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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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183/259

182:南の国の事情

「作者が亡くなった時も、第三部などという話は出ていなかった。もし、作者が第三部まで構想を練っていたとしても、それが完全な形で連載されることなんてありますかな?」

「別の漫画家さんが後を継いだとか?」

「それについて、ヴィーカ王女は、何か言っていませんでしたか?」

「いいえ……何も」


 セルーニャは、ヴィーカの話に不信感を持っているようだった。

 訳のわからない単語が飛び合っている中、リカルドやエミーリャは黙り続けている。


(……後で説明しなきゃね)


 温厚なセルーニャの表情は、だんだん不穏なものに変わっていく。


「……もし、第二部の話が本当だとすると、エミーリャはこの国から引き上げさせた方がいいかもしれませんな。命に関わる危険がある場所に、大事な弟を置いておけませんぞ!」


 力強く長椅子から立ち上がる兄に向かって、エミーリャが慌てて言った。


「セルーニャ兄上、それは困るよ。俺はアンジェラと婚約している身だ。近々、領地を与えられることにもなっているし、結婚だって間近に控えているのに……」

「だからこそ、逃げられるチャンスは今だけなのですぞ? 結婚してしまえば、エミーリャは中央の国のしがらみに縛られてしまう」


 セルーニャは本気に見えた。対するエミーリャは引く姿勢を見せない。


「危険があるなら尚更、アンジェラを守る必要がある」

「彼女は政略結婚の相手ですぞ?」

「わかってる。でも、俺は本気だ。南の国に自分だけ逃げ帰るつもりはない!」


 少女漫画の第二部、第三部の話が、兄弟げんかを勃発させてしまった。

 私とリカルドは、オロオロしながら二人を見る。


「ブリトニー嬢、ヴィーカ王女とは直接接触できますかな?」

「今は難しいかもしれません。潜伏中であらゆる方面を警戒していますし、彼女の従者が過保護で……ですが、さらに詳しい話を聞いてみます。亡くなった漫画家のことも」

「それがいいですな。もっとも、王女のことは完全に信用していませんが……こちらでも、北の国について調べてみますぞ」


 会話が一段落し、私とリカルドは退室する。

 セルーニャはしばらく中央の国に滞在するようだ。その間、彼とは商売の取引も出来る。


「リカルド、もう一度ヴィーカ王女に話を聞いてみよう」

「ああ、そうだな。未来のことがわかるかも……」


 二人で話していると、後ろから軽やかな足音が聞こえてきた。

 振り返ると、柔らかな銀髪に漆黒の瞳を持つ北の国の第五王子……ルーカスが笑顔で駆けてくる。

 彼は私たちの前まで来て立ち止まった。


「ルーカス! 久しぶりだな!」


 リカルドが、嬉しそうな顔をした。やっぱり、この二人は仲良しだ。


「ええ、お久しぶりです! 聞いてください、リカルド! やっと外出許可が出たんです!」

「それは良かった」


 二人は笑顔で盛り上がっている。


「それでですね、せっかくですから、王都にあるリカルドの屋敷へ行ってみたいんです! 噂の幽霊屋敷に住み始めたのですよね?」


 ワクワクといった感じで、両手を前で握り込むルーカス。

 私とリカルドは、顔を見合わせた。


(あかん。屋敷には、ヴィーカ王女が)


 ノーラのときのように誤魔化す他ないが、ルーカスは変なところで神出鬼没だ。

 しかも、ヴィーカはルーカスを北の国の手先だと言った。

 ヴィーカの話が本当ならば、そんな人物を屋敷に招いて良いはずがない。

 けれど、断る理由もない。ルーカスの話をはねのけたら、却って怪しまれそうだ。


「えっと、ボロ屋敷ですよ? 見て楽しいところなんて、あるかどうか……」


 やんわりと私はルーカスに言った。


「大丈夫です! 僕、リカルドと違って、オカルトが大好きですから!」

「まだ修繕中で……」

「それもノーラ嬢から聞いています。最近、彼女と文通しているので」


 断る理由がなくなってしまった。


「行っていいですよね?」


 強い念押しを受け、私とリカルドは、つい頷いてしまったのだった。


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