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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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198/259

197:見つめ合う従兄と婚約者

「えっ、レディエ家の力を借りて、ノーラの実家の領地から侵略?」


 帰りの馬車で、ノーラはレディエ家の計画について私に話をしてくれた。

 予想していたとおり、レディエ家は北の国と繋がっている。

 そして、ノーラの実家の領地から大量の鉄を手に入れ、武器を製造していた。


 さらに、これは、ノーラが調査してくれてわかったことだが、北の国はハークス伯爵領を迂回し、ノーラの領地を攻める計画を立てていたらしい。

 ノーラの領地の北側は、険しい山に守られている。

 しかし、そのことにあぐらをかいて兵を鍛えていないので、戦力はハークス伯爵領に遠く及ばない。つまり弱い。

 ハークス伯爵領には祖父とリュゼが揃っている。その上、新たにリカルドも追加されたため、北の国は侵攻を避けたようだ。


(レディエ侯爵領は押さえたし、阿片の回収も進んでいるけど)


 ノーラの実家は、完全に嵌められている。なんとかしなければならない。

 アンジェラは大急ぎでノーラの実家に連絡を送った。私は、もちろんリュゼに連絡している。


 ここ数日で捜査の手が回り、城中で怪しい者はいなくなったようなので、北の国の王女ヴィーカや侍従のジルはマーロウたちへ引き渡した。

 ジルがヴィーカを逃がそうと奮闘していたが、城にいたルーカスが妨害し、二人は無事に城の敷地内にある牢へ入れられる。


「ノーラは?」

「部屋で休んでいます。ルーカス殿下と仲が良いみたいですわね」

「はい、少し前から、そうみたいです」


 ヴィーカたちのことはひとまずマーロウたちに任せ、私とリカルドはハークス伯爵領へ走る。

 ノーラの領地を手助けするためだ。

 もちろん、もしものことを考えると、ハークス伯爵領の防衛もいつも以上に固めなければならない。

 することがいっぱいだ。

 私はマーロウからお土産にもらったケーキを頬張りつつ、帰路を急いだ。



 久々のハークス伯爵領に着き、私はどこかホッとした気持ちになる。

 現状は、全く穏やかではないけれど、田舎ののどかな風景は落ち着ける。

 屋敷に入ると、慌ただしく仕事をしているリュゼがいた。


「リュゼお兄様! ただいま戻りました!」


 元気良く挨拶すると、リュゼが私に歩み寄って頭を撫でた。


「手紙は受け取ったよ。よく頑張ったね、ブリトニー」

「お兄様……」


 いつにない優しさに戸惑う私だが、従兄はそんな私のときめきをぶち壊す言葉を続ける。


「それはそうと……ブリトニー、ちょっと大きくなった? 主に横に……」

「リュゼお兄様の、デリカシーなし人間! 王都でちょっと色々食べてしまっただけで、すぐに戻ります!」


 楽しそうに微笑んだリュゼは、今度はリカルドをねぎらいに行った。

 ノーラの領地へ向け、すでに祖父率いる兵士を送り込んでいるとのこと。

 リュゼが不在の間にハークス伯爵領が攻められたら洒落にならない。だから、ハークス伯爵家当主のリュゼはこの地を動けない。

 かといって、高齢の祖父だけでは心許ない部分もある。

 そこで、ノーラの領地にはリカルドが向かうことになった。


「わ、私も行きます! ヴィーカ王女は私と同様の知識を持っていました。それらを使って攻めて来るかもしれません!」


 私の言葉に、リュゼとリカルドは渋い顔をする。


「本当は、ブリトニーに残って欲しいけれど……君にしか解決できない問題も出てくるかもしれない。今回は同行を許すよ。ただし、前線には出ないこと!」

「わ、わかりました! 後方に下がっています!」

「本当に気をつけて」


 リュゼが私の頬に手を伸ばし、深い海のような目で見つめる。

 あまりにも長く見つめ合ったせいか、途中でリカルドが間に割り込んできて……何故か彼がリュゼと見つめ合う形になった。

 二人とも、なんとも言えない表情になっていた。

 その間に、私は唐辛子スプレーと火炎瓶の予備を屋敷に置いておく。防犯対策だ。


 そして、準備を終えた私とリカルドは、増援部隊を率いて……そして、武器の予備や食料など、様々な物資を持ってハークス伯爵領を発ったのだった。





 馬を飛ばした私とリカルド、そして増援部隊の面々は、翌日にノーラの領地へ着いた。

 ノーラの領地では、すでに戦闘が始まっていた。彼女の父親が前線に出ているらしい。

 祖父たちも加勢しているのだが、何故か戦況は不利なようだった。


 屋敷に残っているノーラの弟に、詳しい状況を聞く。彼はノーラと同じ髪色や目の色の少年だった。そばかすもいっしょで、愛嬌のある顔立ちだ。

 困った顔のノーラの弟は、現場で起きていることを教えてくれた。


「敵の中に混じっている、全身鎧の兵士が厄介なんです」

「全身鎧?」


 この世界の兵士の鎧は、胴体部分などの急所を鉄の板で覆ったものが主流だ。別で、肘当てやすね当てなどがある。

 いわゆる、ファンタジー映画などで出てくる「顔の見える鎧」だった。


(少女漫画だからかな……あまりガチの鎧じゃないんだよね)


 だが、北の国の兵士は全身をくまなく鎧で覆っているという。頭も、胴体も、腕も足も全部だ。

 昔、美術館で見た、全身鎧のような形だと思われる。


(間違いなく、ヴィーカ様の入れ知恵だね。確かに、効果的ではあるかも……)


 こういった鎧は斬撃に強く、矢も至近距離でないと効きにくい。普通に剣での戦いとなると苦しい。

 ただ、この鎧には弱点もある。体に振動が直接伝わる打撃に弱いのだ。攻撃で鎧が凹んでしまうと、動きも制限される。

 他にも、油や熱湯などで対抗できる。あと、重い。

 剣の腕がいい者なら、隙間を突く系の武器で鎧の隙間を狙うという手もある。

 私は、そのことを告げ、持って来た物資類の中から火炎瓶と菓子を取りだした。

 すると、それを目ざとく見つけたリカルドが私の手を握る。


「ブリトニー、また間食か? 俺はブリトニーの体型をどうこう言う気はないが、そういう食べ方は駄目だ。食べることを楽しむのではなく、現実逃避や苛立ちの発散に利用するような食べ方は。……何かあれば俺が力になる。だから、食べることに逃げずに相談して欲しい」

「リカルド……」


 彼は、私のことをよく見ていた。

 数回の間食を目撃し、その原因が私の心の弱さから来るものだと正確に突き止めている。


「俺では、頼りないか?」

「そんなことない!」


 お菓子に未練はあったが、リカルドに指摘されてまで食べる気は起きない。

 今回は、なんとか食欲を制御できた。セーフ!


「ちょっと、色々立て続けに起こったから……ストレスでヤケ食いしちゃった。今までの比じゃないくらい、することがいっぱいあって」


 我ながら、なんとも情けない言い訳だ。

 けれど、リカルドは私を宥めるようにポンポンと頭を撫でる。


「教えてくれてありがとうな。それから、苦しいときは無理せず俺に任せればいい」

「……あと少しだから、頑張る」


 菓子袋を戻し、唐辛子スプレーも出す。

 きっと、今回の戦いに使えるはずだから。


「すみません、打撃系や突くことに重きを置いた武器を用意してください。あと、現地で油や湯は調達できますか?」

「わかりました! 大丈夫です!」


 ノーラの弟は、慌てて領地中の武器をかき集めに動き出す。

 私は必要な物資をリカルドに預けた。


「リカルド、私は前線に行けない。後は頼んだよ」


 自分が行っても足手まといになるだけだ。それは理解している。

 リカルドもリュゼほど戦闘経験はないけれど、それでも何度か現場に出ている。

 ミラルドの引き起こした内戦だったり、大貴族のもとへ乗り込んだり……一応戦っており、私とは違う。


「ああ、任せておけ」


 彼は私に優しく微笑んで応えた。


「どうか、気をつけて」


 これから行くのは危険な場所だ。怪我をしないとも限らない。

 初陣ではないにしろ、本当なら彼にも行って欲しくない。

 リカルドは、小さく私に口づける。緑色の宝石のような瞳が、真摯に私を見つめた。


「大丈夫だ。ブリトニーの知識は無駄にしない」

「……リカルド、無事に帰ってきてね。後方のことは任せて」


 しっかり頷いたリカルドは、祖父たちのもとへ向かう準備に取りかかる。

 そうしてすぐに、彼は増援部隊らと共に前線へ急いだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] マーロウ殿下隙あらばブリトニーを太らせようとしないでー!エレフィスの餌付けで我慢してくれ。ダイエットがどれだけしんどいか。 やること多くてストレス溜まると手っ取り早くヤケ食いしてしまうのは…
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