表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/259

209:白豚令嬢、子豚ちゃんと呼ばれる

 我が家にやって来たメリルは、応接間の長椅子に腰掛けるなり、西の王子との婚約について私に説明を始めた。


「さっきも言ったように、私と西の王子との婚約話が進んでいるの。お父様は乗り気みたいだわ」


 彼女の話によると、ルーカスとの婚約が破談になってすぐ、まるで狙っていたかのようなタイミングで、西の国から申し入れがあったらしい。

 西の国と中央の国は敵対関係にはなく、南の国ほどではないが小規模な取り引きも行っていた。最近の中央の国の発展は、めざましいので、北と南に出遅れたものの、西の国も中央の国との繋がりを持ちたがっているのだろう。

 それで、手っ取り早く、王女を娶りたいと申し入れがあったようだ。

 メリルの婚約者を失ってしまった中央の国にとっても、他国の王族との婚姻は悪い話ではない。

 西の国は、中央の国の西側に位置する島国なのだが、大陸では手には入らないものがたくさん存在する。それらを得ることができれば、中央の国はさらに発展するだろう……という考えを国王は持っているらしい。


「聞いても仕方がないことだとは思いますが、メリル殿下は婚約についてどうお考えですか?」

「そうねえ。正直なところ、よくわからないわ。でも、お姉様を見ていると幸せそうだし、悪くない話なのかも。でも、やっぱり不安よね。だから、ブリトニーに会いに来たのよ」

「私に何かできるようなことがあればいいですが。国王陛下が決めた、他国の王子との婚約には、さすがに口出しできませんよ?」


 いくらメリルの友達認定を受けているとはいえ、私は国家間の問題に口は挟めない。話を聞いてあげるくらいが関の山だろう。


「わかっているわ。でもね、そのね……対面の場に同席するくらいはできるでしょう?」


 上目遣いで窺うように私を見つめるメリルは、やはり美少女だ。私が男なら、コロッと依頼を受けていたかもしれない。


「申し訳ありませんが、今はリュゼお兄様がアスタール伯爵領へ出かけているので、リカルドだけにハークス伯爵領の仕事を押しつけるわけにはいかないんです」

「お願い! 時間は取らせないわ。一緒に会ってもらうだけでいいの。それで……できれば、相手の人となりの感想を教えてもらえれば」

「私、人を見る目はないですよ? 特に、婚約者候補の男性を見る目はゼロに等しいです。それでも、構わないですか?」


 すでに、ノーラのお見合いで失敗し、彼女を手痛い目に遭わせてしまった身なので。

 ノーラの元婚約者、ヴィルレイは自己中心的な上、悪事に手を染めている人物だった。

 だが、お見合いの時点で、私には彼が普通の好青年に見えていたのだ。恐ろしいことに!

 節穴にも程がある。


「いいの、あなたがいてくれるだけで心強いし。それに、心配な噂も聞いてしまって」


 メリルの思わせぶりな態度が気になり、私は思わず聞き返してしまった。


「心配な噂とは?」

「ええ、それが、ブリトニーにも婚約話が持ち上がっているという噂なの。おかしな話よね、ブリトニーはリカルドと婚約済みなのに」

「まさか……」


 先ほど届いた手紙の内容が頭に思い浮かぶ。私たちが気づかないうちに、王都で母が暗躍していたのではないだろうか。彼女ならやりかねないという思いはある。


(あの手紙、いかにも事後報告っぽいし、命令口調だったし)

 

 母が余計な真似をしている可能性が大きい。

 だとしたら、早く母に会って話を撤回してもらわなければならないし、メリルの聞いた噂話の払拭も必要だ。リカルドが領地に戻り次第、ハークス伯爵領を出て、メリルについて行った方が良いのかもしれない。心細そうなメリルも心配だし。


「わかりました、メリル殿下。噂話を鎮める必要もありそうですし。リカルドが戻り次第、相談してみます。夕方には帰ってくると思いますので」

「ええ、ごめんなさいね。西の王子との婚約が成立すれば、私はお姉様と違って他国へ行くことになるわ。怖いのよ……」


 小動物のように不安げなメリルは、すがるように私へ手を伸ばした。


 ※


 夕方になり、出先から戻ったリカルドは、メリルを見るなり驚きの声を上げた。

 それもそうだろう、まさか彼女がハークス伯爵領に来るなんて誰も思わない。

 とりあえず、一緒に応接室へ向かう。婚約者らしく、リカルドは私の隣に腰掛けた。

 

「……というわけで、お母様が余計なことをしているみたい。解決するため、王都へ行きたいんだけど」


 例の手紙も見せ、順を追ってリカルドに説明すると、彼は顔を曇らせて答えた。

 

「ブリトニーが直接行くのか? 心配だな」

「今屋敷にいるメンバーで、お母様と面識があるのは、お祖父様と私だけなんだ。リュゼお兄様が戻らない今、私が一人で行くのが最善だと思う」


 最近急激に増えてきた仕事を全部回すのは、祖父一人では厳しいだろう。

 彼は戦ごとには強いけれど、それ以外の仕事は苦手なので、リカルドには領地に残ってもらった方がいい。

 リカルド本人も、それは理解しているようで、難しい顔で悩んでいる。ややあって、彼は私の方を見つめた。


「本当に、すぐに済む用事なのか? 王都に引き留められたりは……」


 言いかけて、リカルドは自嘲気味に片手で顔を覆う。


「悪い、余裕なさ過ぎだよな。何言ってんだ、俺は」

「リカルド……?」

「ブリトニーの母親は高位貴族の出で、今も公爵家に嫁いでいるだろう? 他人の母親を悪く言いたくはないが……あの手紙を見る限り、強引な手段を取らないか心配だ」

「大丈夫、さっさと行って断って帰ってくるよ。あと、メリル殿下の婚約者にも会ってくる」


 それでもなお、心配そうな彼に向かって、私はニヤリと微笑んだ。


「この体型の私を目にしたら、周りも考えを変えるんじゃないかな。今の私は絶賛太り中だもの」

「いや、駄目だ。ここ数年でブリトニーは功績を挙げすぎている。他の男に目をつけられてもおかしくはない」


 父との結婚が破綻した母は、年の離れた公爵の後妻に収まった。本人は不服だっただろうが、当時は出戻り女性の受け入れ先が他になかったのだ。

 もともと、父とケビンの母の間を裂いて結婚にこぎ着けた母だ。公爵家でも上手く立ち回り、今は年老いた公爵に代わって家の実権を握りつつあるという。リカルドの心配はもっともなことだった。


「リュゼが戻り次第、俺も後を追う。というか、数日後じゃ駄目なのか?」

「取り返しがつかなくなる前に、早めに噂を払拭した方がいいと思うんだよね。それに、お兄様が戻るより、私が行って帰ってくる方が早いよ?」


 心配そうなリカルドをなんとか説得し、私は翌日にメリルと二人で馬車へ乗り込んだ。


 ※


 馬車を急がせて三日目の夜、私たちは王都へたどり着いた。

 予定では、明日にメリルと西の王子の顔合わせがある。

 アンジェラとエミーリャは、今後に向けて治める予定の領地を回っており、今は留守にしている。マーロウは別の仕事で忙しいようだった。


「メリル殿下。西の王子との顔合わせは、どういう流れなんですか?」

「今回は西の国からの要望で、両国に住む年の近い貴族たちの交流会が開かれるの。そこで、私と王子が出会う手はずと聞いているわ。進行は、お父様や大臣たちが勝手にやってくれるみたい」

「そのような国際的な交流に、私なんかが出て大丈夫ですか? 場違いすぎません?」

「数あわせで、他の令嬢も大勢呼んであるから大丈夫。でも、彼女たちとは仲が良くないの、友人はブリトニーだけなのよ。だからお願い、助けてちょうだい!」

「うう……そんな目で見ないでください」


 小動物が、目をうるうるさせてこちらを見上げてくる。これは断れない。

 そういうわけで、私は王宮主催の国際交流会に参加することに決まってしまった。

 言語は共通だから大丈夫だが、西の国の文化なんて基本事項しか知らない。


(事前準備が全くできていないから不安だなぁ)


 私の気持ちを余所に時間は過ぎて、あっという間に翌日になってしまった。

 朝一番に押しかけてきたメリルと朝食をとり、昼には城の大広間にある会場に連れて行かれる。メリルは国王と共に、後からの登場となる運びのようで、控え室で待機しなければならない。それまでは別行動だ。

 いつも以上にきらびやかな城の中には、着飾った若い男女が大勢集まっていた。一応ドレスは持って来たけれど、皆華やかなので私は霞みまくると思う。


(ぐふふ、場違い感半端ないなあ。これ、公開お見合いパーティーじゃないの? 通行の邪魔をしないよう、隅っこで壁になろう……って、駄目じゃん。本日の主役は第二王女だよ!)


 その付き添いである私が、隅っこでのほほんとしていられるわけがない。


(でも、ここで目立てば西の国の参加者伝いに、母の用意した婚約者へ『ブリトニーは肥満体』という情報が行く。そうすれば、婚約はおじゃんになるに違いない。よし、積極的に人前に出よう)


 交流会が開始されるまでは暇なので会場全体を観察してみたが、早くも活発に動いている男女が多い。とはいえ、中央の国では、初対面でいきなり「婚約しましょう」となるのは希で、大体は親から「この人とお話しなさい」と言われる。まだまだ、保守的なお国柄なのだ。


 メリルの登場を待っていると、不意に貴族の青年に声をかけられた。


「こんにちは~。君、もしかして、ブリトニー・ハークス? 今、一人?」

「そうですが……」 


 答えつつ、話しかけてきた人物を見返す。

 青みを帯びた不思議な髪色の男性で、淡い空色の瞳を持つ目が長い睫毛に縁取られている。

 美青年だが、全く知らない人だ。


(軽そうな人だなぁ。異国風の装いだから、西の国の人かも)

 

 人懐っこうそうな微笑みを浮かべているが、全体的にふわふわしていてチャラそうな人物である。そして、距離感が近い。


「良かった~。初めまして、子豚ちゃん。招待客リストに、急遽追加されていたからビックリしたよ~」

「子豚!? ……えっと、どちらさまですか?」


 やけに親しげに話しかけられ、しどろもどろになりつつ問いかけると、青年は不思議そうに瞬きして言った。

 

「あれ? 俺のこと、ジェシカさんに聞いていない? 交流会に参加しているから、てっきり……」


 ジェシカという名前に、私はピンと来てしまった。


(気づきたくなかったなぁ。お母様の名前を出すこの人は、もしかして……)


 私の婚約相手の関係者に違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ