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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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179:友人の近況報告

 最近のノーラとルーカスは仲がいいらしく、手紙のやり取りもしているという。

 彼女曰く、友人が遠くにいて寂しい者同士で意気投合したとのこと。


「ねえ、噂の幽霊屋敷に興味があるの。見せて貰っていいかしら」


 身を乗り出すノーラの勢いに押されて頷く。


「婚約者の実家で暮らすって、ストレスが溜まるのよねー!」

「えっ? ノーラ、ヴィ……」

「ほらほら、早く行きましょうよ!」


 ヴィルレイと上手くいっていないのか尋ねようとしたが、ノーラに遮られて案内を急かされる。言いたくない内容なのだろうか。

 あからさまに遮られた話を蒸し返すのもどうかと思い、私はそれ以上聞くことが出来なかった。


「わかった。でも、改修工事を終えていないから、まだ危ない部屋は駄目だよ」


 地下に彼女を連れて行くことは出来ないので、理由を付けて一階から三階までを案内する。

 ノーラは、彼女にしては大げさなくらいにはしゃいでいた。

「ここがリカルドの部屋で、向こうはリュゼお兄様の部屋」

「……! リュゼ様の新しいお部屋!」


 目をきらめかせたノーラは、熱心に木の扉を見つめている。


「勝手に入ったら恐ろしい目に遭うから、この中は案内できないよ」

「残念だけど、仕方ないわね」


 諦めた様子で踵を返すノーラを連れて、今度は一階へ下りていく。階段で立ち止まった彼女は、地下に続く扉を見つけて言った。


「あら、このお屋敷、地下もあるの?」

「うん、あるにはあるけど。中は荒れ放題で危ないから、とても見せられる状態じゃないの」

「うーん、曰く付きの幽霊物件の地下……危険な香りがするものね。それにしても、よくこんな場所に住もうと思ったものだわ」

「ぐふふ……広いし?」


 苦しい言い訳をしつつ、私は幽霊屋敷の建物案内を終えた。

 ノーラはまだ見ぬ地下室を気にしているみたいだが、オカルト好きなのだろうか。

 とりあえず元の部屋に戻り、紅茶を片手に休憩することにした。


「久しぶりに羽を伸ばせたわ!」


 細長い両腕を長椅子の上に投げ出したノーラは、さっぱりした笑顔を向ける。

 そんな彼女に私はこれからの予定を聞いた。


「ノーラ、すぐにヴィルレイ様のところへ帰るの?」

「ええ、そうね。彼の実家は国の南の方にあるもの。王都の別邸もあるけれど、そろそろヴィルレイ様が当主になるわ。私も彼も今は南に滞在しているのよ。まあ、面白い場所ではないわね」


 視線を落としたノーラは、投げやりな様子で話を続ける。


「自領暮らしのブリトニーがうらやましいわ。嫁姑問題とも無縁だし、リカルドとも仲が良さそうだし。ヴィルレイ様は仕事熱心だけど、私に興味はないみたい。婚約したのに、いつもほったらかしだもの。出会ったときから不安はあったけど、当たってしまったみたいね」


 なんと答えればよいかわからずにノーラを見つめていると、彼女は吹っ切れたように笑い声を上げた。

 私はあの時、ノーラに相手を見極めて欲しいと言われていた。

 だけど、リュゼからヴィルレイの誠実な人柄について聞き、特に反対することなくノーラを送り出してしまったのだ。「上手くいけばいい」なんて、楽観的な希望を抱きながら。

 でも、仕事に誠実なだけでは駄目なのだ。見知らぬ土地に身一つで嫁ごうという婚約者を一切気遣えないような人間は、悪意がないにせよ……残念だと思う。


(詳細はわからないけどさ)


 とはいえ、恵まれた婚約をした人間が何かを言ったところで反感を買うだけで、意味のないものだということはわかり切っていた。


「もう、ブリトニー! そんな顔しないでよ。貴族令嬢の結婚なんて、大概がこんなものよ。アンジェラ様やブリトニーは、たまたまラッキーだっただけ。それに、もしヴィルレイ様と恋愛できなくても、愛人を囲うという手もあるんだから」


 ノーラは努めて明るく振る舞っている。すでに婚約してしまっている身なので、今更どうしようもないことを理解しているのだ。


「ブリトニーも知っているでしょう? 貴族の奥方の中には、そういうことをしている人もいるって」

「うん、まあ。表だって口にしていないけど、いるにはいるよね」


 この国では、愛人を囲うことは良しとされていない。

 女性はもちろんのこと、男性でも堂々と愛人の存在を口にする者は稀だ。

 でも、そういう相手を囲っている貴族は、多くはないが確実にいる。政略結婚に満足できない男女が、気に入った相手を傍に置いて大事にしていると言う話は、私の耳にも届いていた。


「ヴィルレイ様は愛人を囲うことにも煩くなさそうだし、恋愛はそっちで楽しむわ。あの人、私が何をしようが興味がないのよ。ただ、あの家の奥方として最低限のことをやっていれば文句はないはずだわ。どうせ、うちの領地の鉱石を融通してもらうための政略結婚なのだし」

「ノーラ……」

「本当は、すぐに南に帰らなきゃいけないのだけれど。せっかく王都に来たのに、あんな場所に帰るのも癪ね。しばらく別邸に滞在しようかしら……ええ、そうしましょう」


 やさぐれた様子の彼女は、婚約先で上手くいっていないらしい。


「私、結婚に夢を見るのは止めた。とはいえ、ヴィルレイ様という生命線を絶たれたら生活するのに困るし……いつ離縁されても大丈夫なように、なんとか自立できる方法を探すわ」

「ええっ!?」


 結婚さえしていないのに、もう愛人や離婚について考えているノーラ。彼女は思い込んだら一直線に突き進んでしまう部分がある。


「そういうわけで、しばらく王都にいることにしたから。ブリトニー、また会ってちょうだいね!」


 何かに吹っ切れた感じのノーラは、明るくそう告げると嵐のように去って行ったのだった。 


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