127:救出された白豚令嬢
リカルドに励まされ、不思議とさらに元気が出てくる。
「……うん!」
「じゃあ寝ろ、少しでも寝ろ。いびきをかいても大丈夫だぞ?」
「でも、リカルドは?」
「なるべく外を見張る。翌日に体調を崩さないよう、眠れるときに寝ておけ。俺はお前よりも体力があるし、起きていてもなんとかなる」
「ありがとう」
ただでさえ足を怪我しているのに、体調まで崩して帰り道で足手まといになってはいけない。
私は、リカルドの言葉に甘えて眠ることにした。
翌朝早く、私は肌寒さを感じて目を覚ました。雨音はいつの間にか止んでいる。
まだ生き物も動き出していないのか、静かな朝だ。
背後に暖かな体温を感じ、昨日リカルドに守られながら眠りに落ちたことを思い出した。彼がもたれかかっているようで、少し肩が重い。
リカルドの様子を窺うためにそっと視線を動かすと……私の肩に顔を埋めて眠っていた。
「……あれ、寝ちゃったの? 山道を歩いて助けに来てくれたし疲れたんだね」
ちょっと微笑ましいなと思っていると、声に反応したリカルドがゆっくり頭を上げた。
「う……ブリトニー? 寝てない、俺は起きてる。ちょっと休んでいただけだ」
「少し寝たら? リカルドのおかげで、私はきっちり眠れたし」
「だから、起きていると言っているだろ? 本当にさっきまで意識があったんだから。明るくなってきたし、狼煙を上げてみるか」
リカルドは木から外に出て、天幕にある荷物から狼煙を三本持ってきた。
火をおこす道具で同時に点火し、天幕の横に置く。
「それ、どういう道具?」
木の中からリカルドに声をかけると、戻ってきた彼が説明してくれた。
「中に馬の糞が入っているらしい。大きめの筒だが、煙の量や燃える時間は少ないだろう。本当は、これらと燃えやすい葉などを組み合わせて使うようだ」
「私たちの無事が伝わるといいね」
「救助が来ないなら俺が運んでいくから、心配しなくていい。ただ、ブリトニーの足のことが気がかりだ」
頼もしいリカルドは緑色の瞳を細めて私の足を見、難しい顔になる。
「赤く腫れ上がっているな。負ぶっていくと負荷がかかるだろうか?」
「膝下だから大丈夫だと思う……ん?」
木の中から空を見上げると、大量の煙が上がっているのが見えた。
「……おそらく、向こうの狼煙だな。こちらの合図が見えたんだろう」
「そっか、じゃあ救助が来てくれるんだね?」
「ああ、そうだな」
リカルドは私を安心させるように微笑み、木々の奥へと視線を向けた。
しばらくして太陽が中天に差し掛かった頃、少し離れた場所から人の声が聞こえた気がした。
素早く反応したリカルドが再び狼煙を上げると、徐々に声が近づいてくる。救助が来たのだ。
雨に濡れた草木をかき分ける音や、ぬかるんだ地面を歩く足音も聞こえてくる。
「ここだ!」
リカルドが声を上げると、足音がこちらへ近づいてくる。
すぐに数人の兵士たちとリュゼが現れた。
「リカルド、ブリトニー! 無事で良かった……怪我は?」
リュゼの問いかけに、リカルドが答える。
「ブリトニーが足を骨折したかもしれない。赤く腫れているんだ」
「わかった。すぐに近くの村へ運ぼう」
私は、木の外から外へ出ようとし……またお尻が穴に詰まった。
(嫌ー! 大勢の前で、恥ずかしい!)
リカルドに引っ張られてやっと外に出ると同時に、リュゼが駆け寄ってくる。
「大丈夫かい? 足は痛む?」
「はい、痛くて動かせません」
「リカルドの言うとおり、骨折かもしれないね。ブリトニー、自分で応急処置をしたの?」
「そうです。後でリカルドにきれいに処置しなおしてもらいました」
リュゼは絶賛太り中の私を抱き上げて、来た道を戻ろうとする。
「ありがとう、リカルド。君のおかげで、ブリトニーは助かった」
「気にするな……いても立ってもいられなくて、俺が勝手にやっただけだ」
リカルドは、名残惜しそうに私から離れた。
(私も……もう少し彼と一緒にいたかったかも)












