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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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196:友人のお尻が成長している件(ノーラ視点)

「ついていない、本当についていないわ……こんな目に遭うなんて!」


 私――ノーラは、レディエ侯爵家の屋根裏にある小さな物置に閉じ込められていた。

 彼らの悪事に気づいてしまったからだ。

 これからどうなるのか考えると、不安で仕方がない。


「ブリトニーの言っていたとおりだったわ」


 彼女の手紙に書いてあった、阿片とかいう薬の原材料……芥子。

 それは、ここ一年ほどで爆発的に生産が増えた、レディエ侯爵家の特産物だった。


「なんで私ばっかり、こんなことになるのよ。もう! 私だって幸せな結婚がしたいのに!」


 ブリトニーたちがうらやましい。


(リカルド様だって、エミーリャ様だって素敵な殿方だもの。それに比べて、私は……)


 夫は嫁に無関心で仕事一筋なマザコン。

 舅は威張り腐ったモラハラ男。姑は嫌味で私をいびるのが趣味。

 この家に愛着などない。嫌すぎて王都に家出していたくらいだ。


 しかも、レディエ侯爵家は、北の国と組んで戦争を引き起こそうとしている。

 私の実家の領地で取れる鉄を使った武器に、痛み止めだという芥子からできた怪しい薬。

 戦争が始まれば、レディエ侯爵領はそれらを売って儲かる。最悪の計画だ。


(北の国にも中央の国にも、商品が売れると踏んでいるのよね。ここの人たちは平和に関心がないみたい。むしろ、戦いを長引かせたがっている)


 南側だから、北の国の侵攻がないと高をくくっているのか、それとも北の国と何かの協定でも結んでいるのか。

 すでに、レディエ侯爵家では、それらの品の取引を開始しているようだった。

 レディエ侯爵領は、少しだけ海に面している。そこから船で、武器や薬をどこかへ移送していた。研究熱心なヴィルレイも乗り気なようだった。


(いずれにせよ、このままではヤバいわ。主に私の身が……とっとと逃げ出さないと)


 共犯扱いされたら、たまったもんじゃない。

 けれど、数日前に色々探っているのがばれて、物置に閉じ込められてしまった。

 そのせいで身動きが取れない。ブリトニーに手紙の返事も書けない。ピンチだった。


(伝えたいことが沢山あるのに!)


 出られないから何もできない。しかも、今朝から食事も出てこない。

 今日は妙に周囲が静かなのだ。

 あいにく、窓もないので様子を探れずにいる。

 でも、誰にも発見されずに物置で飢え死になんてごめんだ。あいつらに一矢報いてやらなければ気が済まない。

 打つ手がない状態でそんなことを考えていると、何やら階下が騒がしくなった。

 誰かが大きな声を出している。


(あれ、あの声って……ブリトニー? なんで?)


 私は急いで屋根裏部屋の扉の前へ移動した。

 耳を当てて音を聞き取ろうと頑張っていると、やっぱりよく知る声がする。

 友人が私を呼んでいる。


「ブリトニー!」


 呼び声に応えた私は、ガンガンと屋根裏部屋の扉を叩いた。まずはここから出なければならない。


「私はここよ! ここにいるわ!」


 声がだんだん近づいて来る。こちらに気づいてくれたのだろうか。

 ダダダダダと足音が響き、扉の前で止まる。


「ノーラ、下がって!」


 はっきりとブリトニーの声が聞こえ、私は言われたとおり部屋の奥へ移動した。

 すると、大きな音を立てて屋根裏部屋の扉が壊される。

 外には、腕を組んだブリトニーが仁王立ちしていた。


「やっぱり、閉じ込められていたんだね。ノーラ、無事で良かった!」


 ブリトニーが「よいしょ」と屋根裏部屋に上り、私の手を引く。


「逃げるよ」


 外へ出るとリカルドもおり、彼は侯爵家の追っ手が来ないか見張っていた。


「ノーラ嬢、無事だったんだな。馬車へ戻ろう」


 ブリトニーとリカルドに誘導され、私は彼女たちが乗ってきた馬車に入った。

 まだ気づかれていないようで、追っ手などはない。

 彼女たちは、見覚えのある兵士に私の護衛を頼んでいる。


(この人たち……いつもお城の庭で訓練している小隊の方たちね)


 顔見知りなので、なんとなく安心感がある。


「私たちは、アンジェラ様を迎えに行くから。ノーラはそこに隠れていてね」

「わ、わかったわ……」


 しばらくすると、ブリトニーたちが戻ってきた。

 アンジェラ様や他の小隊メンバーも一緒だ。

 そして、彼らと一緒に歩いてくるのは……捕縛されたレディエ侯爵家の面々だった。


(全員、痛そうに目を覆っているのはどうしてかしら)


 私は馬車の外へ出た。

 ブリトニーとアンジェラ様が何やら話をしている。


「アンジェラ様、さっそく唐辛子スプレーを使われましたね」

「ええ、役に立ちましたわ。レディエ家の者たちは、自分の主張が通らないとわかった瞬間、私を捕らえようとしてきたのです。本当は火炎瓶とやらをお見舞いしたかったのですが……」

「……えっと、唐辛子スプレーの方で正解だと思います」

「それに、罪が露見すると、全部ノーラのせいにしようとしました。許せません」

「婚約者として家に入ったばかりの令嬢に、そんなこと不可能ですからね。馬鹿な言い訳を考えたものです」


 私に気づいたヴィルレイが、真っ赤に腫れた目でこちらを睨み付けていた。

 最初こそ、「彼が妻に無関心なのは仕事や勉強に熱心だから」と我慢していたが、だんだんそうではないと気づいた。彼は外での顔と家での顔が百八十度異なるのだ。

 ただの内弁慶で趣味優先のマザコン男だった。


「くそっ! ノーラ、お前のせいだ! この、役立たずが……!」


 私を罵るヴィルレイに続いて、姑も叫ぶ。


「大体、婚約を決めたのだって、お前のところの鉄と立地があったからよ。あとは跡継ぎさえいれば、用なしだったのに! でなければ、誰があんな辺境の令嬢を嫁に迎えるものですか!」

「そうだ、家の役に立つどころか……裏切りおって! この恩知らずが!」


 舅も家族に同調している。私は、いつになく冷めた頭で彼らのことを傍観していた。


(……こいつらに、恩を感じるようなことって、あったかしら?)


 しかし、暴言を吐いたヴィルレイたちの頭をアンジェラが扇でぶん殴る。スパスパスパーンと小気味よい音がした。


「お黙りなさい。この外道! 国に背いたばかりか、私の大事な友人を酷い目に遭わせるなんて! これから、うんと反省するがいいですわ。その前に、刑が執行されるかもしれませんけれどね!」


 いつの間にか、小隊以外の兵士も増えている。誰かが増援を呼んでいたらしい。

 ブリトニーが私を馬車の奥へ押しやって、レディエ家のメンバーから隠した。

 あれ、ちょっと、彼女のお尻が前より大きくなっているような……?


「ノーラ、もう大丈夫だからね」

「そうですわよ、あなたの身柄は私が預かります。誰にも手出しさせませんわ!」


 頼もしい二人の友人が、私の手を取り微笑む。

 連日の疲れからか、空腹からか……私はその場にへたり込んでしまった。


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