「薬もね、謎の石を砕いたものとか、動物の干物や内臓、骨を使うそうなの」

「……漢方?」


 鉱物性や動物性の生薬には、そういったものがある。

 例えば、香水の原料である麝香は漢方としても使え、使用量によって効果が異なり、興奮や鎮静、抗菌や抗炎症などの効果がある。

 中央の国ではハーブを薬として扱うが、漢方という考えはなかった。

 メリルも漢方について全く知らないので、他の人も似たようなものだろう。


(う~ん、一概に医療水準が低いとは言えない気もする)

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