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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
17歳

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152/259

151:白豚令嬢と因縁のアイツ

 リカルドとの温泉視察から戻った私――ブリトニーは、リュゼに新しく用意された自分専用の仕事部屋で、王都からの手紙に目を通し笑みを浮かべた。

 今いる仕事部屋は石鹸や化粧品を開発する研究室の隣にあり、客も通せるよう綺麗に片付いている。リカルドも、私とは別に仕事部屋を与えられていた。

 時刻は昼過ぎで、少々眠くなる時間帯だ。


「ふぅん。アンジェラ様、とうとうエミーリャ様と婚約するんだ」


 素直ではないアンジェラが、心にもないことを言って照れている様子が、ありありと脳裏に浮かんでくる。

 だが、しっかり者のエミーリャが相手なので心配していない。彼は、気配りできて包容力もある大人の男性だからだ。アンジェラの伴侶にこれ以上の適任はいない。

 手紙には、婚約発表はもうすぐで、結婚は夏以降になりそうだと書かれていた。


(ということは、やっぱりメリルはルーカスと婚約……?)


 こちらのカップルは、上手くいくのかやや不安だ。

 ルーカスは何を考えているのかわからない上に、メリルはリカルドに惚れていた。

 今は私とリカルドが婚約し、メリルもそのことを認めているけれど、彼女はルーカスに全く興味がなさそうである。


(なるようにしかならないよね。他人の婚約話で現実逃避をするのはやめよう)


 手紙を机の引き出しに入れた私は、これからしなければならない仕事の準備をし、頭を切り替えた。だが、とっても憂鬱だ。


(ああ、嫌だなあ……あの人相手に交渉だなんて)


 リュゼから指示されている、私自身での営業活動や交渉。

 今まで、対外的な仕事の多くは従兄が取り仕切ってくれていた。けれど……

 これからは、前世の知識を元に生み出した製品を自分で売っていくことが求められる。

 時には、嫌な相手にも対応しなければならない。


(これから来る相手が、まさにそれなのだけれど……)


 屋敷の倉庫から引っ張り出した大きめの黒い机に手を置き、同じく大きめの椅子に腰掛けて待機する。足が床に付かないが……気にしない。人生、そんなこともある。

 ドキドキしながら仕事の流れを頭でシミュレートしていると、メイドのマリアが私の客が到着したことを告げた。


 今回は、ハークス伯爵領で私が新たに作ろうとしている衣類関係の製品に関する仕事だ。

 ドレスなどは全国で生産、販売されているものだし、力を入れている領地は他にもある。

 なぜ、今更衣類なのかというと……答えは一つ。

 この世界のドレスが非常に着づらいからだ!!

 編み上げ、編み上げ、編み上げに次ぐ編み上げ! そしてすぐにずり落ちるリボン!

 破れることを気にして動きに余裕のなくなる、質の悪い布!

 モノによっては、一人で着ることなど到底不可能だ。

 料理だって、ウエストをキツく締めれば、ろくに食べられない(ただし、ブリトニーを除く)。

 しかも、少し太れば、縫い目が簡単に破れてしまう(ただし、ブリトニーに限る)。

 王都で様々な女性と話していると、ドレスを着るのが煩わしいという意見や、ドレスを着て出かけるのはキツイから好きではない……などという女子の本音を聞く機会が多かった。

 だから私は考えたのだ。

 簡単に着脱が出来て、ストレッチの効いたドレスを作ろうと!


(太っていても痩せていても、着易さは大事!)


 幸い、南の国のエミーリャやセルーニャを通してゴムの入手に成功した。これをドレスに活かさない手はない!

 あとは、ノーラの領地でファスナーを作ってもらうことになった。

 オシャレは我慢などと言うけれど、そんなものをしなくても綺麗でいられるのが一番だ。

 ……話がそれたが、今日の客はどこからかその話を聞きつけ、服の材料を売り込みに来た相手だった。


(自分が売るだけではなく、他の人が売り込みに来た製品も見なきゃならないなんて。今までリュゼお兄様は大変だったんだなあ)


 前世での私は、押し売りに弱い性格だった。

 必要なら話は聞くけれど、不要だった場合に帰ってもらうのは心が痛む。

 そして、今回の客は微妙に知っている相手なので、上手くやれるかも不安だ。

 ウジウジ心配しながら、私は客を出迎えるために部屋の外へ出た。

 相手が待機している客室の扉を開けると、その音に反応し、見覚えのある青年が長椅子から立ち上がる。

 相手は、十二歳の私が初めて王都のパーティーに出席した際、散々罵ってくれた貴族の息子である。

 ……数年前の話だが、私はあの恨みを忘れない。


「よう、来てやったぞ。デブ!」


 開口一番、私の方を見もせずにこの暴言。あなたは私にものを売る気があるのかと問いたくなる。


(いや、質問する必要もないよね。失礼な売り込みは追い返そう)


 彼なら、罪悪感を抱かず、お断りすることが出来そうだ。


「お帰りはあちらからどうぞ」


 私は優雅な動きで出口を指し示し、にっこり微笑んだ。


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