192:船上の王女(アンジェラ視点)
私――アンジェラは両手足を縛られ、暗い場所に転がされていた。
目覚めたらここにいたのである。
(迂闊でしたわ、こんなことになるなんて)
耳を澄ませ、冷静に現在地を探る。
汽笛の音が近くに聞こえるので、海周辺のようだ。もっとも、私が海を訪れたのは、今までの人生で二回ほどだが。
少し湿った木の床が少し揺れているので、船の上かもしれないと当たりを付けた。
王都の西側には、大きな港がある。城のある中心部からは距離があるので、城の者たちは私がここにいるなどとは思わないだろう。
もし、船が出航していれば、もはや誰にも手出しができない。
苦々しい気分で、数日前の自らの行動を省みる。
あの日の私は、エミーリャがいなくなってしまうのではと恐れ、落ち着きなく城内を歩いていた。
彼が帰ってきたら、色々と話を聞き出すつもりだった。
けれど、途中で出会った様子のおかしなメイドが気になって、彼女に話しかけて……
そこから先の記憶がない。気がつけばここにいた。
きっと今頃、皆が必死に私を捜索しているはずだ。自分のふがいなさが嫌になる。
落ち込んでいるときは、嫌な想像が膨らむものだ。
第一王女だというのに、私は国の役に立つどころか足を引っ張っている。
エミーリャだって、愛想を尽かして離れて行ってしまうかもしれない。
(いいえ。彼はもう、中央の国にいないかもしれないですわね)
南の国は、この状況を察していたのかもしれない。
ゴタゴタに巻き込まれる前に引き上げるのは、賢い選択とも言えよう。
胸は痛むが、エミーリャが安全な地で暮らせるのなら、それもいいような気がしてきた。
(今の私のような目には、遭って欲しくないですし)
これから自分がどうなるのか想像も付かない。
(まだ殺されていないし、何かの人質かしら?)
食事が規則的に運ばれてくるので、それで日数を数えている。
惨めだった。
(ようやく政略結婚できて、領地も与えられる予定で……これから精一杯、国の役に立とうと思っていたのに)
もし自分の存在が枷になるのなら、さっさと切り捨てて欲しかった。
今より情けない存在にはなりたくない。
俯いて泣きそうになった私は、ふと友人のことを思い出した。
(ブリトニーなら、こういう事態にどう対処するのかしら)
生命力に溢れた逞しい彼女は、きっとじっとしてはいないだろう。
脱出する術を探し出すかもしれないし、そこまでできなくても情報収集はしそうだ。
両手足は拘束されているけれど、這って動くことはできる。
(諦めては駄目ですわね)
助かる方法を考えるべきだ。
もぞもぞと体を動かし、私は部屋の中を探ることにした。












