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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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206/259

205:第二王女の悩み事(メリル視点)

 私、メリルは城の厨房の隅で膝を抱えていた。

 こっそり一人になりたいときには、こうやって隠れるのが一番だ。

 次の食事の準備に忙しいコックたちは、私の存在に気がつかない。


(ふふふ。昔から、かくれんぼは得意だったのよね)


 中央の国の城の中は、どこにでも人の目があって落ち着かない。気が休まる暇がないのだ。

 二年経っても、このような環境には慣れたものではなかった。

 誰もが私を見ている、監視をしている、あらを探している。


(苦しくて、息が上手に吸えない。上手く言えないけれど、そんな感じだわ)


 時々、その場から消えてしまいたい気持ちに駆られた。逃げ場なんて、どこにもないのに。

 もう母もいない。私を助けてくれた貴族は、私よりも国王に忠誠を誓っている。


 下町にいた頃はもっと自由に振る舞えた。他人から否定されることなんてなかった。

 誰もが私に笑顔を向けた。


(でも、本当にそうだったのかしら。城へ来る前の私が鈍いだけだったのでは?)


 今は、ときどき、そういう考えが頭をよぎる。

 私は、下町での暮らしを愛していた。

 けれど、誰もが私に親愛の感情を抱いてくれていたなんて、甘い幻想ではなかっただろうかとも感じる。


 男性は総じて親切だった。私の容姿のせいだと思う。

 他人は皆、私が並外れて恵まれた見た目だと口にするから。

 特に意識をしたことがなかったけれど、王宮でも言われるから本当にそうなのだろう。


 平民でいた頃は、何を言っても許されていたように思う。

 実際、よく考えずに思いのまま発言していた。それで大丈夫だ……と考えていた。


(でも、違うのよね)


 少しだけ周囲に気を配るようになり、気づいたことがある。私の妄想は不正解もいいところ。

 男性が私に優しかったのは、下心があるから。

 彼らは、隙あらば私をチラチラと盗み見ていたし、男性同士で私についての噂話をしていた。

 女性が私に優しかったのは、利用価値があるから。

 特に男友達に会う日は、必ず私にくっついて来ていた。

 というか、改めて思い返してみたら、そういう日以外は接点がなかった……!

 今までの私は、そんなことにも気づけなかったのだ。


(下町で危ない目に遭わなかったのは、奇跡ではないかしら)


 とにもかくにも、もうあの日々には戻れない。

 この二年の間に私は成長した。微々たる進歩でも、一歩は一歩!


 父が平民出の私を引き取ったのは、政略結婚をさせたかったからだ。

 王女が姉だけだったので、少し悩んでいた模様。

 実際、引き取られてすぐに、北と南の王子に引き合わされた。

 ……ちょっと露骨だなあ~と思った。

 でも、それだけではなく、あの人は私を娘として愛してくれているとわかっている。


(お父様、私に甘いし)


 彼は私を見て、「母の面影がある」と言っていた。

 それから、ちょっと悲しそうな顔になる。

 彼の正妻、つまり兄や姉の母親は、平民出の下っ端メイドである母を疎ましく思っていたらしい。

 命の危機を感じていた母は、とある貴族の手引きで、生まれたばかりの私を連れて逃げた。


 街に降りた母は、王妃から隠れ、庶民としてひっそり生きた。

 けれど、無理がたたったのか病に倒れ、私は一人きりに。

 タイミング良く迎えに来たのが、母を助けた貴族。

 その頃には、父は私の存在を知っていて、引き取るタイミングを窺っていたようだ。

 私たち親子を目の敵にしていた王妃が亡くなったこともあり、タイミング的にはちょうど良かったのだと思う。

 母と繋がりのあった貴族も、ただの親切心ではなく、多少の見返りを期待して私たち親子を助けてくれたのだろう。


(だって、今は……ちゃっかり、出世しているみたいだし)


 人々の行動には、いろいろな打算がある。

 これも、私が二年間で学んだことだった。


 そして、私の婚約だけれど……白紙に戻ってしまった。

 北の国が、中央の国に戦いを仕掛けてきたからだ。

 幸い、国境沿いの領地が撃退してくれたけれど、婚約者のルーカスは幽閉扱いになっている。


(お父様とルーカスは、何かの取り引きをしたみたいね)


 ルーカスは今、父に派遣され他領で仕事をしているようだ。接点がないのでよくわからない。

 元々彼は、私にさほど興味はない様子だった。

 他の人間と同じく、見た目で私を選び、中身にはたいして興味がなさそうだったのだ。

 だから、婚約が解消されて良かったと、私は密かに安堵している。

 やっぱり、姉のような、愛のある結婚をしたいから。


 最近、父が私の婚約者候補を見つけてきた。西の国の王子だ。

 年が近く、条件の良い相手らしい。


(会ったことはないけれど、心を通わせられる人だといいな)


 新しい婚約者は、私の見た目に惑わされない男性がいい。


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