184:行方不明と毒殺未遂?
最低限に手入れされ、見栄えがするようになった庭で私はルーカスを迎えていた。
(それにしても、約束してすぐに来るなんて)
オカルト好きというルーカスは、早くも目を輝かせている。
リカルドと仲良く話を始めた彼は、さっそく建物の中へ入りたがった。
私はリカルドと顔を見合わせ頷く。ルーカスを案内するのは、地下を除く部分だけだ。
ヴィーカの手がかりになりそうなものは一切彼に見せないと決めた。
(よし、頑張るぞ!)
まずはリカルドと共に一階を案内する。
「向こうが厨房で、こっちが客室だな。厨房の隣はブリトニーの実験室だ。後は使用人たちの部屋もある」
「ブリトニー嬢は、様々な製品を開発しているのでしたね」
「ぐふふ、趣味です」
続いて二階、そして三階を回った。
「あっちはリュゼお兄様の部屋ですね。掃除以外で勝手に入ると後が怖いので、私も必要なときしか入らないようにしています。そっちはリカルドの部屋です」
「見て面白いものなんてないけどな」
と言いつつ、リカルドはルーカスを部屋に入れている。仲良しだ……
リカルドの友人の多くは、ミラルドの起こした事件の後で疎遠になっているらしい。
ルーカスはそんな彼に残った数少ない友人だった。
彼らの関係を思うと……ストレスで胃がもたれそうだ。
全ての部屋を案内し終えた後、ルーカスを客室でもてなす。
しかし、途中で部屋に入ってきたマリアが私を呼び出した。
「ブリトニー様、お城から使者の方が……」
「えっ? ルーカス様関係?」
「いいえ、違うみたいです。一度お話を聞いてみてください」
ともかく、私は一階で待機している使者の元へ向かう。
「どうされました?」
尋ねると、使者は小声で私に告げた。
「こちらに、アンジェラ殿下は来られていませんか?」
「いいえ。王女殿下がどうかされたのですか?」
すると、使者は更に声を潜めて話し始める。
「ご内密にお願いしたいのですが、昨日からお姿が見えないのです。城内を探しましたが未だ行方がわからず、城外を探そうと……」
「行方不明!?」
「はい。マーロウ殿下や、外出から戻ったエミーリャ殿下も秘密裏にアンジェラ殿下を探しておられます。彼らとメリル殿下以外は、この話を知りません」
「わかりました。私たちの方でも内密に捜索しましょう。アンジェラ様が心配です」
使者に応対した後、私はリュゼから借り受けている彼の部下たちに頼み、アンジェラ捜索の手配をする。その後、ルーカスと会話中のリカルドを少し呼び出し事情を告げた。
アンジェラのことを話していると、またマリアがやって来た。
「ブリトニー様、リカルド様。先ほどの使者の方が再び戻って来られまして……」
「ぐふぉ? どういうこと?」
二人で一階の玄関ホールまで出ると、さっきの使者がまた立っている。
「えっと、今度はどうされました?」
「それが……」
言い淀む彼の横には何故か南の国の王子エミーリャが立っていた。
城へ戻る途中に南の王子と会ったことで、使者はとんぼ返りしてきたようだ。
私を見たエミーリャは、重々しく口を開く。
「中央の国の国王が倒れた。マーロウの話では毒に当たったらしい。幸い一命は取り留めたけれど、まだ起き上がれない」
「……え? 毒……?」
私は思わずエミーリャを見た。リカルドも驚いている。
「そんなこと、私たちに教えちゃっていいんですか? 内密にする話なんじゃ……」
「どこからか情報が漏れたらしく、すでに城内で噂が広まっているんだ」
それにしても、アンジェラやブリトニーが手を出していないのに国王が倒れるなんて、どうなっているのだろう。
「国王が倒れた件で、行方不明になったアンジェラが疑われている」
「アンジェラ様がそんなことをするわけないのに……」
「異様なほど早く噂が浸透していて、何故かアンジェラが犯人候補にされているんだ。裏で何かが動いているとしか考えられない」
過去のアンジェラならそういうこともあり得るだろうが、今の彼女はまっすぐ生きている。
もうすぐエミーリャとの結婚が控えているのに、自分の親を毒殺なんてしないだろう。
そんなことをしても、なんの得にもならない。
「誰かがアンジェラ様に罪をなすりつけようとしていますね」
「ついでに、南の国にもね。俺も疑われているんだよ。噂の中には、南の国の差し金でアンジェラが動いたのではという内容のものもある」
「露骨! そんなことをして得するのなんて……」
北の国しかないよね……?
(それにしても、おかしいな)
私もアンジェラも改心しているのに、少女漫画の筋書き通り国王に毒が盛られたなんて。
しかも、勝手にアンジェラが犯人扱いされているなんて。
(行方不明なのに「逃げた」と思われているんだよね)
やっぱり変だ。
「エミーリャ殿下、アンジェラ様の居場所に心当たりは?」
「ない。どこかに幽閉されている可能性もある……噂話をでっち上げるためにね」
「まずは、彼女を見つけなければいけませんね」
「ああ。ルーカスの案内を終えたら、城へ来てもらえないかい?」
「わかりました」
ルーカスの案内が終わるまで、エミーリャも屋敷にいることになった。
とはいえ、屋敷内はほぼ案内し終えたのだが……
リカルドやエミーリャと共に客室へ戻ると、何故かルーカスの姿はなかった。
「あれ……?」
玄関ホールを通った形跡はないし、勝手に帰ったとは思えない。
「だとすると、もしかして……」
大変よろしくない予想が浮かんだ私は、踵を返し地下室へダッシュした。












