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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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196/259

195:真っ黒な侯爵家

前半部分を追加しました!

 あの後、私たちは北の国の船を制圧した。乗組員は全員捕縛され、アンジェラは無事エミーリャに救出された。海に飛び込んだせいで、二人はずぶ濡れになっている。

 近くの民家を借り、私は湯浴みを終えたアンジェラの着替えを手伝った。

 いつもメイドのマリアの仕事を見ていたので、やり方はわかる。ドレスがハークス伯爵領式の簡単着脱製品であるというのも大きいが、私は無事にアンジェラの着せ替えに成功した。

 同様に、リカルドはエミーリャの着替えを手伝っている。


(なんだかんだでサイドポジションなんだよね、私たち……)


 モブの取り巻き設定の根は深い。

 だが、処刑を免れた今、そしてヴィーカの言葉で真実が判明した今、もはやそんなことは関係ないのだ。


 エミーリャは初めてセルーニャの言うことを聞かず、中央の国に残ることとなった。

 彼はこのままアンジェラと結婚し、王都に近い領地と、王家に取り上げられたアスタール領の半分を治めることになる。エミーリャのことなので、特に心配はしていない。アンジェラも嬉しそうだ。

 大事な友人が幸せそうで、私はほっと息をついた。


 さて、心配なのは、もう一人の友人ノーラだ。

 実は、ヴィーカと話した内容で気になることがあり、ノーラに事前に手紙を送っていた。

 阿片の原料が栽培されている南の領地。それが、ノーラの婚約者であるヴィルレイの実家――レディエ侯爵家の治めている場所なのだ。

 まさかと思っていたが、ノーラの返信がなにやら不穏なのだ。

 私の連絡を受けた彼女が、婚約者宅を独自に調べた結果……レディエ侯爵家は限りなく黒に近いらしい。中央の国の貴族、色々企みすぎ!


 なので、私は彼女のいる場所、つまりレディエ侯爵家へ向かうことにした。

 とはいえ、格下の私だけでは何かと心許ない。というわけで、なんとアンジェラがついてきてくれることになった。彼女もノーラのことを心配している。

 一度城へ戻った私たちは、その後すぐレディエ侯爵家へ出発したのだった。


 ノーラのところへ向かうのは、私にリカルド、アンジェラ、小隊の皆さんだ。

 もしもの時に備え、他の兵士が隠れて待機していたりもするけれど。平和に解決したいものである。私は、アンジェラに唐辛子スプレーと火炎瓶を渡しておいた。



 レディエ侯爵領は、農地の多い恵まれた土地だ。

 野菜や穀物の他には、綿花なども栽培していたりする。割と何でもありの土地。

 土壌が豊かな他領を見る度、ちょっと悔しくなる私だった。


(ハークス伯爵領だって、農地改革を進めていたり、農業以外の部分でも頑張っているもんね!)


 馬車で移動しつつ、領内の様子を探る。リカルドは小隊のメンバーと馬で移動していた。

 さて、問題の阿片だが……


「まあ、ブリトニー。綺麗な花畑がありますわよ。赤、オレンジ、紫……素敵」


 外を見ていたアンジェラがそんなことを言い始めたので、私も窓から顔を出す。


「グフフ、それらしい花が咲いてる。めっちゃ堂々と咲いてる!」


 まさに、目の前が一面芥子の花畑だった!


(黒じゃん! 真っ黒じゃん!!)


 色とりどりの花は、王都の混乱など我関せずという様子で風に揺れている。


「ブリトニー? どうしたのです?」

「アンジェラ様、城を騒がせている薬の原料がこの花なんです」

「えっ……では、この花のせいで、私のメイドはああなってしまったのですか!?」


 花畑に向かって、今にも火炎瓶を投げつけそうなアンジェラを押しとどめ、私は地図を確認する。

 レディエ侯爵家は、もうすぐそこだった。


 リュゼからは、ヴィルレイの悪い噂なんて聞かなかった。

 彼の親が暴走しているのか、家族ぐるみで暗躍しているのか……いずれにせよ、ノーラを助けなければならない。


 もし、ヴィルレイの実家が断罪されるようなことがあれば、彼女が巻き添えを食ってしまうかもしれない。

 自覚があってもなくても、北の国に阿片関連で協力しているなんて大罪だ。


 無事にレディエ侯爵家に到着した私たちは、真相を聞き出すべく屋敷へ乗り込んだ。

 先頭にアンジェラ、その後に私とリカルドが続く。

 王女の出迎えに現れたのは、レディエ侯爵と侯爵夫人、一人息子のヴィルレイだった。


(あれ、ノーラは?)


 正式な結婚はまだなので、敢えて呼んでいないのだろうか。

 隣にいたアンジェラが、侯爵に質問する。


「あの、こちらにノーラが来ていると思うのですが、会うことはできますかしら? 彼女とは、長年の友人なのです」


 王女の言葉に、侯爵家の面々は顔を見合わせる。


「彼女は、ずっと体調を崩しておりまして……部屋で療養中なのです」

「あら、そうですの。会えないのは残念ですわね」


 誰も気づいていないようだが、アンジェラの声が僅かに低くなっている。彼らの態度を不審に思っているのだ。

 私も同じように感じた。ノーラは手紙では元気そうで、今までも寝込んだりしたことのない健康な友人なのだ。


「では、帰りに顔だけでも見て帰りますわ。せっかくここまで来たのですもの、次にいつ会えるか分かりませんし」


 アンジェラの言葉を聞き、明らかに慌てるレディエ家一同。これはますます怪しい。

 それを見て、アンジェラは更に切り込む。


「あら、何か問題でも? 王女である私は不自由な身ですの、今度はいつここへ来られるか分かりません。大事な友人に会いたいのです」

「で、ですが、王女殿下に病気がうつってはいけませんし……」

「まあ! ノーラは、そんな大病を煩っていますの? それは、ますます会っておかなければ! ですが……まずは、あなた方とお話ししたいことがあります。国を揺るがす大変なお話です。ブリトニーたちは部屋の外で待機していなさい。これは、私の仕事ですから」


 レディエ家の屋敷は無駄に豪華だった。最近、羽振りがいいらしい。

 小隊メンバーを護衛に伴ったアンジェラは、何かを訴えかけるように私を見て部屋の中へ入っていった。

 その意図を理解した私は、「ええーっ!?」と叫ぶのをこらえる。


(アンジェラ様、無茶振りすぎるよ!)


 今のうちにノーラを探しておきなさい……なんて。

 屋敷の中、アンジェラの入っていった部屋を見つつ、私は考えを巡らせた。

 とにかく、やってみるしかない。侯爵家の三人は、アンジェラが引き受けてくれている。

 私は隣にいるリカルドと顔を見合わせて頷き合った。彼も正確に状況を理解している。

 近くには、監視役のメイドが二人だけ。なんとかなるだろう。

 さあ、ノーラの捜索開始だ。

 大きく息を吸い込み、その場から走り出す。


「お手洗いどこですかぁ〜〜〜〜〜〜!!」


 突然の事態に慌てる二人のメイドには、リカルドが対応した。


「婚約者が申し訳ありません、後は俺が追いますので。お二人はここにいてください」

「あ、お手洗いはあちらです。えっと……」


 リカルドの美しい容姿にポウッと赤くなるメイドたち。

 その隙に、彼も私を追って駆けだした。二人で屋敷の中を調べていく。


「ノーラ、無事かな。あの様子じゃ、どこかに閉じ込められているかも……」

「ブリトニー、必ず見つけ出すぞ」

「うん!」


 幸い、王女をもてなすために、メイドや執事は出払っている。

 私たちは順に部屋を開けて回った。


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