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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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172/259

171:思いがけないお姫様抱っこ

 食事も終わるというところで、グラスに入った透明な液体が運ばれてきた。


「これは……?」


 尋ねると、エミーリャが謎の液体の説明を始める。


「ブリトニー嬢は、知っているかもしれないけれど。これは、うちの兄が開発した、米から作り上げたお酒だよ。気に入ってもらえたら、ホットワインのお礼に渡そうと思って」

「ありがとうございます、いただきます」


 南の国で採れる米を作ったお酒(匂いを嗅いだ限りでは、日本酒だと思う)を、リュゼが興味深そうに眺めている。

 リュゼもリカルドも、すでに成人している。私も社交デビューと同時に成人したと見なされているので、お酒は飲んでも大丈夫だ。


(あ、でも、リカルドは、お酒を飲めないんじゃ……)


 心配して隣に座るリカルドを見る。確かルーカスが、リカルドはお酒に弱いと言っていた。


「ねえ、リカルド……」


 無理をしないように、声を掛けようとしたのだが、リカルドはそれよりも早くグラスに入った液体を飲み干した。


(ちょっと、リカルド!? 大丈夫なの!?)


 慌てて彼の顔色を窺ったが、特に変わった様子は見られない。


(ルーカスが、話を盛ったのかな?)


 リュゼは日本酒が気に入ったようで、美味しそうに飲んでいる。

 ハークス伯爵家の血筋はアルコールに強い。

 祖父やリュゼはザルだし、私も普通にお酒を飲むことが出来るのだ。最近は、リュゼと共に私も新作のお酒の試飲などを行っていた。

 ホットワインやシャンパンなど、目新しい製品を作る際には、既存のものを知らないリュゼでは対処しづらいからだ。

 しかし、なんだかんだでリカルドに試飲を頼んだことはなかったので、彼が本当に少量のお酒で酔ってしまうのかは知らない。

 じっとリカルドを見るが、特に変化はないようで普通に座っている。


「えっと、リカルド……大丈夫?」

「ん、何がだ?」


 やっぱり、私の杞憂だったようだ。リカルドは普通に食事を続けていた。


 その後、リュゼとエミーリャは、酒の取引に関する話し合いのために席を外し、私とリカルドだけが部屋に残された。

 食事をしていた部屋を出て、別室でリュゼたちを待つ。今度の部屋も、オリエンタルな雰囲気に統一されており、ふかふかの絨毯の上に沢山のクッションが敷かれていた。事前に靴を脱ぎ、地べたに座るタイプの部屋のようだ。

 クッションを背もたれにして座り、リカルドと話していたのだが、どうも彼の様子がおかしい。なんだかふらふらしているし、ろれつが怪しいのだ。


「リカルド、大丈夫? もしかして……お酒に酔ってる?」


 ルーカスに言われた言葉が蘇る。

 私は、ソワソワしながらリカルドの様子を窺った。やっぱり、お酒を飲ませるべきではなかったのだ。


「あの、リカルド?」


 呼びかけに応じたリカルドの焦点が、徐々に私に定まっていく。そして、彼は蕩けるような笑みを浮かべて口を開いた。


「大丈夫に決まっているだろう」


 堂々とそう口にした瞬間、リカルドは体勢を崩し私の方へと倒れてくる。


「うわっ!」


 不意打ちを受け止めきれずに、私は背中からクッションにダイブした。目の前にはリカルドの宝石のように透き通った緑の瞳がある。

 下敷きになった私に向け、リカルドは優しく目を細めて囁いた。


「ブリトニーは可愛いなぁ」

「へあっ!?」


 普段の彼らしからぬ雰囲気に、私は困惑して体を硬直させる。


「可愛い、本当に可愛いなぁ……」


 そう言いつつ、リカルドの指が伸び、私の唇をすっとなぞった。


(ひゃあ〜!)


 一体、リカルドはどうしてしまったのだろう。思いがけない彼の行動に、どんどん私の鼓動が早くなっていく。

 トロンとした目で一心にこちらを見つめたリカルドは、私の頭の両側に手をつき、徐々に迫ってきて……


(きゃあ、もう駄目〜!)


 ……そこで、突然意識を失った。私に覆い被さったまま、ピクリとも動かない。


「あ、あれ? リカルド、リカルド? リカルドさーん?」


 返事はない、ただの酔っ払いのようだ。


(びっくりした……)


 私は停止していた頭を働かせ、どうしたものかと悩む。

 とりあえず、彼を部屋に運んだ方がいいだろう。

 少し考えた末、私は彼を横抱きにして持ち上げた。


(うん。少し重いけど、普段鍛えているから大丈夫かな)


 幸い、リカルドの部屋は少し歩けば行ける距離にあったので、廊下を進んで彼の宿泊している部屋の扉を開け、リカルドをベッドに下ろす。

 意識をなくしているが、安らかに眠っているようだ。


(それにしても……あんな甘いリカルドは、初めて見たかも)


 酔っているときの彼の仕草を思い出すと、恥ずかしくて顔から湯気が出そうだ。

 リカルドの部屋から出ると、リュゼが神妙な顔をして立っていた。


「ブリトニー、エミーリャ様との話を終えて戻る途中に姿が見えたんだけど……リカルドをお姫様抱っこしていたことは、本人には言わない方がいいかもね。きっと、彼が知ったら平常心ではいられないだろうから」


 彼は同情するような視線を部屋の中へ送り、小さくため息を吐いたのだった。


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