181:少女漫画が更にとんでもないことになっていた
王宮では、すでに準備万端のエミーリャとセルーニャが待っていた。本当はヴィーカも連れて来たかったけれど、ここは危険が多すぎる。
体調が思わしくないこともあって、彼女は屋敷の地下を出ない。
せめて地上に部屋を用意しようかと申し出たが、あの従者が頑固なのだ。地下が安全だと言って聞かない。
仕方がないので、そのままにしている。
エミーリャとセルーニャは、オリエンタルな衣装を身に纏い、豪奢な毛皮の敷かれた長椅子に私たちを案内した。
「お久しぶりですな、ブリトニー嬢! また会えて嬉しいですぞ!」
「セルーニャ様、ご無沙汰しております。わざわざ来ていただいてすみません。エミーリャ様も、ありがとうございます」
かしこまって座る私とリカルドを見て、エミーリャが苦笑する。
「まあまあ、状況を知りたいのは僕も同じだから。それで、ヴィーカ王女……だっけ? 何かわかった?」
「ええ、彼女の言葉が全て真実かはわかりませんが、大まかな話は聞けました。やはり、北の国は中央の国を狙っていて、戦いを仕掛ける気でいるとのことです。とはいえ、未来が変わってきているので、本当に動くのかは曖昧ですが」
私の話を、セルーニャが難しい表情で聞いていた。
「念のため、ハークス伯爵家で北の動きを調べているのですが、少しきな臭いと言えます。なにやら武器を集めているようで、ここ数年税金もかなり上がっているとのこと。民は苦しい生活を強いられていますね」
「アスタール伯爵領の件であれだけ叩かれたというのに、懲りない国ですな」
「もし、本当に北の国が仕掛けてくる気なら、その前に動きを封じるつもりです。黙って攻め入られてなるものですか」
とはいえ、ハークス伯爵領の者が北の国を独断で攻撃するわけにはいかない。
堂々と武装した北の国がハークス伯爵領に攻め入ろうとしていても、北の国に入るには中央の国の国王の許可がいる。
その時が来たら、迅速に動いてもらいたいものだ。
北の国が何もしないでいてくれるのが一番なのだけれど。
「それから、ヴィーカ王女から聞いた少女漫画……じゃなくて未来の話ですが、ルーカス殿下とエミーリャ殿下の身が危険にさらされる可能性も無きにしも非ずで」
そう告げた瞬間、セルーニャの眼鏡がキラリと鋭く光った。
「それは聞き捨てなりませんな……!」
彼は弟のエミーリャをとても可愛がっている。重度のブラコンなのだ。
エミーリャの方も、セルーニャにとても懐いていた。
「詳しく話してもらいますぞ!」
私は、ヴィーカから聞いた内容を、そのままセルーニャたちに伝える。
「ふむ……第二部の展開に第三部の話。全く知らなかったですぞ」
「セルーニャ殿下は、第二部が発表されてすぐ亡くなられたのですか?」
「そうですぞ。しかし変ですな」
眼鏡を曇らせたセルーニャは、首を傾げながら言った。
リカルドは聞き慣れない単語をスルーしている。彼には、第二部を「近い未来」、第三部を「遠い未来」という説明をしていた。
「確か、第二部の発表があった後、『メリルと王宮の扉』を描いていた漫画家は、トラックにはねられ亡くなったかと……」
「ええっ!? どういうこと!?」
予想外の話を聞いて、私は混乱した。
「少女漫画本誌にて『第二部始動』の知らせがあった後、漫画家が亡くなり連載は保留となっていたのですぞ」
「それじゃあ……漫画家が亡くなってから連載が再開され、第二部が世に出されたということでしょうか?」
「かもしれませんな。ですが、第二部や第三部が完全な形で世に出ていたというのは、遺作ということにしても、少々おかしいのではないかと思うのです」
確かに。第二部が始まる知らせが出ていた時には、第三部のことは発表されていなかった。
そして、亡くなった漫画家の作品を……それも、続編を大々的に連載する例は稀だ。
あの時点で、漫画家が作品を全て完結させていたとも思えない。












