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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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191:黒茶色の宝石

 仲間のメイドが持ってきた水を差しだし、彼女に問う。


「お水です。あの、何か食べませんか?」

「……いら、ない」


 声を絞り出すように、彼女が答えた。汗をかいていて呼吸が荒い。


「でも……」

「くれるなら、アレを。黒茶色の宝石を……」

「宝石?」


 よくわからない私に向かって、メイドは必死に説明する。


「そう、アレが欲しいの。アレが吸いたいの! ブリトニー様、お願い!」


 黒茶色の宝石の説明するときだけ、彼女の瞳がギラギラと異様な光を宿していた。


(……なんか、こんな症状、覚えがあるような)


「それって、こういう筒を使って煙を吸うものだったりします?」


 私は身振りで筒を表現し、彼女に尋ねた。


「それ、それですっ! くださいっ!」


 状況が読めないマーロウが首を傾げている。


「マーロウ様、彼女……先に手紙で連絡差し上げていた例の薬の中毒患者です。北の国の薬は効果が切れ始めると、このような症状を引き起こすのです」

「これが……?」


 酷い状態を直に見て、マーロウは淡い紫色の瞳を揺らした。


「おそらく、すでに王都に出回っています」


 頷いて答える私は、メイドに向き直り彼女に質問した。入手先を特定しなければならない。


「黒茶色の宝石は、どこで手に入れたのですか?」

「そんなのどうでもいい! ちょうだい!」

「入手先を教えて貰わなければ、持って来られません」


 私の嘘を真に受けたメイドは、洗いざらい全てを話し始める。


「買い物に出たときに、市場で黒い服の男の人がくれたの。一番端の店の角を曲がったところよ。」

「あなたは、その男性に何度も黒茶色の宝石を貰ったのですか?」

「ええ、色々な頼み事と引き換えに何度か……でも、ある日を境に、彼はいなくなってしまったのよ! 私、言われたとおりにやったのに! どうして!」


 錯乱する彼女を宥める私の隣で、マーロウが冷静に声を掛ける。


「何を頼まれたのか、全て教えて欲しい」


 メイドが口にした内容は、驚くべきものだった。

 城内に「黒い服の男」の仲間を引き入れ、自らも彼らのために動き、そして……


「陛下の食事に滋養強壮薬を混ぜたり……」

「……っ!?」


 聞き覚えのある内容に、私は体を強張らせた。頭が真っ白になっていく。


(だって……それは、少女漫画でブリトニーがやったことだし……)


 少女漫画のブリトニーは城の厨房に侵入し、「滋養強壮薬」と騙されて国王の食事に毒を盛ったのだ。


(どうしよう。私が処刑を回避したから、このメイドが代わりになってしまったの?)


 罪のない人物を巻き込んでしまった後ろめたさで、私は胸が苦しくなった。


「あんなことになるなんて思わなかったのよ! だって、健康のための薬だって言われたんだもの!」

「君が盛ったのは滋養強壮の薬じゃなく、毒だったということだな」


 全てを理解したマーロウが指摘すると、メイドは両手で強く頭を抱えた。


「ああ、私はどうすればいいの? 宝石、黒茶色の宝石をちょうだい。全部忘れたいの……!」


 私やマーロウの前で洗いざらい真実を話すメイドは、見るからに錯乱している。

 普通なら、罰を恐れ黙っているだろうに。

 本人が自らの所業を忘れたところで罪は消えないのだが、今の彼女は、それすらもわからないみたいだった。


 ヴィーカは人を操る道具として、阿片を使っていたのだ。

 本来なら、メイドは口封じに殺されていてもおかしくなかった。

 しばらくの間、私がヴィーカたちを監視していたので、彼女たちは情報のやり取りが出来ず、身動きが取れなかったのだろう。


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