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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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154/259

153:お仕事と婚約者の時間

 ケビンとのやりとりは、その後順調に進んでいる。

 この日も、ハークス伯爵家の客室で彼と私は会話をしていた。

 飾り気のない部屋の中には、革製の長椅子とテーブルだけが置かれている。テーブルの上には、マリアの淹れた特製紅茶と菓子が出されていた。

 中央の国ではコーヒー豆が採れないため、客に出す一般的な飲み物は紅茶になる。

 菓子も屋敷のコックが腕によりをかけて焼き上げた自慢の品だ。今日はフィナンシェ風の焼き菓子を出している。


「ブリトニー嬢、このファスナーとやらは、ここにつけるのか?」


 今は、ノーラの領地で加工されたファスナーの試作品などをケビンに紹介している最中だ。

 初めて見るファスナーを前に、彼は微妙な表情を浮かべている。


「そうですよ、ドレスの背中の編み上げ部分の代わりに使用します。外からは、あまり見えないようにね」

「この金属製のホックもか?」

「ええ、ファスナーの上部に……」

「このパッチンと留める金属の部品は……?」

「ああ、これはスナップボタンという名前で……」


 一つずつ、私はこれらのパーツを紹介していった。


「ハークス伯爵領では、変わった服を作る予定なのだなぁ。本当に売れるのか?」

「売ってみせます! ようやく技術がちょっとだけ追いついたので、私の楽な着替えのためにも、一般的レベルに広がってもらいたいのですが」

「ん〜? よくわからないが、女性は大変だ」


 ケビンは全ての話を「女性は大変だ」で片付けた。

 おそらく、ファッション分野に興味はないのだろう……が、一生懸命やることはやってくれているのでよしとする。

 最初は嫌な奴だと思ったが、彼は素直に思っていることを口や態度に出しすぎるだけのようだ。

 その素直さが良い方向に発揮できるよう、私はケビンを操縦……いや、誘導……いや、仕事のパートナーとして仲良くやろうと思う。


(ダメだな、この思考。やっぱり誰かさんと一緒だ……)


 リュゼは知らないうちに私に多大な影響を与えていたようだ。嫌でも従兄の存在の大きさを思い知ってしまう。


「そうだ、うちの領地へ来てみないか? ここからだと南東方向か……比較的近いと思うぞ」

「んー、そうですね。現場も見ておきたいですし、ぜひ訪問させて下さい」


 そんな話をしていると、リカルドが部屋に入ってきた。

 ピシッとした仕事着の彼は、いつもより大人びて見え、毎日顔を合わせているにも関わらずドキドキしてしまう。

 客室内にいたケビンは、私とは別の意味でドキドキしているようだった。


「これはこれは、元アスタールの……その節はお家騒動で次期領主の座を追われ、大変だったようだなぁ?」


 微妙に嫌みったらしいケビンは、五年前のパーティーの件を根に持っているようだった。

 あの時の彼は、私に嫌味を言い放った後でリカルドに撃退されたのである。

 素直だが、ちょっぴり考えの足りないケビンは、ここぞとばかりにリカルドに食ってかかろうとし……私の視線に気付いて黙った。彼も成長しているようで何よりだ。


「あ、ケビン様。ご存じかと思いますが、こちらは私の婚約者のリカルドです。リカルド、こっちはダン子爵家のケビン様だよ」

「こ、この度は、ご婚約おめでとうございます……」


 動揺しつつも、ケビンはきちんと挨拶を返す。


「ああ、ありがとう。ケビン殿も相変わらず元気そうで何よりだ。仕事でブリトニーが世話になっているらしいな」

「いえいえ、こちらこそ彼女にはお世話になっておりマス。こんな美しい方とご一緒できて光栄でゴザイマス」


 彼が答えた瞬間、リカルドがずいと私の前に出た。あ、あれ?


「そうだろう、ブリトニーは可愛いからな。それに面白いものを次々に開発する天才だ」


 ケビンに見せつけるように私の背中を支えるリカルド。

 今までにない彼の行動を見て、私は少しだけ……いやだいぶ動揺した。


(ひぇえええ! べた褒め!)


 もしかして、ケビンに牽制している? ……なんていうのは、きっと考えすぎだろう。

 リカルドは真面目で優しい好青年なのだから。


「なんとか、リュゼの許可を貰って来た。そろそろ、ダン子爵領に出かける頃合いだろうから、ブリトニーに同行できるように」

「そうだったの。今、まさにその話をしていたんだよ」

「リュゼも子爵領に興味があるみたいで、行く気満々みたいだったが」

「お兄様……」


 まあ、今のハークス伯爵家なら、数日祖父が留守番していても大丈夫だろう。

 しっかりしたリュゼの部下たちもいるし、伯父や伯母も幽閉中だ。

 私とリカルド、さらにはリュゼまでやってくると聞いたケビンは目に見えて緊張し始めていた。


(そうだよね。三人も押しかけたらビックリするよね)


 そして私も緊張する。二人に無様な姿は見せたくないのだ。

 しっかりとお仕事を遂行しなければならない。


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