175:幽霊屋敷の地下には
過去に私が体型のことや自分の歌の酷さに悩んでいたとき、リカルドは自分の苦手なものを暴露して慰めてくれた。
それが、「幽霊や怪奇現象などの非現実的なもの」だ。
このボロ屋敷は、そういう意味で「いかにも」出そうな場所。
「だ、大丈夫だよ! 事故物件って言っても、病死とかもあるし」
ここは彼を守らねばと勢いづいた私は、リカルドを一生懸命勇気づける。
しかし、案内係は言いづらそうに説明を補足した。
「もともとここは、とある独身貴族の持ち物だったのですが、二年前に彼が謎の死を遂げて……その死に方が結構凄惨だったらしいです。幽霊が出たなんて噂もあって……」
私とリカルドの二人は言葉を失う。
(うわぁ……ガチの幽霊屋敷だった)
その話は王都で有名らしく、地元の人間はここに寄り付きもしないようだ。
(ちょっとー! いくらうちが田舎貴族だからって、こんなヤバそうな物件案内しないでよー!)
可哀想に、リカルドがさっきから一言も発していないではないか!
「何か出てきても、私が全員ぶん殴ってやるから! リカルドには指一本触れさせない!」
鼻息荒く、私は建物内に乗り込んだ。
一つの階につき六部屋ほどある三階建ての建物は、とにかく今まで回った屋敷と桁違いの広さだ。
同じ広さの地下室まである。
中は外観ほど凄まじくないものの、凄惨な死の現場ということで気味悪さはある。
一階から三階を見て回った私たちは、続いて地下を見ることになった。ちなみに、死体があったのはこの地下だとのこと。
「リカルド、ちょっと行って見てくるよ」
「いや、ブリトニー一人に行かせられない!」
「戦場へ行くわけじゃないんだし……大丈夫だよ」
もうこの物件はナシでいいと思うけれど、来たからには全部見ておきたい。
リカルドを一階にいる案内人に任せた私は、ランプを持って一人地下へ下りていった。
薄暗い地下の廊下は真っ暗だ。
ゴツゴツとした石壁に明かりを灯す場所があるけれど、今はもちろん何もついていない。
いくつかある部屋には木箱などが積み上げられており、ここが物置だったことを物語っている。
しかし、奥に行くにつれて、だんだん変な光景が目に入ってくるようになった。
(ちょ……ただの物置かと思ったら、牢屋とかあるんですけど!? なんで!? この屋敷、なんなの?)
鉄格子の嵌まった牢屋内には、手枷足枷までついている。黒いシミがあるんだけど、血痕じゃないよね?
(ヤバイ! この屋敷、事故物件とは関係なしにヤバイよ! 前の住人、何者ー?)
リカルドを連れてこなくてよかったと心底安堵する。
私も、ちょっと怖くなってきた……
足取りも重く、さらに奥を確認しようとすると……進行方向からゴトリと何かの音がした。
(……!?)
続いて奥にあった部屋の扉が開き、何かが飛び出してくる。
それは私の方をめがけて突進してきた。
「ギャー! 悪霊退散!!」
私は蠢く謎の影に向かって、渾身の力を込めて右手を繰り出した。
「ゴフッ!」
うめき声と共に、影が私の目の前に倒れる。
よく見ると、真っ黒なフードつきマントに全身を包んだ、背の高い人間だった。
「あ、あれ……なんで、こんな場所に人が? 案内人がもう一人いたとか?」
混乱していると、奥からもう一つの小さな影が走ってきた。その影も、同じく真っ黒なフードを被っている。
「ジル! 大丈夫? ジル!?」
明かりを向けると、影が「キャッ」と可愛らしい悲鳴を上げた。私と大違いだ。
小さな影は警戒心むき出しで私の方を向き、倒れた大きな影を庇うよう前に出る。
だが、明かりに照らされた私の顔を目にした瞬間、震えながら声を発した。
「あ、あなたは! ……ブリトニー・ハークス!?」
いきなりフルネームを呼ばれて驚く私に向け、小さな影はフードを後ろに取り払った。
すると、目の前に見たことのある気の強そうな美少女が現れる。
「あ、あなたは……!」
予想もしていなかった再会に、私の声も震える。
「ヴィーカ王女!」












