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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
16歳

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136/259

135:異性を籠絡する痴女疑惑について

 ノーラのお見合いから数日後、私は城の東の庭でリカルドと会っていた。

 松葉杖がしんどいので、今は東屋の中にある椅子に腰掛けている。

 秋の気配が漂う夏の終わりの時期は、異世界でも少し寂しい。

 オレンジ掛かった髪を正面から掻き上げたリカルドは、天を仰いで小さくため息を吐いた。


「リュゼから婚約の話は聞いた。正直、今の俺には厳しい条件だと思っている」

「半年で、何か手柄を上げろだなんて……リカルドじゃなくても厳しいと思うよ。私に手伝えることがあればいつでも言って。全力で動くから!」

「ああ、助かる。俺は最後までブリトニーのことを諦めたくない。やれることは全てやるつもりだ」

「う、うん。私も頑張るよ」


 決意も新たに、私は松葉杖でスッと立ち上がる。そうして一歩を踏み出したのだが……


「グ、グファ!?」


 勢いをつけすぎて体のバランスを崩してしまった。


「ブリトニー、危ない!!」


 私を庇おうと身を乗り出したリカルドに、思い切りぶつかってしまう。

 体重と転倒の勢いに圧倒されたリカルドは、私を支えたままの姿勢で後方に転倒した。


「……グフォッ!?」


 そうして、今現在の私は、下敷きになったリカルドに覆い被さる体勢になっている。

 しかも、体勢が悪かったようで、彼の唇に思い切りキスしてしまっていた。


(この図は、まるで美青年を襲っている痴女のようでは……!?)


 ショックを受けつつリカルドの上から飛び退こうとしたのだが、いかんせん、骨折中の足に力が入らない。バランスを崩した私は、リカルドの隣にごろんと転がってしまった。


「ブリトニー……」


 横から声をかけられて振り向くと、リカルドが緑色の瞳で切なそうにこちらを見つめている。


「リカルド、ごめん。その……押し倒しちゃって」

「俺から飛び出したんだ、謝るな。それに、ブリトニーに押し倒されるのは嫌じゃない」

「え……?」


 モジモジしながら上体を起こすリカルドだが、そのうち耐えきれないとでもいうように、彼の手がこちらに伸ばされた。

 そうして、私の頭を抱えリカルドが再び口づけてくる。私を抱きしめたまま彼は、小さく声を絞り出した。


「お前になら襲われてもいいし、むしろ嬉しいと思う」

「そ、そうなの?」

「べ、別にいやらしい意味ではないからなっ! 気にするなと言いたかっただけだ」

「う、うん……?」


 照れ隠しだろう、リカルドの緑色の瞳は空中を泳いでいる。


「立てるか?」

「大丈夫、ありがとう。よいしょっ」


 むくりと頭を起こした私に、リカルドが手を貸してくれようとしたところで、不意に二人以外の他人の気配がした。


「ん……?」


 リカルドと同時にそちらを見ると、東屋の外にメリルが立ってこちらを凝視している。


(なんで、彼女がこんな場所にいるの?)


 普段は東の庭で見ないので、今日現れたのは偶然だろう。

 そうして運悪く、私が転倒したところを見られてしまったようだ。


「え、なんで? あ、どうして……わ、私……」


 もともと大きな薔薇色の目をこぼれ落ちんばかりに見開き、メリルはショックを受けた様子で立ちすくんでいた。


(メリルはリカルドが好きだから、この体勢を見て衝撃を受けているのかも……!!)


 何か言おうと急いで立ち上がりかけた私だが、リカルドに「無理をするな」と言われ抱き止められる。彼の手を借りて今度こそ立ち上がった私は、松葉杖を使ってメリルの方へ向かった。


「メリル殿下……!」


 話しかけようとした私を、メリルが遮る。その場にしゃがみ込んだ彼女は、大げさに目を覆った。


「い、いいの! ごめんなさい。私、ちょっと衝撃が大きくて。まさか、二人がそんな関係に発展していたとは知らなくて」

「いや、これは……」

「大丈夫、これは対等な勝負だもの。でも、まさか、ブリトニーが体を使ってリカルドを籠絡するなんて思わなかったけれど」


 その言葉は、少しの批難を含んでいるように思えた。


「あの、それなんですが、誤解ですけど?」


 しかし、メリルは私の言葉なんて聞いちゃいなかった。一人で勝手に妄想を始めている。


「リカルドも、そんな方法に左右される人だったなんて」


 第二王女には、少々どころではなく思い込みが激しい部分がある。

 早く誤解を解かなければならない、なによりもリカルドの名誉のために!


 メリルの誤解を訂正しようと身を乗り出す私を、後ろから歩いてきたリカルドが止めた。

 彼は私を庇うようにメリルの前に立つ。


「メリル殿下。ブリトニーは、あなたの言うような令嬢ではありません。ふしだらな女の対極にいる奴です。彼女を「体を使って異性を籠絡する女」だと貶めることはやめていただきたい。ブリトニーは転んでしまっただけで、その後の行為は全て俺のしたことです。批難するなら俺だけに……」


 私は思わずリカルドを振り返って抗議した。


「リカルドのせいじゃないでしょう?」

「いや、違う。動いたのは俺からで……」

「違うってば、最初に転んでやらかしたのは私で……」


 しばらく言い合っているうちに、メリルも落ち着いてきたようだ。


「わ、わかったわ。今回のことは誰にも言わないし、あなたたちのことをこれ以上どうこう言うことはしません」


 そう言い残し、彼女はヨロヨロと東の庭を去って行く。

 儚げなメリルの背中は、それ以上の言葉を拒んでいる風に見えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに身体を使って落とした(笑)
[気になる点] メリルはブリトニーが誰のせいで1ヶ月も不自由な生活をしてると思ってるんだろう。誰を助けたせいで少しのことで転けてしまうくらい酷い怪我を負ったと思ってるのかな?人のことを避難する前にもう…
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