141:冬がやってきた
それぞれ話し合った結果……
城では、ノーラやメリル、そしてリカルドと私の身を守るため、早めに悪い貴族を捕らえる方向で動くことが決まった。
事件が起こるのはまだ先の予定だが、少女漫画よりもメリルが犯人を目撃したのが早まったため、いつ何が起こるか予測できない。
「俺たちの方でも、可能な範囲で調査を進めるし、アンジェラにもメリル殿下を気に掛けるよう頼んでおくよ」
「そうです。僕の方でもマーロウ殿下と対策をしておきます。ノーラ嬢のことは、ヴィルレイ様にも連絡が必要だね。彼女は単身で王都へ来ているし、実家は遠いから……」
主にエミーリャとリュゼが中心になって、さくさく話を進めていく。
(年長組、心強いな……)
とりあえず、私の記憶のことは伏せて、マーロウやアンジェラ、ついでにルーカスにも注意を促しておくことになった。
「ブリトニーとリカルドは、しばらく外出しないように。部屋には常に護衛を付けるよ。メリル殿下もたぶん、同じ措置がとられると思う」
保護者のリュゼから、私は身の安全を優先するようにと告げられる。
(嫌だけれど、こればかりは仕方がないかも)
何事も、命には代えられない。
「……大人しくしている間でも、できることはあるよね、リカルド」
「ああ。限られた場所でしか動けないが、何もできないということはないはずだ」
静かに決意する私たちを見て、リュゼも頷く。
「そうだね。ブリトニーたちに頼むことも出てくるかも知れないから、そのときはよろしく」
私とリカルドは、気合いを入れて返事をした。
※
数ヶ月かけ、エミーリャとリュゼは相手の包囲網を狭めていった。
(あまり気が合わなそうな二人だけど、やっぱり手を組んだら強いな……)
メリルの証言から足取りのつかめる人物を優先し、怪しい相手を捕らえ、残りの人員を聞き出す。
関係者は、ほぼ捕縛できたものの、肝心の黒幕の証拠がつかめないらしく、メリルの監視係と化しているアンジェラは、たまに私の元に愚痴を言いに来る。
犯人捕縛に関してはできることがないので、ほぼノータッチだが、私とリカルドは街道の設置に関して動いていた。私はリュゼの、リカルドはマーロウの代理として、手伝える部分で仕事をしている。動ける範囲が城の中など限られた場所だけだから、限界はあるけれど……
慌ただしく動いているうちに、季節は冬になっていた。
私の足は完治したが、リカルドとの婚約の行方は相変わらずである。
まだ大きな手柄を挙げられていないリカルドだが、今の状況では何をするにしても厳しい。
(私にできることがあればいいんだけど……)
春まで、あと少ししかないが、私もリカルドも、そのことに関して何も話せずにいる。
そんな中、大きな事件が起こった。
証拠を集められ、追い詰められた黒幕の貴族が自棄を起こし、自分の領地に立てこもってしまったのだ。黒幕は王都の東隣の領地を治める大貴族で、説得にも応じず、勧告にも屈しない……徹底抗戦の構えを見せているそうだ。
ミラルドの事件に続き、不穏な空気が城内に広がる。
王都から兵士たちが送られることになり、マーロウやリュゼも同行することが決まった。
マーロウは立場上、王の代理として行かなければならず、リュゼは彼を手助けする役目を負っている。
(ハークス伯爵領が北の国に攻め入られたとき、マーロウ様に助けてもらった借りがあるからね)
リカルドも同行したいと主張していた。
最初は渋られていたものの、大半の関係者が捕縛されたことや、今更リカルドを襲っても、もう意味がないこともあり、彼の同行は許可された。
私の仕事はといえば、彼らが動きやすいように城で兵士たちをサポートする業務……の手伝いだ。
今回は、城内にある王女の執務室で、アンジェラやエミーリャとの共同作業である。
護衛付きだが自由に動けるようになったメリルも、城内をチョロチョロと走り回り、できる仕事を手伝っていた。
ノーラは今、婚約者のヴィルレイの元へ身を寄せている。これを機に、二人の仲が進展することを、私は密かに望んでいた。
そうして……
いよいよ、王の代理としてマーロウが東の地に赴く日がやってきた。
王都の東を治める大貴族の元へ出向くメンバーを、少し細くなった私は静かに見送る。
「マーロウ様、どうか、くれぐれもお気をつけて。リュゼお兄様は、無理をしすぎないように。リカルドも、怪我しないでね」
アンジェラやメリルも、不安そうに兄である王太子を見つめていた。
「城でのことは私にお任せ下さい、お兄様。立派に父……陛下をお支えいたしますわ! もちろん、お兄様のサポートも!」
「ああ。任せたぞ、アンジェラ」
「はい! メリルに関しましても心配ご不要です!」
「心強いな、ありがとう。ああ、そうだ……ブリトニー」
いきなり話を振られた私は、驚いてマーロウの瞳を見つめる。
「帰ったら、ブリトニーに伝えたいことがある。私は、まだ君を……」
「マーロウ様……?」
……去り際に、小声で危険なフラグを立てないでください。












