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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
16歳

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125:待つ者と動き出す計画(リュゼ視点)

 雨の降りしきるのどかな山村で、僕――リュゼ・ハークスは足止めを食らっていた。

 暗闇の中、どうにも落ち着けずに外の景色を眺める。


(ブリトニーやリカルドが心配だな。無事だといいけれど)


 今すぐに飛び出してブリトニーの捜索を行いたいが、冷静なマーロウ殿下やエミーリャ殿下に止められた。

 今の「ハークス伯爵」という身分が、危険な場所での勝手な単独行動を許さない。

 見通しの悪い雨の夜に山の中に入り、自身にもしものことがあれば……ハークス伯爵領は立ちいかなくなる。

 仮に僕もブリトニーも死亡した場合、他に領地を継げる人間もいない。

 僕の両親は投獄中だし、ブリトニーの父親は行方不明。祖父がいなくなれば、最悪お家断絶状態になるだろう。

 周囲からは、「早く結婚して跡取りを」などという声もあるが……思うところがあって、実行を引き延ばしている。

 荷物を整え次第、単身で飛び出して行ったリカルドが少し羨ましい。

 彼はマーロウ殿下の側近候補だけれど、代わりはいくらでもいる地位だ。


(僕は……行けなかった)


 自分の肩に伸し掛かる責任の重さを知っていたから。大切な従妹の元へ駆けつけることもできない。

 明日の朝一番に動けるよう、すでに準備は整っている。


(思いつく限りのものを、リカルドに渡したけれど……大丈夫かな)


 あとは、とにかく崖から転がり落ちたブリトニーの無事を祈るばかりだ。

 分岐点の近くとあって傾斜はそこまで急ではないが、かなり下まで落ちてしまっているようで、崖の上からブリトニーの様子を確認することはできなかった。

 知らない場所で、夜に一人山の中に取り残され、彼女はどれほど心細いだろうか。

 どうか、無事でいて欲しいと願う。はらはらして落ち着かない気持ちをなんとかしようと、僕は無理やり他のことを考えた。


 脳裏に浮かぶのは、南の国の第二王子セルーニャの言葉だ。

 彼は、なんの関わりもないブリトニーのことをよく知っているようだった。

 こちらからはなんの情報も与えていないし、普通に彼女のことを調べただけではあんな話は出てこない。ブリトニーが前世の記憶を持っているなどという話は……


(あのことを知っているのは、僕だけだったはずだ)


 かつて、彼女自身が話してくれた。

 ブリトニーに前世の記憶があることが広まるのは良くない。

 もし、それが真実味を帯びて周囲に知れ渡ることになったら、きっと彼女は狙われる。

 ここよりも文明が進んだ場所の知識を求める者たちに。

 僕自身も半信半疑だったが、今のブリトニーは明らかに普通の十六歳の令嬢ではない。

 だから、彼女の記憶について知ってからは、婚約先を選ぶことに慎重にならざるを得なかった。


(……このまま、うちに留まってくれるのが一番なんだけど。いろんな意味で)


 セルーニャは、ブリトニーに特別思い入れがあるというわけではなさそうで……「彼女を助けて欲しい」などと口にしていた。

 そして、その際に彼自身が前世の記憶を持っていることも明かしている。

 南の国が、最近急激に発展しているのは彼の知識が原因のようだ。


 今のところ、セルーニャは平和的に国内を発展させることに知識を使っているようだが、ある意味脅威ではある。そして、うちのブリトニーも同じ。

 彼女の知識の大半は、人々の健康を守るものや美容に関するものだ。

 けれど、稀にそうではない知識を口にしていることがある。


 水路建設の時に、「どうせなら、ハークス伯爵領の中央にある湖から王都付近の海へ抜ける運河も作りたい」などと言っていた。それから、街道整備と並行して「誰でも使える駅を作りたい」とも。

 駅があれば中央と地方との情報伝達が格段に速やかになる。

 けれど、ブリトニーが言っているのは、そういう駅ではない。


(緊急連絡の際に使う、伝令専用の簡易駅なら今でもあるけど……普通の人々が使う移動用の駅みたいなんだよね)


 街道ができてからの交通量などを調べて、検討していこうとは思う。


(でも、どこからそんな発想が出てくるんだ……いや、ブリトニーのいた世界では、それが普通だったのかな)


 多くの庶民が普通に温泉や風呂に入り、未知の美容品が溢れ、駅へ行って金さえ払えばいつでも誰でも決まった場所まで運んでもらえる世界。識字率が高く、子供でも桁数の多い算術が簡単にできてしまう世界。

 そんな場所なら、大きな運河など当たり前にあるのだろう。同じことがこの国で実現すれば、たしかにメリットは多い。ハークス伯爵領の問題にしたってそうだ。

 例えば、運河ができれば王都への荷物や人の輸送の負担が格段に軽減される。今は船で品物を王都に運ぼうにも、領地の西の海が荒れていて……天気や季節によっては輸送が大幅に遅れてしまうのだ。

 そのこともあって、主に陸路で王都へ行くのだが、色々と時間がかかってしまう。

 王都付近の海へ抜けるには、少しだけアスタール伯爵領にも運河を通さなければならないが、彼らはハークス伯爵家に友好的なので協力してくれるだろう。

 いずれにしても、他領の協力や多くの資金は必須。今すぐ実行に移すのは難しい。


 運河と違って街道の方は近々全国的に建設が始まる予定だ。ハークス伯爵領の街道整備とは桁違いの……国の北と王都と南を一本の巨大な道で繋ぐ計画である。

 とはいえ、どこに道を通すのかで、各地の領主たちはもめていた。

 街道が通る場所は、人の行き来が増えて栄える、各地の領主たちがこぞって自分のところに道を通そうとするのだ。


(ハークス伯爵領は辺境の終着点だし、自分のところから主要な街道への道を通すだけだから、あんまり関係ないけど……通過地点となる領地は、自分のところに巨大な道を通そうと躍起になっているんだよね)


 交通の便から考えればアスタール伯爵領が一番の候補だ。けれど、それを歪めて自分の領地に道を通したいと主張する領主や、迂回させて自分の領地を含めろと本末転倒なことを言う領主もいる。

 計画に噛んでいるマーロウ殿下は、そのことで頭を悩ませているようだ。今回の南の国への旅へは、その視察も含まれていた。

 ちなみに、王都の北側はすでに視察済みとのこと。

 予定が押しているので、彼とメリル殿下、エミーリャ殿下は先に出発することになりそうだ。


(とにかく、ブリトニーに無事でいてほしい……)


 僕は、何もできないこの身が不甲斐ないと思うばかりだった。


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